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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
アイゼンリウト騒乱編

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熾烈な戦い!

 剣撃がリズム良く合わさる。

互いに相手を斬り伏せるつもりで振るっている。

相手は無敵では無い。

体力にも限界がある。

剣の強さも同等。

差があるとすれば体力と素早さ。

それを互いに承知していた。

だからこそ、俺達は互いの戦い方をする。


 俺が二振りすると、アーサーは四振り返してくる。

だがこれはあの激痛に耐えたお陰なのか、

剣筋が良く見える。

それに合わせて小さく最小限の動きで捌き、

反撃する。

アーサーも流石前王と共に戦場に居ただけあって、

剣となった王よりも戦いが巧かった。

こちらが合わせようとすると、絶妙にタイミングを

ずらしてくる。

俺もテンポをずらし、斬るパターンを変えて

反撃するが捌かれる。

一進一退。

互いに体力を少しずつ削っているだけだ。

 

 俺は切り札を出していない。

剣になった王に出そうと思っていた切り札。

命と魔力、全てを剣に捧げた一撃を放つ。

その為には大きな隙が必要だった。

恐らくこれまた相手も似たようなものだろう。


「アンタ魔族か?」

「混ざりモノだ。転生した時は魔族だが、来る前は人間だ」

「そのアンタは生きているのか?」

「何?」


 俺は隙を突き、アーサーの肩を捉えた。

が流石に貫けず、浅めの切り傷が出来ただけだった。


「私を混乱させて隙を作ろうと言う魂胆か?」

「いや、気になったんでな。アンタが生きてたら、人として転生とかをしたんじゃないかと思ってな」

「……人として転生したら何だと言うのだ……」

「人として転生したら、アンタは真っ当に生きたんじゃないのかなと」

「だからなんだ!」


 剣撃が粗くなる。

解り易い動揺の仕方だな。

粗ければ粗いほど、力を逃がせる。

受けたと思わせた瞬間、剣で流れを変える。

多少の違和感も今のアーサーには気付かない。

そして俺は二振りではなく三振り、

一撃目で黒隕剣を袈裟斬り、間髪入れずバルムンクで

逆袈裟斬りを、そして返す黒隕剣で突く。

アーサーは距離を取るが俺は逃がさない。

懐ギリギリまで間合いを詰めて、インファイトに持ち込む。

この状態であれば、剣は使い辛い。

そして俺は力と魔力に特化している。


「ぐあっ!?」


 アーサーの鳩尾を的確に黒隕剣を握りながら拳で一撃。

くの字の態勢なった所をバルムンクの柄で突き上げる。

よろめきながらめちゃくちゃに飛び退くも、

俺はそれを食らいついた犬のように間合いを離さない。

めちゃくちゃに二剣を振りまわすも、綺麗にかいくぐり、

次はバルムンクの柄で肝臓目掛けて叩きつける。

こういう時に引きこもりで、暇を持て余していた事が

役に立つ。

漫画の知識だが、今それを実践するだけの能力がある。

一刀の元に切り捨てられないなら、先ずはその土台を。

相手が完全に動きを止めざるを得ない状態にする。


「ぬあああっ!」


 爆風と共に俺は吹っ飛ばされた。

黒いオーラのようなものを纏ったが、

俺は直ぐに間合いを詰める。


「何故だ!何故私の世界で私が有利にならない!?」

「そんなものは自分に聞け!」

「何!?」

「アンタの物語の結末だよ」


 俺はオーラ越しに腹に攻撃を加える。

どうやらオーラ越しでもダメージは弱まるが

通るようだ。


「ちくしょおおおっ!」


 苦し紛れの一撃を寸での所でしゃがんで交わす。

髪の毛が少し斬れた。

少なくも無いが多くも無い髪を斬りやがって。

俺はそのまま腹に頭突きをするように突っ込む。


「ぬぅ!」


 腹を抑えつつ、アーサーは俺を追い払うように、

剣撃の幕を張る。

俺は自分の体力の回復も考えて、一旦距離を取る。

しかし無駄な体力を使うな。

俺の倍はあるのかもしれない。


 俺はセコイ作戦だとは思ったが、背に腹は代えられない。

飛び込むフェイントを細かく入れて、剣撃を止めさせない。

勿論行ければ行こうと言うフェイントだから、多少体力は

要るが、今は消耗させるのが大事。

相手と違ってこっちは一度しかない命だ。

それにここで俺がこいつを終わらせないと、

皆の明日がめちゃくちゃにされる。

体裁も何もない。

正義の味方を気取るつもりもない。

どんな方法を取ってでも倒す。

その後の事は姫が居る。

姫が居れば国は立ち直れる。


「そうだろう、姫の両親」

「何!?」


 俺の問いかけに剣撃が止まる。

それは明確な隙。


「ああああああ!」


 俺の黒隕剣の光の剣身は、アーサーの腹を貫いた。

だがこれで終わりじゃない。


「消えろ!」


 俺は大きく振りかぶり、黒隕剣とバルムンクを振り下ろす。


「ぐおぉ」


 アーサーは剣を捨て飛び退く。

斬り込みが浅い!

