別れ
「よう陛下」
呑気な声に振り向くと、
そこにはレンが居た。
見た目的には何ともない感じだが、
明らかに精力が落ちている気がする。
気の巡りが悪いのか煤けている感じすらした。
「大丈夫か?」
「大丈夫かと言われれば気合で大丈夫、
と言いたいところだがちときつい」
「休んでても良い……とは言えないな。
悪いけどもう少し踏ん張ってくれ」
「勿論。で、どうする?」
「今からアーサーのところに行く」
「なら俺しかいないな。他のメンツで行くと
面倒な事になる」
「頼む」
俺はレンを伴ってアーサーの居城である
コルチェスター城へ入る。特に罠は無く
俺たちを遠巻きに見る多数の怪我をした
カイヨウの兵士たち。
「何用だ」
「何用も何も……この大ピンチを
誰が助けてくれたのか分からないってのなら
俺たちがやる事は一つになる」
「祖国を売った裏切り者め……!」
「今となっては良かったと思ってるよ。
足元も見えない国なんざさっさと滅ぶべきだったんだ。
お前たちはアーサー王を迎えても尚、
視線を変える事無く思い込みで体と心を縛った。
それの結果がこの有様。
まさか俺たちがこないでも何とかなった、
なんて冗談はよしてくれよ?」
前にホクリョウで見た事のある
偉そうな真っ白な鎧に身を包んだ
金髪の騎士は怨念を込めた視線を
俺たちに向ける。
「まぁまぁ。それでアーサー王はどちらに?」
「貴様には関係ない」
その言葉にレンはすぐさま槍を抜き、
素早く騎士の首元に突き付ける。
「レン」
「悪いな陛下。こいつらまだ寝てるらしい」
「この槍は何の真似だ。レン・アイフェ。
我がカイヨウを有利に運ぶ為、コウヨウに送り込まれた
スパイの役目を今一度思い出せ」
「どうやら本当に寝ているようだ……」
レンの槍を寸でのところで避けたが、
切り傷が出来、首筋から血が流れる。
「それは宣戦布告と見て良いな?」
「……いい加減目を覚ませ。そんなものは
とっくのとうにされていて、こっちが
テメェらを助ける言われは無ぇ。
喧嘩を売ったのはカイヨウが先。
態々助けてやったのにまだ目が覚めないってんなら」
レンが言い終わる前に俺が前に出る。
「レン落ち着け。で、尋ねるのは最後にするけど
アーサー王はどこだ?」
「そんなものはいえ」
相手の言葉が終わる前に俺は星力を纏い、
そいつをぶっ飛ばした。
「レン、分かる限りで良い案内してくれ」
「あいよ」
周りの兵士の怨嗟の視線はあったが、
今の事もあって掛ってくるような事は無かった。
城の階段を五階上った後、大きく開けた場所に出る。
後は部屋を探すだけとなったが、
分かりやすい事に居そうな方向に騎士たちが居た。
「コウ王……!」
エムリスが俺を見て一瞬怯えその次にホッとして
最後に冷静を装いつつ拒絶の姿勢を示した。
「アーサー王に会わせて貰う」
俺のその言葉に対して、彼らは騒いだが
詮ない事だと無視しその場に近付く。
当然のように斬りかかろうとしてくるが、
全て薙ぎ倒して先に行く。
「すまねぇ……」
「レンが謝る事じゃないさ。
それよりアーサーはどこかな」
更に奥まで進むと、玉座に項垂れる
白髪に白髭、白銀の鎧に身を包んだ男が居た。
剣は床に突き立て柄を握っている。
「どうにかなるものかな……っと」
俺は星力を身に纏い、アーサーの体に触る。
暫くしてアーサーの気とリンクが成功し、
ビクッとアーサーは体を跳ね上げた。
「う……」
「気が付いたようだな」
「な、なにが……」
「前の事は分からんが、今の事なら簡単にいえば
お前の気を伝って生命力に直接電気ショックを加えた。
魔術を掛けられたようでもないし、呪いの類も
俺には意味を成さないので大丈夫だろうと考え実行した。
具合はどうだ?」
「最悪だ……それよりよくここまで来てくれたな」
「勿論いの一番で駆け付けたさ。前も確認しあったが、
お前を倒すのはこの俺だ。新たに手に入れた力を
見せつけて完膚なきまで叩きのめす。お前は忘れたのか?」
俺の問いにアーサーは目を丸くした後、
鼻で笑い俯くと剣から手を話し玉座にもたれ掛かる。
俺とレンは距離をとった。
「忘れてなどいないさ。だからこそギリギリ踏ん張る事が
出来た。仮死状態のようなレベルまで落とし、
生命の回復力に掛けた」
「……それは意味が無いだろう……」
俺の言葉にアーサーはまた鼻で笑う。
恐らく俺より知っているのだろう。
何故自分がここに再度戻ってこれたのか。
異世界に来る前の自分がどうなっているのか。
「だが良い事を発見もした」
「なんだ?」
「俺はアーサーであり他の何者でもない。
この世界のアーサーなのだ」
「……そうか。なら無茶はするな」
「ああ。お前と決着を付けるまで死ぬわけにはいかない。
これからは反撃に転ずる」
「心強い。奴らを蹴散らすまで休戦協定としよう」
「良いのか?」
「構わない。正直お前がここまで追い込まれた事は
意外だった。が、お前の部下たちを改めて振り返って
見てみると、俺が吹っ飛ばした以外で無傷だったので
納得した」
「愚かだと笑ってくれて構わんぞ」
「いいや。俺とてお前とは大小違えど同じようなものだ。
何よりお前が最初にあの土地に目を付けていた。
お前が譲ってくれたからこその絆でもある」
「……なるほどコウヨウの強さがお前の強さと似ている
というのは納得だな」
「さてね。俺はそんなに強くは無い。設定上そうなだけさ」
「以前はな。今のお前はあの時とは別人。
精神的な部分で大人に成長したというか」
「確かにそれは言えてる」
そう言葉を交わし笑いあうと、
気が付いたアーサーの部下たちが部屋に入ってくる。
そして目が覚め顔色が良くなっているアーサーを見て
全員が駆け寄った。俺はそれを見て部屋を出る。
「陛下」
「構わん。レン、これまでよくやってくれた。
後は祖国の為その命を振るうが良い。
また戦場で会おう」
俺はレンの顔を見ずにそのまま歩き続ける。
レンの気配は段々遠くなっていく。
思えば割と長かった。もっと早く国に帰ると
思っていたが。
「無事送り届ける事が出来た訳だ」
独り言をつぶやきコルチェスター城を出る。




