舞い降りる羽
「そう言う事ならちょっと僕自身も
動いてみようか」
「ロキはダメだ」
「それはなんでまた」
「勘、だけどね。この大地では
元神になっている。生贄としては
最上級だろう。後ナルヴィ始め
ここにやってきた者達は、
警戒するように伝えてほしい」
「……例外を召喚するには例外を。
なるほど考えたじゃないか」
「昔カードゲームに嵌まってた時期が
あってね。それを出されたら
ほぼ勝負は決まりってカードを
出す為に特別な生贄を使う必要があった。
それを思い出して……まさか!?」
俺は自分で言った後思い至る。
この大地は彼らにとっては滅んで良い場所だ。
そして元居た大地はオーディン自身で
流れを作って成長した大地。
また天界というフィールドでは絶対有利ではあるが、
俺と言う存在に影響があるかは不明だ。
更にロキは確実に力を取り戻せるし、
ナルヴィも全力を出せる。
「ロキ、急いでラハム様に連絡を。
ナルヴィはカイヨウのアーサーに
次の会談をしたいと伝えてくれ」
「分かった」
「心得ました」
二人は急いで外へ出る。
俺も急いで恵理とファニーに会う為
部屋を出る。
ジェルジオ侯とルーテルと
談笑していた広間にはいる。
俺は努めて冷静に顔に出ないように
四人に近付いた。
「……どうやら今回はここまでのようだ」
「そのようですね」
「また話そう。そなた達との会話楽しかった」
「ええ。是非今度は本国に来てよ。
更にもてなしたいわ!」」
俺は両方の掌を左右の頬其々に当て、
上下に動かす。顔に出ているらしい。
「すまない、火急の用があって。
ジェルジオ侯もルーテルも、
何かスカジの異変が起こったら
いの一番に知らせてほしい。
それと危険を感じたらホクリョウまで
住民を連れて引いてくれ」
何とか慌てる気持ちを抑えて
言おうとしたが、早口になって失敗する。
これは野生の勘なのかなんなのか。
四人は黙って頷き席を立つ。
俺はジェルジオ侯とルーテルと共に
ゆっくり建物から出て門まで歩く。
天気は一応悪くは無いが、
何か水気が多い。……来るな。
「ジェルジオ侯、ルーテル。
急いで建物に戻ってくれ……」
俺は相棒の柄左右其々に手をそえる。
大胆不敵。だが隙を突くなら良い手だ。
「はっ!!」
何かは分からなかったが、
相棒が反応し鞘から抜けたので
それを手に取り斬り払う。
手に痺れが残る。星力を完全に
通しきれてない状態とはいえこの威力。
「どれだけ巨人族の命を吸ったのか、
興味があるぞ吸血鬼」
俺は痺れる手を相棒を握ったまま
振る。安い挑発だとは思ったが、
効き目は十分らしい。
空から何かが降りてきた。
「地を這う虫けらの癖に
神の使いに対して吸血鬼とは」
「吸血鬼も神の思惑の一部かもしれん」
「逆上せあがるな人間が。神の思惑は
お前如きに推し量れるものではない。
もう存分に英雄気取りを楽しんだだろう?
宴も終幕に近付いている」
「だが終わってはいない、そうだろう?」
素早い剣撃が俺に打ち込まれる。
今度はしっかり星力を相棒たちに纏わせている。
ダメージは全くない。寧ろ向こうがあるだろう。
「剣で勝負とは思いあがったな天の使いとやら」
「おのれ!」
俺は隙を突いて黄金色の鎧をまとう
天の使いの鳩尾部分を思い切り蹴飛ばす。
吹き飛ぶ天の使い。俺は勿論見逃さない。
瞬時に間合いを詰めたが、ギリギリで避けられる。
そして空へ逃げようと羽を広げた。
俺はその羽根目掛けて振り下ろす。
斬り落とせはしなかったものの、
斬り傷は与えられたのか低空飛行で地を滑る。
「愚かな。何故降りてきた何故街中で事を起こした?」
「愚かとは誰を言うのか!」
建物の合間を縫って巧く後ろ向きに飛んでいたが、
やがてそれを止め前を向いて飛んだ。
が、俺は地を走り壁を走って前方に跳躍し
斬りかかる。避けられても直ぐに地面から飛びあがり、
壁を駆けあがって追跡する。
途中ファニーや恵理、ロキやナルヴィと目が合ったが
手出し無用と首を横に振った。
「そろそろ終わりだ」
速度にも慣れたしアイロンフォレストの街も把握出来た。
「戯言だ!偽英雄!」
「英雄などは知らん。俺は俺だ!」
相棒を天の使い目掛けて振り下ろす。
金色の細い剣と弓で受け止めたが、
武器は壊れないものの、そのまま天の使いは
地に墜ちる。
「流石、天の使いだけあって美人だ」
俺は踏ん張り俺の相棒を押し留める
天の使いを落ち着いて見てみた。
とても美しい女性だった。欧米の女優だと
言われてもおかしくないレベルの。
「まだ愚弄し足りないか……!?」
「いいや。こっちの話だ」
俺は天の使いの武器を弾き飛ばすと
立ち上がり、相棒たちを鞘に納め手を差し伸べた。
「……何の真似だ!」
「お前には関係ない。俺の個人的な恩返しだ」
「お前の勝手な想像だな」
「そうか? 事ここに至ってはもうそれは無いと
俺は確信しているよ。こうなってしまっては
後は剣によって語るのみ。宜しく伝えてくれ。
恩を返しきれていない無礼は
我が一撃を持って代えさせて頂くと」
天の使いは綺麗な顔を高揚させ俺を睨む。
黄金色の鎧に金色の武器を携え、
天の使いは俺を睨みながら天使の羽を広げて
素早く去って行った。
「良いのかい? 逃がして」
「良い。捕らえたところで益は無い。
寧ろ面倒が増えるだけだろう。
あいつの狙いは俺だけのようだし、
護る者は他にも多いんでね」
俺がやれやれと言った感じで
苦笑いしながら言うと、
ロキもうんざりした顔をした。
「少々狙いが分かりませんが、
敵を視認出来たのは良かったですな」
「そうかね。壮大な自己紹介と
宣戦布告を一気にやった実に効率的な
行動だと思うがね」