だが堕天剣ロリーナとキャロルは今俺の前にある。

間抜けにも取りにくれば終わるんだけどな。


「良いだろう。俺がただ長い年月を生きてきた訳ではない事を教えてやる」

「変身でもするのか?」

「……一々癇に障る野郎だな貴様は!」


 そう叫ぶと、纏っていた黒いオーラは

アーサーの体に吸い込まれ、肌の色を変えて行く。

脈打つように体のあちこちが膨らんだりしぼんだりを

繰り返していた。

スライムかこいつは。

俺は黒隕剣とバルムンクを下に向け、目を閉じ

回復に努めると共に、相手の気配を感じようとして見た。

今までよりもドス黒く、悪意の塊が前に誕生しようとしていた。

とても解り易い悪だ。

まさしく童話のような。


「最早、お前ごときでは私を捉えられないぞ?」

「しらんがな。やってみろ」


 目を閉じたままそういうと、それは近付いてきた。

一瞬だった。

地面を蹴り体を浮かして、腹に受けた衝撃を和らげる。

痛い事は痛い。

でも何故か目を閉じてもハッキリと解る。

形さえも見えるようだ。


「おらおらおらおら」


 剣では無く拳で殴りかかってきた。

斬るまでも無いと思っているのか。

俺は風を切る音を頼りに、紙のように

流れに逆らわず避ける。

少しずつ体力も回復してきた。

そろそろか。


「馬鹿め。そのまま黙ってかわしていればいいものを」

「一発入れば終わりなのは剣でも拳でも同じだろ?」

「敢えて死にたいなら望み通りにしてくれるわ!」


 目を開くと、そこには悪魔然とした者がいた。

レッサーデーモンよりも上半身が大きく筋力もありそうだ。

下半身は同じ位だ。

力押しで来る。

アーサーはキャロルを振り上げ振り下ろす。

間合いでは無い所で。


「くあっ!」


 俺はすれすれで避ける。

カマイタチのようなものが飛んできた。

前髪が少し斬れた。

ボサボサ気味だったから良かったのか、

ギリギリおでこには触れていなかった。

それを見て次々にカマイタチを放ってくる。


 これは参った。

カマイタチを掻い潜りながら間合いを詰めれば、

カマイタチではなく、あの二振りの剣を叩きこまれる。

避けられたとしても、風圧で吹き飛ばされ、

大きな隙が出来てしまう。

攻防一体ってワケだ。

 しかもあの姿からしてスタミナ切れは期待できそうもない。

この戦いで二度目の手詰まりだ。

どうすれば良い?

どうすればあれを打ち破れる!?

王とその妻に語りかけて自由を奪う方法も、

あの姿になったアーサーに制御されていて

期待できない。

 

 カマイタチをいなし、かわしながら俺は途方に暮れつつも

無い知恵を絞りだそうとしていた。

その時、


「おっまたせー!」


 ガラスが壊れる音と共に、天井から変な人が降ってきた。

何の前触れも無く現れた見た事の無い……ん?


「ナイスタイミングみたいだね!お待たせ!コウ!」


 俺はその女装したと思われる人物をまじまじと見る。

何処かで見たような。

元の世界の知り合いか?

というかこの緊張感の無さは一体何なんだ?


「あちゃー忘れちゃったか。色々あったもんね」

「え?あ、ああ」

「おほん、お兄さんこれ余りモノで良かったら食べて下さいな」


 ん?

 んん?


「あー!」


 思いだした!

最初に道端で座り込んでいた時に、食べ物を分けてくれた人だ!

何でその人がここに!?

あの時は気付かなかったけど、女装が趣味の人だったのか!?


「久しぶりだね。僕が挙げたスープの味は美味しかっただろう?何せあれは秘伝の増強剤をタップリ盛り込んだスープだからね。ちなみに中身については墓場まで持っていくつもりだから教えないよ」


 ウィンクしつつ笑顔でそういう女装の人。

声は女性っぽいんだよなぁ。

年下だから、声変わり前って可能性も……。


「ってちがーう!ここに何しに!?どう言う事!?」

 

 天井から飛び込んできた、俺がこの世界で一番最初に

優しくしてくれた村の人。

混乱しつつも、童話は最後のページへと移るのだった。

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