思惑と狙いと
その後晩餐会となった。
カトルなど主だった重臣級の
者たちも出席し、さらに俺の意向で
ホクリョウの街の者たちにも振舞われた。
賑やか且つ盛大になり、
互いの友好を喜びあう。
翌日ジェルジオ侯とルーテルは
満足して帰って行く。
俺はその後リクトとグオンさんと
ホクリョウで落ち合い、
ロシュも含めて会議を開く。
アイロンフォレストへ今度は
俺たちが訪問する事になっているが、
その際にスカジの文化や現在の
組織の体系などを調査し、
その後適任者をスカジへ潜り込ませる。
更にレジスタンスと接触を図る
人間を選んで別に潜り込ませるのを
決めた。早速リクトとグオンさんは
里に戻り人選に掛る。
アイロンフォレストとの事が広まると、
カイヨウから使者が来た。
相変わらずに懲りずに偉そうな感じの奴が来て
協力を求めると言葉では言っているが、
”俺たちに情報を渡すのは当然だ”と
言わんばかりの態度だった。
俺はまだ交流が始まったばかりで
情報が無いとし、簡素なものを渡して
御帰り願う。その後セイヨウのアインスと
ハンゾウと連絡を取り、カイヨウ方面の
塀の建設と監視強化を頼んだ。
状況如何によってはカイヨウを
先に叩く可能性も無くは無い。
あの感じからすると改善は難しそうだと
俺はほぼ諦めていた。アーサーの付与した
力がそれほど凄いのか、その自身の元が
知りたい気はしたが。
翌週改めてアイロンフォレストで
会談を行う。ルーテルにも俺たちが
全く征服や服従させるつもりが無い事、
強要したりしない事が分かって貰えたのか、
丁寧な資料を用意してくれて渡してくれた。
元々は牧歌的民族と国であったスカジ。
大地の崩壊でもそれは変わらず、
元々保存食を貯め管理する事を建国以来
していた事もあって
他国より逼迫した状況には無かったようだ。
ただそんな国でもやはり枯渇して来て
そんな時にフリッグさんが現れた。
「なるほどね……」
種は分からないが、保存食の復活を
させたらしい。これは効果が絶大だ。
何も無いところから有を、しかも飢餓を
解消出来るのだとすればそれは
崇めるに値すると思っても仕方ない。
暫くすると
”自らを律し全てを育て神に感謝して
生きましょう”
として小出しにし始める。
「流石神様。一旦腹を満たさせた後は
一気に止める訳じゃ無く、小出しにしつつ
自分の教えを浸透させていく」
「はっきり言えば脅迫というか
人質みたいなもんだね。
生死に直結する食べ物を人質に
してるんだから従わざるを得ない」
「全くですな。父上とも話しましたが、
実に巧いやり口で掌握したものです。
もっとも楽で効果が絶大ですから」
ロキとナルヴィと持ち帰った書類に
目を通した。特にフリッグさん対策は
俺達三人がメインになるだろうし、
理解できる事や提案する事が
他の人には難しいだろうと判断した為だ。
「で、俺としてはフリッグさんが
この状況で放置しているのが気になる」
「もっとはっきりいったらどうだい?」
「……あまり予断を挟みたくは無いけど、
フリッグさんはスカジの民をどうとも
思ってないだろうね」
「歯に物が挟まった言い方だ」
「はっきり言えば盾もしくは生贄……」
「なるほど。このような組織では
何れ倒れましょうが、それでも
我々に対しては意味がある、と」
「そう言う事だ。時間を稼げればそれで良い
というような感じに思える」
「確かにその通りだろうね。
巧く徐々に攻め落とせたとしても、
信仰という毒が僕らに襲いかかってくる」
「それを解く為には、フリッグさんの
狙いを達成させなければならない……」
「君の考えるフリッグの思惑って?」
俺は二人の視線を前に目を瞑り考え込む。
正直簡単に考え過ぎかなとも思わなくもない。
「今は別に他の人間が居る訳じゃない。
思っている事をそのまま言っても良いよ」
「そうです。少なくとも私はコウ王陛下に
絶対の忠誠を誓うもの。御遠慮なさらずに」
「……まぁ馬鹿馬鹿しいと思って笑ってくれて
構わない」
俺は目を開き二人を見た後、
咳払いして仕切り直す。
「あくまで勝手な想像だからそれを前提で
聞いてほしい。フリッグさんはオーディンの為に
元々巨人族を生かしてはおかないだろうし、
嫌悪感を抱いていると思う。
今まで滅ぼさなかったのは急激なバランス変化に
よって新たな天敵が発生するのを防ぐ為だ」
「君と言う天敵がこの地に来たのも釣りだってことかな?」
「恐らく纏めて処理する方法が見つかったんだろう」
「それは更なる者に対する対処法が見つかったという
事でしょうか」
「可能性は無くは無い。バグの隙を突いた何かが
ある可能性がある。ロキの役割を変えたのも
何かシステムをいじる方法を見つけたのかも……」
システムを弄る……。自分で言っていても変な感じだ。
「それ以上は言わなくて良いよ。なるほどそういう事か。
あいつ自身がバグかもしれない。……で、その纏めて
処理する方法ってのはなんだと思う?」
「召喚」
俺の言葉に二人は一瞬驚いて目を丸くしたが、
やがて机に視線を向け考えた。
暫くして
「なるほど。生贄を使って召喚。
更にその生贄は自ら喜んで生贄となる訳ですな」
「大いに考えられるしやっても可笑しくない。
躊躇する理由は無いからね。寧ろ召喚した方が
気持ち良くあっちは戦える可能性がある」
「アーサーの付与能力のような物を使って
その宰相に与え他国の戦争を長引かせ、
それによる生贄を量産し使用する。
感情や良心を捨て去れば効率的だろうと思う」




