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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
無職のおっさん戦国記

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終局へ至る踊りの中で

「感謝するし、褒美も与えるが」

「いいえやるべき事をしただけですので」

「……宰相の名に相応しい働きだった。ただ他から嫌な眼で見られるだろう……」

「お気になさらず。陛下に王の座を譲り、私も失敗を繰り返してきました。にも拘らず陛下は私を高く評価して頂き宰相にまで取り立てて頂きました。その信頼と評価に答えたまでです」


 俺はそれに対して何と答えたら良いか

言葉に詰まった。元々表向きは俺に対して

苦言を呈する派閥の筆頭として、

ナルヴィと対立する構造を作り

俺の独裁状態にならないような

体制をキープし反乱を押さえる役割も

担ってもらっている。

今回イシズエはカムイの提案で反乱に

手を貸し筆頭として立ったが、

事が終わり元の状態に戻った時に

多くの人がイシズエをどう見るか

自明の理だ。

そこまで思い至って気付いた。

ここで過剰に褒美を与えれば更にその

非難の目は強くなる。陰口程度では済まない。


「詮無い事を言った」


 俺は城下町に視線を移しながら呟いた。


「もし陛下がお気に病んでいるようでしたら

一つお願いがございます」

「なんだろう」

「はい。是非我が一族の次代には格別な御好意を賜る事が出来ましたら、私には何一つ思い残すことは御座いません」

「次代とはガンレッドか」

「いえあれは自分で何とかするでしょう。……あれも年頃、何れ子を持ち親となりましょう。そうなれば我ら一族の次代となるべく養育し、きっとこの国を背負うに相応しい者として陛下の前に傅かせます」

「その時は俺以外の者が王となっていよう。だが良い。俺もこの国に貢献したんだし、ガンレッドの子であれば優秀に違いない。必ず粗略に扱わないよう手紙に認めておく」

「イシズエ、これにそんな回りくどい事を言っても無意味だ」

「いえ、十分です。陛下にも未来は必ず見渡せているとは限りません。今はそのお言葉だけでも私がこの先長生きせねばならない理由となりました」


 ファニーは俺をジト目で見た後溜息を吐く。

よく解らんが建国の王なんだし一応それくらいは

してやったところで罰は当たらないと思ったんだけどなぁ。


「陛下!」


 それから続々皆が本城へ集まってきた。

二番手はナルヴィかと思いきや、

久しぶりの参戦のハンゾウ。

三番手はロシュと意外な結果になる。

ナルヴィは色々と指示をしていたので、と

悔しさを押し殺して敗者の弁を述べていた。

 国民たちを本城へと迎え入れた後、

外の部隊を手引きし中へと入れ反乱軍を鎮圧。

夜には国民を家へと帰してやる事が出来た。

取り調べは苛烈を極め、残る部隊はトウシンの迎撃に

当たる事になる。

 俺が出陣するとなり大騒ぎとなったが、

一蹴して準備に入る。恵理ともそこで合流した。

ユリナとメレムコリン夫妻と共に、

子供たちを護ってくれていたとの事で

労いの言葉を掛けた。炊き出しの用意を

しなければならず、恵理はしがみついていたが

そのままファニーに引き摺られていった。

王の間で鎧を着けようとして待っていたが、

誰も来ない。俺はこう見えてぶきっちょである。

鎧を着るのも実は型の結び目がだらしなくなったりと

上手く出来ない。


「ドノヴァン! ドノヴァンはいないか!」


 意気消沈二号のドノヴァンを呼んだが入ってこない。

今回の反乱を未然に鎮火すべく奮闘してくれたようだが

叶わず、自分に対する落胆が激しかった。俺は一緒に

腹から声を出させて気分転換を図り、更に今から自身に

対する期待を取り戻しに行こうと誘った。


「おーい誰か手伝ってくれ」


 恵理のデザインした厳かな黒地の鎧は着るのが大変だった。

リードルシュさんに作ってもらった鎧を補強するような感じに

なっていたが、結んだりするのが大変だ。

暫く悪戦苦闘していると、誰かが入ってきた。


「あ、悪いけど手伝ってくれないか? どうも上手く出来なくて」


 黙っているので何かと思ってみると、

これまた意気消沈一号のガンレッドさんである。

しょぼーんという顔文字が似合うしょんぼり具合に吹き出しそうになる。


「陛下……」

「いや悪い悪い。何やら落ち込みを抑えきれないのがあまりにも可愛らしくて。年相応と言うべきか」

「意地が悪いですね」

「そうだな。……矢は放たれた。それが当たって止まるのかはたまた地面に落ちるのか。だが結局最後は止まるんだどんな形にせよ。思い描く止まり方では無かったとしても、それは放つ時にもう決めていた事。思い悩んでもどうにも出来ない。生きている我々は最後まで出来る事をしないといけない。今は本当の危機を迎えているのだから」

「陛下はお強いですね……」

「いいや違うね。やる事は俺にとっては一つ。それをする為の過程でしかない。更に言うのであれば死は俺にとってここに来た時ほど怖くは無い。あの男たちのお陰なのか分からないが」

「この国に来てからですか?」

「……そうだなガンレッドには話してなかったか。俺は元々この世界の人間じゃない」

「と言いますと?」

「この世界とは違う、地球っていう場所そして西暦二千十六年の世界から来たんだ」

「チキュウ……セイレキ……」

「何かがあって俺はこの世界に来たんだ。最後まで辿り着いた時それが解るらしい」

「陛下はチキュウに帰られるのですか?」


 丁度鎧の装着が終わり、体を動かしてみる。

流石ガンレッド。付け慣れているだけあって

着心地は抜群だ。


「そうだなぁ……分からないけど多分無理じゃないかな」

「帰れないのですか?」

「恐らくね。第一帰りたいとは思っていない。帰っても迷惑になるし」

「陛下が迷惑になるのですか? きゃ」


 俺はガンレッドの両手を取り、踊りだす。

恐らく、アーサーが”この世界の”アーサーという人物になったように、

俺もまたこの世界の俺になるのだろう。

この世界に来た理由や、俺がチート能力を得て誰にも負けない凄い奴に

なれた訳が明らかになった時、俺はそれほど落ち込まない気がする。

痛いのは嫌だが、ここまでの旅でも痛い思いはしたし。


「そう、結局は始めに戻る。ただそれだけだ」

「始め、ですか」

「そうそう。俺はごりっぱな人間じゃないってことだよ。王様なんて柄じゃない」

「では何に」

「冒険者。だけどこの国を託すまでは王様として皆を護る。約束だ」

「国民投票するには時間が掛りますね」

「そうだな。どうなるかは分からないが、俺がそこに居られたなら全力で手伝うよ」

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