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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
無職のおっさん戦国記

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法の神は死の先を問う

「随分と聞きわけが良いですな」


 取り押さえていたドノヴァンは、

眉間に皺を寄せて低い声で俺に問う。


「だそうだヴァーリ殿」

「そうだな……。俺は生まれも異質だしな。はっきり言うならオーディンに親近感は全くないが、こいつには興味があるし、法にも興味がある」

「トウシンに法は?」

「商売が基準だ。だがお前たちとの商売が立ち行かなくなり、更にフリッグ教団が出てきた事で何を思ったのか今度は兄者を拝んで法の基準にする始末」

「元々バルドルを祭り上げていたんだから当然の帰結のような気がするがな」

「そう言われると身も蓋もない」

「……要するに就職希望という事で宜しいですかな?」

「生憎兄者が生きている事を想定していない生まれなのでね。兄者をどうする事も出来ないし、兄者も持て余していたところに今回の件だ。お互い渡りに船だった」

「運命を変えた呪いか」

「それは違うと思うがな。この世に絶対は一つだけ。それは命は消えるという事だけだ。思想とかは残ったとしてもそれは生きている、命があると同義ではない。本人が生きていたら生きて解釈している人間たちとは全く違う事を言うと思う」

「死人に口なし」

「そういう事だ。それを基準にするなんて俺にはナンセンス過ぎて理解出来ない」

「……神の言葉とは思えませんな」


 ヴァーリはドノヴァンの言葉を聞いて声をあげて笑う。


「盲目に信じた結果がこの死滅寸前の大地だったと理解しない、それがフリッグ教団の誕生と繁栄を許した理由だ。そういう盲目的な子飼いであればこそ存在価値があるとし、それを利用する事で異文化を滅ぼす事も何とも思わない集団が出来上がる。考える事を放棄して祈るなど死んでいるのと大差ない」

「そう言うな。支配されるものには中々気付かないものだ」

「確かにな。支配される方が考えなくて楽で良い。その点お前の元居た国は良い。神がいるのに神に縛られず、さりとて身近にいる。本来ならそれで良いんだ。生活まで縛っても結局は死ぬし死んだ後の事など誰も分かりはしないのさ。何故救われる天国に行けるなどと分かるんだ死んだ事も無いのに」


 ヴァーリは呆れたように鼻で笑う。

俺もつられて笑った。

そう、絵に描いたように地獄で苦しむかもしれないし、

暗闇で誰もいない空間かもしれない。

はたまたお花畑かもしれないし、

ひょっとすると異世界で王様になる事もあるかもしれない。


「まぁお互いこの場では生きているんだ。考えて考え抜いて終幕までは思うように生きようじゃないか。それ以外に何が出来るのか」

「まったくだ」

「お前には言っておくが、最初に天秤を動かしたのは遥か上に居る奴だという事を忘れるな」

「切っ掛けはそうだとは思うが、今は少し違う気もしている」

「……どういう事だ」

「……いや独り言だ。で、あの軍はどうする。といってももう敗走を始めているが」

「まぁ好きにしろというのはあまりにも印象宜しくないだろうから、俺の身一つと引き換えにここから先は見逃してもらえると有難い」

「忠誠を誓うか?」

「法務に対してはな」


 俺がおどけて忠誠を誓うか問うと、

ヴァーリも声を低くしておどけて答える。

ノリが良い神様である。……ここでは元神になるのか。

 それからほどなくして捕えた者たちを解放し、

ヴァーリの降伏を受け入れて助命する旨を伝え

歩いてトウシンへ帰るよう促した。

ただし帰る前に我が領土に触れようものなら容赦しないとも。

国に帰ると早速ヴァーリに軍法や国法のチェックをしてもらい、

俺はその間に今回の反乱に関する処罰を一通り行う。

家族に関しては従来通り財産没収の上で国外追放。

直接参加した者は年齢の有無にかかわらず処刑、

と言いたいところだが、二度と俺の国に関係するところには

いさせないよう似顔絵や反乱を起こした事が解るよう、

特別な刺青を入れて国外追放とした。

俺がやっても嫌なのに、部下に味方だった者の

命を奪えというのはどうしても出来なかった。


「今後はそれに関して明確に法に記すからな」


 ヴァーリは呆れたようにそう言って一筆加えて

俺に預けて王の間から出て行った。

”反乱に関しては首魁及び腹心一族郎党全て死刑。

軍及び部隊を率いた者、そそのかした者も同上。

つき従ったものに関しては尋問を行い、

量刑を十五年から無期懲役の範囲とする”

 正直気は進まないが、記しておかないと

やり得になって無用な混乱を起こしかねない。

法を任せるつもりで頼んでいるのもある。

今後の為にも誰かがしなければならないだろう。


「ノブレス・オブリージュ、か」


 俺は呟いて判を押す。

クロウディス王もやはりこんな感じな気持ちに

なりながらも王をしていたのだろうか。


「ヘラクルスさんも元気かなぁ……」


 一応書類に目を通し判を押しつつ振り返る。

冒険者の時には考えもしなかった事を考えるようになった。

俺が切っ掛けで戦争になりそうなったり

その事態も回避したり、思えば凄い事ばかりだ。

前にこんな事を望んだ事は無かったけど、

そういえば当時インターネット小説が流行っていたな。

どんなだったか。


「異世界人になろう冒険者になろう勇者になろう王になろう。次は何になろうかな」

「神になろうってのはどうかな」


 王の間に知らない声が響く。

それに視線を向けると銀髪に欧米人と日本人の

ハーフのような顔立ちのイケメンが、

ワイシャツにスラックスというなんともゆるい感じで現れた。


「お断りだね」

「そう? 出来ると思うけどね」

「したくないね。永遠に生きるなんて御免被る」

「そっか。なら仕方ないね」

「あっさりだな」

「強制は絶対にしない、と言いたいところだけどそうは言えない。ただ譲れないところはあるだろうから、君も譲る代わりにこちらも譲る」

「俺は何か譲ったか?」

「それは最後の問答で。予定より遅くなったけど辿り着くね」

「まだ決まった訳じゃない」

「勿論。ただ辿り着かないといけない覚悟は出来ただろ?」

「覚悟を問いに来たのか」

「そう。迷いが見え始めたんでね。色々思って優しめにしたけど、ここでズバッと言っておかないとと思って」

「優しめにした……これで?」

「当然だよ。甘甘だと思うけどね実際。そうなるように組んだし。アーサーもオーディンも最初はそうだったんだ」

「でも死ぬんだよな失敗したら」

「そこはちゃんとしてある。正直想定外があって手は貸していてもね」

「死んだらそれまでか」

「死は平等に。……どうやら迷いは晴れたようだね」

「さぁな」

「良い顔色だ。作業は完了した。僕はこの辺で。また会おう」


 銀髪の青年が手を掲げると、青白い光の細い柱が天井から降ってくる。

徐々に青年を埋め尽くした後、現れたのは大きなローブと

大きな賜杖の上に緑の珠が付いたものを握っていた。


「次に会う時は僕の正装であるこの姿で最初からだ。それまで楽しんでくれ」


 何もない空間から突如現れた白いフクロウが

俺に向かって飛んできて視界を潰された。

追い払い前を見ると誰もいなくなっていた。

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