電光石火その二
「まさに電光石火。陛下の隠し通路の多くは潰しておいたと思っておりましたのに」
ウルシカは日常会話のように
穏やかに話す。
「戦争によって経済が消費され潰されていくのが私には我慢できませんでした。祖国は経済戦争はしても、相手を完全に支配するまではしませんでした。陛下が上手くとりなしていただければ、トウシンはやがて我が国と同盟を結んだはず」
「俺が煽ったから戦争になり祖国の危機となった、そして自分が育てた経済を祖国との戦争に使われるのは納得いかないから戦争を起こした、と」
「はい」
「そうか。ならば最早恨み事無しでここで決着と行こう」
「我々を倒せますかな?」
「人質か?」
「無論です」
「ガンレッドを始めとした元王族や、俺を指示する者たち。その全てを拘束し占領しトウシンを入れるというのか?」
「御理解が速くて助かります。私の伝手があればこの国は今まで通り……」
「その伝手を使ってもトウシンは我が国を攻めてきたが、それも俺の所為か?」
「その通りです」
埒が明かんな……。何でも悪いのは俺の所為か。
もうそこにしか落とし所を見つけられなかったようだな。
「なら俺がこの国を出て行こう」
その言葉にウルシカ始め一同は目を丸くする。
「どういう事ですかな?」
「いや元々一から始めた事。国が欲しいと言うならくれてやる。ただし国民は自由に選択させろ。拘束し束縛するというのであればお前たちをこの場で処理する」
俺は星力を纏う。生憎俺は劉備玄徳ではない。
むざむざ領地を明け渡し逃避行をするつもりはさらさらない。
今ここを明け渡したところで、直ぐに民は移動しないだろう。
そこへトウシンの者たちが入ってくる。
最後に良い統治をするかもしれないが、今は戦乱の最中で
互いに一手窺いながら指し合っている状況だ。
良い統治をして信頼を得るには政策も当然そうだし
実績もそう。ウルシカが陣頭指揮をとるとしても、
ウルシカは経済の専門家。徐々にトウシンも物資や資産強奪を
始める。炎は外からより内からの方が熱く消しにくい。
「それは出来かねます。国民が居らねば国が機能しない」
「で、それが解ってるお前は自分で勝手に考え同じかどうか知らんが、漁夫の利を得ようとする者たちのみを加えて反乱をおこし、反対する者たちを拘束したのか?」
「そうです」
「……話にならんな」
「コウ、もう良いだろう。後ろも閊えている」
「そうだな。これにて問答は終わりだ。お前の思い通りになるのは非常に残念だがその命貰い受けよう」
俺は全力で横に薙ぐ。階段を占拠していたウルシカに与する
兵士たちが両断されていく。
「私が正しいのです。戦争の下に経済は無い」
「続きは夢で見るが良い」
俺はゆっくりとウルシカに近付き、
その心臓を一突きした。
「陛下……」
「ご苦労だった。悪いが首も刎ねてやらんし、晒しものにもしない。次は良い夢と巡り合えると良いな。ウルシカがいなければこの国の経済はここまでしっかりとしたものにはならなかった。それは誰も否定する事が出来ない。人あっての経済。人以外に経済は必要ない。今この時代はヒトという種が生き残るかどうか瀬戸際なんだ。次生まれてくるときは平和な世で」
「コウ、次へ行くぞ」
俺の言葉は恐らく最後までウルシカには
届かなかっただろう。ここまで来ては生かしておき
更に復帰することなど叶わない。
出来ればトウシンを統治して祖国の復興に
その手腕を発揮してほしかった。
「コウ」
俺はウルシカを抱き上げて下へと降りると、
中庭に横たわらせて手を組ませ、瞳を閉じた。
「気は進まんと思うが、拡声器へ」
「ああ」
落ち込む事は今は出来ない。
やる事がある。足取りは重い。
予想はしていたが、この目で見て
この手で断を下してみると、
予想など遥かに超えてダメージがある。
「コウヨウの民よ、わが親愛なる民よ! 我は皆の元へ帰ってきた! 我こそはコウ王の臣なりと誇る者は、いの一番に我の元へ馳せ参じよ! 我は我が居城に居るぞ!」
腹の底から悲しい気持ちを吹き飛ばすべく、
声を張り叫んだ。拡声器のある城門の櫓上から
相棒二振りを掲げ皆の灯台となる。
「寝ぼすけどもが出てきたぞ」
ファニーの声に閉じていた目を開く。
眼下の城下町では国民たちが一斉に
この城目指して動き出していた。
女性や子供、ご老人たちも思い思いの
武器っぽいものを手にそれ以外持たず。
それを留めようとしている兵士たちを
突き飛ばし、またボコボコにして俺の元へ
掛けてくる。
「コウ、お前の予想では誰が一番かな」
「一番は一人しかいないだろう。なぁイシズエ」
俺は櫓の下を見ると、顔に文様が浮かんだ顎髭の
巨人族が一人傅いていた。
「お待ち申しておりました陛下」
「ガンレッドは無事か?」
「はい。生憎と陛下より勘が鋭い方故、いの一番に押さえました」
「……俺より勘が鋭いとはどういう事だ」
「いえ」
そのやり取りにファニーは口を押さえて笑う。
何なんだ一体。
「で、もう一人のというか本来の首謀者はどこだ?」
「オンルリオが追っております」
「そうか。どうしたものかな。あいつからしたら俺が直接下してやるのが望みと思うが」
「彼の希望はそうでも、もう一人彼に対して思うところが大きいものがおります」
「……分かった。で、ウルシカに連なる者たちを早急に捕縛してもらいたい」
「ぬかりなく。当然のことながらほぼトウシン出身者です。カムイからの進言で、必ず根元を断つよう動くべきだと言われ皆でその様に動きました」
「イシズエはただでさえ疑われるのに良く決断したと思ったよ」
「故に楽に信用してもらえました」




