反乱の結末と忙しい日々
「陛下、オンルリオが参りました」
「あ、ああ」
夢を見ていた訳ではないのはつねって分かった。
いよいよ最後の時が近い。俺は今一度気を引き締める。
死ぬ事は死ぬのは間違いない。油断をしてられない。
王になった以上無責任にコウヨウの民をおいてはいけない。
「陛下、ただ今戻りました」
「オンルリオ、ご苦労だった。嫌な役目だったろうによく成し遂げてくれた」
俺は王の間に入ってきたオンルリオを迎える為、
玉座から降りて近付き手を取った。
オンルリオの顔は当然ながら晴れ晴れとはしていなかった。
とても複雑な面持ちだった。
反乱に与したと見せかけて打ち合わせをしたオンルリオの
兵士たち二百は、逃げるヨウトを追いカイヨウ方面まで追撃。
セイヨウとカイヨウの中間地点で接敵し、
ヨウトの部隊と交戦に入った。そして全滅させたとの事。
その部隊にトウシン以外の兵士や身分の高い者が
居たかどうか尋ねたが、オンルリオは答えない。
分かりきった事を聞いてしまった。
アーサーへの使者として向かったガロムの時や
アーサーとの会談の時もそうだったが、
俺は人を見る目が中々無いらしい。
「……憎いとは思っても実際断を下したところで何も晴れはしない。自分と同じ目かそれ以上に遭ったところでどうかというところだよな」
「はい……」
結局のところ自分でそれを見つける他無い。
正直相手を恨むより相手より幸せになる事成功する事が、
一番葛藤を解消できるのではないかと今の俺は思っていると
オンルリオに伝えた。心の揺れが緩やかになったように
笑顔で王の間を後にした。
「王になったから言える事なのか……」
そうここに来る前の俺は無職引き籠りニートである。
自分の中の不幸や葛藤を何一つ解決解消できないまま
この世界に来た。それが今は解決解消に手を貸す側に
なっていたりアドバイスしたりするようになっている。
思い描いていた成功というか、人生の進み方というか。
元の人生で足りなかったものはなんなのか、何となく分かる。
「ナルヴィ」
俺の声に反応して王の間にナルヴィが入ってくる。
「早速尋問部隊以外は三交代させ休暇を取るよう指示を。国の護りを忘れないように。それとホクリョウとトウチ、セイヨウとカイヨウに連絡。反乱は鎮圧したと」
「私と父上、それにファニー様と恵理で全て済ませました。陛下もどうぞお休みください」
「なんというか休む気になれないな……」
「心中お察しいたします。ですが」
「……分かった。何かあれば直ぐ起こしてくれ」
「はっ!」
俺はそう言って王の間を後にする。
外にはイシズエやトロワ、ロキにロンゴニスとアゼルスもいた。
皆手に紙を抱えて待っていたので、それを受け取ろうとしたが、
どうやら違うらしくどうぞお休みをと言われた。
あまり強引に受け取っても邪魔になるので、
すまないが任せると言って下へ降りる。
途中で恵理やファニーに捕まり
そのまま風呂に沈められた後就寝。
翌朝、というか翌日の昼手前に目が覚めた。
王の間に行くと相変わらず人の出入りは激しい。
抜けたポストの穴埋め人事やその他復旧にと
時間は幾らでも欲しいほどだ。
追悼や慰霊祭も滞りなく済ませ、
体制を立て直すまでの間、交代でトウチと
ホクリョウの兵を入れ替えまた新兵を鍛える。
俺自身も何度も両方に遠征している。
特にスカジは問題が大きい。
最早スカジ兵というよりヴァルキリーの集団だ。
これに対してナルヴィとカムイの発案で、
対ヴァルキリー部隊を編成。
巨人族は元々体力と腕力に長けている。
それを利用し五人一組になりヴァルキリーを
確実に退ける作戦に出た。
こうして繰り返し凌いでひと月。
戦線は膠着しているかに見えてそうでもない。
幾らスカジとは言え人口は無限ではない。
生贄が尽きかけたと見える。
仕掛けてくる回数が減った代わりに、
スカジの同盟国であるトウシンから
亡命を求める者たちが出てきた。
暴竜砦に詰めかけたトウシンの民を
毎日追い返している。
中にはうちから国外追放になった者もいた。
俺は関所から横に広がりトウシンの民を
一人たりとも入れるなと指示。
また塀の建設にも着手した。
亡命を求める民の代表とかいうのと話をしたが、
とてもじゃないが話にならないので
追い返してる。
言い分はこうだ。
”以前コウヨウの民には物を買い
コウヨウが栄えるよう協力してやったのだから
