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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
無職のおっさん戦国記

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空の器

「はいはい下がってねお姉さん」


 恵理が割って入って来て

俺の顔を手で押して下がらせた。


「おや、君が噂の恵理女王ですか。

これはこれは中々……」


 どうやら男でも女でも良いらしい。

恵理と一緒に後ずさる。


「と、兎に角だ。

今からアイロンフォレストまで送るから」

「接待は無いのか?」

「改めてな」

「という事は受け入れて貰える

という事だな」

「うちに属するというよりは、

スカジ内での独立を陰ながら支援する

という形で折り合おう」


 俺達の後ろに居るロシュがそういうと、

ジェルジオ侯はロシュを見て首を傾げた後

眉をひそめて難しい顔をした。

提案を断るならそれも仕方ない。

やはりフリッグ教団を

丸ごと受け入れるのは難しい。


「まぁ折衷案としては妥当なところだろう。

私はスカジの貴族ではあるが、

それは前王の時に祖先が取り立てて貰ったもの。

今のトップに別段恩も恨みない。

民が言うなら離反したところで

誰も後ろ指さすまい」

「個人的にはスカジ内の反フリッグ教団の

旗頭を期待したいところ」

「難しい問題だ。フリッグ教団は急速に

その勢力を伸ばしてきた。

コウ王陛下なら分かると思うが、

巧く政治と絡めて来ている」


 ロシュの希望に目を瞑り顎に手を当て

唸った後、俺を見てジェルジオ侯はそう言った。


「ジェルジオ侯次はまともな格好で

来て貰いたい。貴女とはそういう事を

真面目に話したいものだ」


 俺がそう言うとにこりと微笑む。

美しいというのは凄いな。

笑みだけで空気の流れが変わる。


「全くです。貴女に異心が無い事は

理解した。これからうちから外から

攻撃があるかもしれん。その警護を

協力したいと思う。向こうに着いた後

直ぐに会議を開きたいが良いか?」

「構わないが、出来ればコウ王と会議したい」

「ダメよ。国の大事なんだから、

皆で会議しないとね。トップが何でもかんでも

決めてたら暴発するわ。貴女だって離反を

貴女一人で決めた訳じゃないって

さっき言ってたじゃない」


 恵理の言葉に少し頬を膨らませたが、

一息吐いて


「分かった。今回は折れよう。

が、何れ是非」


 と懲りずに俺を見て微笑み

また両手で俺の手を握る。

何だろう圧が強い。


「ジェルジオ侯、時に貴女はフリッグ教団の

幹部か?」

 

 ロシュの問いに視線を向けず


「表向きはな。政治と言うのは面倒なもの。

民を生かし領土を生かす為、

果ては国を生かす為なら折れる時もある。

そういうものだ上に立つという事は」

「コウ王陛下は違うと思うが」

「そんな事は無い。この偉大なる王は

民の心と意思の結晶。だからこそ誰も

この王に反旗を翻す事も無く従っている。

不躾ながら空に近いの器とも言えよう」


 なるほどこの美人は中々鋭い。

無職引き篭もりの空虚な男には

確たる信念も主義も

この世界に来るまでは無かった。

弱者から見たもの感じたもの、

元の世界の歴史に学んだ事を

基本として国を運用している。


「私如き凡夫では器の一滴にも

ならんだろうが、是非コウ王陛下に

忠を示したい。会ってそう思ったよ。

底があるのかないのか、見てみたい

そんな気分だ」

「はいはい離れて離れて」


 恵理が間に入ってくれて

何とか解放された。


「次に会談する時を楽しみにしている」


 そう告げて共にアイロンフォレストまで

少数で俺とジェルジオ侯を

先頭に、恵理やロシュが続いて隊列を成して

到着した。街は混乱はあまりなかった。

常時このジェルジオ侯という人物は自由なようだ。

それと俺の姿を見て街の人たちは驚いていたようだ。

兵士は外に待たせて、気軽な感じで街に

ロシュと恵理のみを伴って入ってきたからだ。

 街の中心のジェルジオ侯の小さな城に

付く手前になると、家臣たちが慌てて走って来て

土下座の渦に囲まれてしまった。

主にジェルジオ侯の奇行を詫びられたが、

俺は一笑に付して改めて会談の日程を

ジェルジオ侯の秘書官を務めているという、

黒髪ロングのメガネ美人、ルーテルと

話した。秘書官はジェルジオ侯の奇行に

慣れていたのか動じず淡々と話が進み、

改めて仕切り直して会談を行うことが決まると、

大きな溜息を吐いて改めて頭を下げられた。


「頭を下げる事はないよ。俺もジェルジオ侯の

人となりは少し理解したから、

今後は驚かないと思う」

「そうであれば良いのですが……。

本当にまさか陛下にまでこのような事をするなど」

「いやいや元々違う国の王だし仕方ないよ。

それより何かあったらすぐホクリョウに

伝令を飛ばしてくれ。全速で駆けつけるから。

それと協力関係の祝いとして

食料と日用品を置いておくから使ってくれ」

「有難うございます。本来であれば斬られても

文句はいえないところでしたのに」

「今後の頑張りに期待したい。

ジェルジオ侯は中々侮れない魅力的な

人物である事も十分理解した」


 そう言うとルーテルは嬉しそうに微笑んだ。

どうやら昔から姉妹のような関係にあったようで、

何かと世話を焼いている様子。

理解し辛いその心の内に何かあるような

そんな気がしている。それはまた別の機会に

聞くとして、俺たちは贈り物を納めると、

足早にホクリョウに戻る。

アイロンフォレストまでの安全が

ある程度確保された事で、即会議を開いて

俺の連れてきた兵と俺達でアイロンフォレスト

までの通路を確保するべく道路整備を

始める事を決定した。裏切られた場合などを

考えて仕掛けを色々しておくのも忘れずに。

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