カイヨウ到着
正門から兵たちと競うように
出陣する。準備はイシズエにナルヴィ、
オンルリオやカムイ、トロワなどが
入念にしてくれた。
正直迷いはある。恐らくこれから向かう
その先は地獄だ。カイヨウが残っているか
それすら俺の中では危ういとみている。
星力を完全に通して居ないとはいえ、
異世界人でチート補正のある俺が
一兵士の一撃に手が痺れた。
恐らくこれから戦う人たちは万夫不当の
英傑揃い。誰が立ち向かえるのか。
この俺の行いは何だったのか。
今軍で出陣する事に本当は意味は無いんじゃないか。
「こら」
ツキゲに乗り進む中で、後頭部を叩かれる。
その方向を見ると、左に居た恵理が叩いたようだ。
制服の上から深紅の鎧に身を包み、
更に久しぶりに見る大鎌は迫力があった。
出会った頃より気の大きさが変わった気がする。
「お、おう」
「悩んでも仕方ないでしょ?」
恐らく見抜かれているのだろう。
それだけ言われて見つめ合う。
更に後頭部を叩かれる。
「そう言う事だ。お前の考えている事は分かっているつもりだ。だがそれをしてはお前が目指した巨人族による復興と平和の後の譲渡など望めまい。痛みを伴い勝ち取ったもの築き上げたものでなければ、その後に待つのは苦しみだけだ。痛みを伴った勝利を嘘で勝ち取った事にしたところで拭えない後悔は永遠に残るし、それを記念日などにすれば自ら己の魂を永遠に汚すのと同義になる。どれだけ言葉で取り繕っても魂は穢れを深くし種族の滅亡へと至るだろう。他人に集り得た平和と安寧など、魂の渇きをより強くするだけで惨い仕打ちに他ならない」
……確かにね。完膚なきまで負けた後
這い上がったものと、なんだか分からないまま
誰かに与えられた解放ではまるで違う。
最後の最後まで恐らく誰かの所為にして
永遠に気付かず滅んでいくだろう。
右に居たファニーはそう言って胸を張り、
新たに用意した黒い鎧を着込んで勇ましさを
周りに示していた。
「二人ともありが」
感謝の言葉を告げようとした時、
風に乗って血の臭いがした。
北西へ向けて進軍している。
予定ではまだ着かないはずだ。
歩兵たちの事もあって速度は落としている。
中間地点の野営ポイントにも辿りついていない。
「偵察隊!」
ロキもそれを感じて偵察隊を先行させる。
晴れ渡る空とは不釣り合いな血の臭い。
それは徐々に近くなる。
「声すらも聞こえないとは」
俺は臭いにばかり気を取られていたが、
そうだ声がしないとファニーの言葉に
気付かされる。
「ロキ様!」
偵察隊の一人がロキの元へ行く。
そして耳打ちした後側を離れる。
ロキは舌打ちした後
「進路変更だ。セイヨウへ一旦向かう」
「分かった」
誰も異論を唱えず問う事もしなかった。
戦場を何回か経験すれば察する。
この先は地獄が生成された跡。
「先に行け。火をくべて来よう。
疫病の元になるしな」
ファニーは列を抜けて戻る。
暫くして偵察隊が先行した場所に
火が小さく灯り、焦げた臭いが風に乗ってきた。
「ありがとう」
「坊主でも居れば祈りを捧げようが、
生憎な」
戻ってきたファニーに声を掛け、
セイヨウへと並走して進む。
夕暮れ前にはセイヨウに到着し、
アインスとハンゾウの出迎えを受ける。
二人の指示で偵察隊は送っているようだ。
この時代交通がまだ発達していない。
それが仇となるかどうか。
兵士たちに休息を取るよう指示して
レンに仕切りを任せ、会議を行う。
セイヨウの資料をしっかりと読んだ後、
アインスとハンゾウ達の苦労を労う。
「もう少し頻繁にこれたら良かったのだが。こんな時に一緒になってしまった。二人には感謝している。よく治めてくれているな。ありがとう」
そう告げるとアインスとハンゾウは
傅き頭を下げた。二人にテーブルに着くよう
告げて会議は始まった。
皆の意見としては一朝一夕でカイヨウが
落ちるとは思えない、ただ予断を許さない
状況である事。急いては事をし損じるが、
トウシン方面も安全では全くない事が
一致したものだった。明朝即出立する事を
確認して解散にした。今は情報が少ないので
仕方が無い。ただ共通認識と少しでも
落ち着かせる為に開いた様なものだった。
アインスとハンゾウも参戦を願い出たが、
断った。何しろカイヨウが壊滅していれば、
急ぎ引き返してセイヨウで迎え撃つ準備を
進めなければならないからだ。
「では後を頼む」
アインスとハンゾウに挨拶し、
俺達千人は北上する。穏やかな丘を越え、
平野を進んだ後に山をひとつ越えると
カイヨウが見えてくる。
なるべくはやる気持ちを抑えつつ
進んだ。山を越える手前から、
焼ける臭いがする。
ロキとファニーに恵理、そしてレンを見る。
皆黙って頷き、その後各隊に指示を
飛ばしてくれた。
「全軍慎重に進軍せよ!」
戻ってきた偵察隊から報告を受けたロキは、
そう告げた後退路を確保する為、
ロウ達を道へ配置し警護を命じる。
始めてみるカイヨウが襲撃された中とは。
「レン、俺と先行して状況を確認してくれ」
俺の声に暫く反応せず呆然と故郷を見ていたが、
ロキに促され頷く。無理も無い。
うちにもカイヨウ出身者は多く居るが、
レンより信頼を置ける者は他に今いない。
俺とレン、ファニーと恵理は先行して
カイヨウに入る。スカジ兵が荒らしたとは
言い難い部分も見え隠れしている。
まさか全滅か……?
「待っていたぞ偽英雄……!」
憎しみが籠った声が空より降ってくる。
レンの槍が俺の前に躍り出て華麗に舞う。
「邪魔をするな巨人族風情が!」