自分たちが住む権利はあるし、
富を分け与えられてしかるべき”
およそ助けを求めている人間の態度とは思えないので
取り合う気はない。
建設も順調に進み更にひと月。
作業に協力し出来れば賃金を頂きたいと
願い出るトウシンの民のみ仕事を与え、
更に優秀なものには亡命を認めると告げると、
塀の建設は加速度を増した。
「よう」
更に月が経ち反乱から三カ月。
本国や周辺領土も落ち着きを取り戻し、
対外対策も進化していく中で来訪者があった。
「……随分と気軽に来たな。元気か?」
俺は知らせを受けて急いで戻ってきた。
正直顔をあわせ辛いのもあってナルヴィに
任せようかとも思ったが、恵理とファニーが
迎えに来て引き摺られるように戻ってきた。
ガンレッドも丁度体調が思わしくないようで
顔を見ておきたかったのもあったし、
諦めて出迎えた。
「お前のお陰で我が国はやっと立ち直った。アインスとハンゾウには特に世話になった」
白髪に白髭を蓄えた威厳のある王、
アーサーは前より随分と気軽な感じになっていた。
ふっきれたのか何なのか。
俺は取り合えずアーサーとお付きの騎士を本城まで
案内した。勿論あのエムリスも居た。
心なしか彼らはバツが悪そうな顔をしている。
俺もバツが悪いと言えば悪いが。
「今日はどうしたんだ? 物資が足りないなら融通しよう。気兼ねなく言ってくれ」
俺は敢えて平静を装い過度に
世話やきにならない程度に提案した。
「ああ、それはとても助かる」
そう答えて穏やかに微笑む。ああ怖い。
王様の先輩にそういう顔されるととても穏やかではない。
「さて、折角来てくれたんだゆっくりしていってくれ。俺は生憎用があって一日抜けるが、直ぐ戻る」
「そうか、なら同行しよう」
「いやいや野暮用なんだ。寧ろ長旅を癒して貰いその後お互いの近況を尋ね合おう。敢えて言うなら俺は暇で近況を語る内容も無いので探してこようと思ってな」
「口数が多いな」
……こういう時黙っていられるほど図太くないのが困りものだ。
つい沈黙に耐えきれずまた追及の手を潰したくて余計な事を
喋ってしまう。
「ああすまない。久しぶりでテンションが上がって」
「そうではなかろう。前から国の団結においてはコウヨウかカイヨウか。以前なら国民の武においての意識や貧困などから我が国に一日の長はあった。が、今や戦闘経験を勝ちも負けも繰り返し経験し内乱も乗り越え、錬度はどの分野においても精強。恐らく並みの相手なら居眠りしていても勝てるであろう。我らが苦戦したヴァルキリーそしてスカジ兵を最早ものともしていない。的確に対処し経験者を多く帰還させている。戦争においてそれは何にも勝る」
穏やかに語っているが、アーサー以外なら
ブチギレているだろう。
自分の国を援助しただけでなく、それとなく防衛もし
更に敵国の一部を取り込んだりと上手く包囲網を
いつの間にか完成させられているんだから。
それも国民感情からしたら助けてもらっている、
という意識があってなんなら統合をと思う者もいるだろう。
はっきり言って意図はしていない。
ジェルジオ侯やルーテルの加入は大きく、
彼女たちの運動もあってスカジのレジスタンスと繋ぎを付け使い、
生贄を減らし情報を聞き出し研究は速度を増した。
相手が手を打ってきたら即座にそれに対応しと、
ジェルジオ侯とルーテルの指揮と研究が特に
素晴らしい。ナルヴィとカムイも頭を下げて共に研究し
対策を練った。その結果ドンドン領土は上と横に広がって。
「はっきり言って抗議などという無様な真似はしない。だがあまりにも鮮やか過ぎて文句の一つも言いたくなったのだ許してほしい」
「いやいやいや」
それ以外に言いようがない。
そういう風に流れちゃったとしか言いようもない。
ジェルジオ侯にはスカジ方面の領土を客将として一任している。
俺は周りに助けを求める視線を送るが、
皆目を瞑りつーんとしている。
「更にコウ王、君は私に隠しごとをしているな」
「ないな」
「……あるからこそ私は直接来たのだ。流石に剣を置いてはいけないので持参してはいるが、心持剣は国に置いてきている」
「そうか。なら存分に我が国で羽を休めてだな」
「反乱の事だ」
「無事鎮圧した」
「知っている。ヨウトという人間が主犯だそうだが」
「さてな」
「それをそそのかし手を貸したものがいるのではないか?」




