帰国と整理と
「御喜びになるかと思いましたが
以外に複雑なご様子」
「いや嬉しいは嬉しいけどね。
ただそうなるとこっちの不甲斐なさがさ」
「そうでしょうか。ヨウト殿の件は
こちらよりあちらの指揮管理不足もありましょう」
「登用された順とか俺に近いとか
そういうのも気にしたんだろうな」
「それに対するロシュ様だったかと」
「何事も完璧にはいかないもんだね」
「全体的に見ましても計画や読みとは
大分外れた結末になったように思います」
「確かに。まぁ戦場も生き物だから。
今回はカムイたち戦術局が実に巧くフォロー
してくれたと思うよ。不測の事態でも
揺れ幅が狭かった」
「陛下の動揺が全くないのが一番大きいように
思われますが」
「なるようにしかならないんでね。
神様じゃないんだから」
「そうで御座いますとも。
全員で勝ち全員で護った、
その結果で満足し不味い点を見直し
次に生かす事が肝要かと思います。
我々も早速其々見直して居ります」
「俺も帰国次第するとしよう。
いやぁ本当に忙しくて嬉しくて涙が出そうだよ」
「我が国では上から下まで暇である事の方が
難しいですからな」
「まったくだ」
俺とドノヴァンは早速帰国の準備に掛る。
持ってきた兵糧の残り六割のうち、
四割を置いていき、
雇用に充てて貰う事にした。
塀を急ピッチで立てなければ
今後街に直接攻撃を仕掛けられる
機会が増えてしまう。
塀があればワンクッション入れる事で、
守るこちら側に余裕が出来る。
連絡については些細なことでも
必ずするように定めているし、
カトルは忠実なので
塀が出来たところで問題ないと思う。
戦争が終わった後はこの塀を
観光のスポットにでもすれば良い。
「ではカトル、万事頼む」
「はっ!」
帰国の準備と言っても
同じ国の行き来。
更にホクリョウが本国に
一番近いのもあって
数時間で済んだ。
もっともカトルにカムイ、
トロワにリシェにイシズエドノヴァンと
事務に強い面子が揃っていた事が
大きかったのもある。
帰国の途中でロウを拾った。
「で、今回警護の任についたという事は、
腹は決まったか?」
馬車の中でロウと対面して問う。
懲罰開墾団の取り纏めをしている
ロウは仲間を率いて警護に当たった。
願い出た際に対応したのが
ファニーとガンレッドで
それを許可した。
イシズエの報告によれば
その警護振りはトンボ一匹
通さない徹底振りで、
モグラが横切ろうとした際も
捕まえて道を変えさせたという
冗談のような話が伝えられたようだ。
他の兵はバカにしたり
ゴマすりだと皮肉を言ったようだが、
俺からすればそれくらいのものを
重要な場所では求めたいし、
戦の際にはそれくらいの緊張感を
もってやって貰わないと
何が起こるか今特にわからない状況では
特に大事になる。
「陛下に改めて忠誠を誓うと共に
この命を奉げる覚悟で御座います。
ですがやはり仲間を置いて
私だけが起用されるのは」
「……確かにな。ロウの気持ちも汲もう。
今回一度きりの全うでは
周りも疑心暗鬼が拭えないだろうし、
ロウたちも居心地が悪いと思う。
よって今後もあの地から参加し
俺への忠義を見せ、その結果を持って
何れ復帰させるという事でどうだろうか」
「恐れ入ります。我ら一同陛下への忠義を
誰よりも堅いものだとご覧にいれます」
「期待している。持ち帰る兵糧の
十分の一を持って行って皆で分けてくれ。
今回の仕事の対価というよりは、
俺からのロウたちの今後の働きに期待する分だ」
「有り難き幸せ。皆にも陛下のお気持ちを
しっかと伝えまする」
ロウを下ろし懲罰開墾団の者達を
見送り帰国した。
帰国してナルヴィの報告を受けたが
特に問題は無いようだ。
ナルヴィにも宰相の件を伝えると、
ドノヴァンとは方向性は違うものの、
粘っこく大仰に喜んだ。
だがその後御説教をされる。
一人で突っ込むな、という事だ。
これには残っていたロキも
賛成しドノヴァンにも指摘された。
気を付けると言って追い払い、
一人王の間で今回の反省点と
戦記のようなものを書いている。
無職引き篭もりのニート時代には
こう言ったものを残した記憶が無い。
それこそ何か不満があった時には
どこかに書いた記憶があるだけだ。
気を使ってくれて暫く一人見返す。
ここに来るまでに色々な事があった。
本当にただ小麦畑が広がるだけの
文明があるのかすら怪しかった国が、
今は四つの勢力の筆頭。
「そういえばあいつはどうしているかな」
俺は見返しながら、ここに来る前に
荒野で食べた不味さの極みのラーメンと
それを作った男を思い出す。
あれきり見ない。俺の国ではメインの
料理で今色々な種類がある。
もしや悔しくて俺の元にはこれないのだろうか。
そう思うとしてやったりという感じがするが、
直に聞いてみたくもある。
何よりあの男はそれに屈せずどこかで今も
不味いラーメンを作っている気がする。
「陛下、宜しいですか?」
「ガンレッド、どうした?」
「はい、行事の日程を組みたいと思いまして」
「分かった。皆を集めてくれ。
主導はガンレッドに任せても良いかな?」
「は、はい! 頑張ります」
「気負わないでくれ。俺もフォローするし。
最もガンレッドの方が催事とか
この国の古い事には明るいだろうし」
「いえ、そんな」
「恵理たちもガンレッドに頼る事が
多いと聞いている。今後とも支えてくれ」
「はい!」
わたわたしながら最後背筋を伸ばし
直立不動で大きな声で返事をするガンレッド。
その様子に少し吹き出しながら
招集をお願いすると部屋を飛び出していった。
ガンレッドが出た後直ぐに
ナルヴィとドノヴァン、イシズエが
入ってきた。
何やら三人三様の顔をしていて
腑に落ちない。




