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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
無職のおっさん戦国記

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時間稼ぎの中で

「そういえば本当にこの泡槍、

俺が借りてて良いのか?」


 ガンレッドから受け取った

黄金色の泡が螺旋となって

形成されている槍。

どう考えてもこの世の

数ある神秘の中でも

ハイレベルなものに違いない。


「勿論です。あれから話が

あったかと思いますが、

陛下にこそ相応しいと

我ら夫婦だけでなく

一族全てがそう考えて居ります」

「有り難くお借りしよう。

決して粗略には扱わない。

戦いが終わればお返しする」

「もし返す時は、縁あって

次代に陛下からお渡し頂ければ

我々にとってはこの上ない喜びで

ございます」


 難しい事を言うなぁ。

縁あって次代にってのは

俺の次の代の王なのか

それともガンレッドの

子供に渡せばいいのか。


「分かった。覚えておこう」


 そう言った後、

イシズエと二人策の詰めに

入る。兵舎まで移動すると

炊き出しが行われており、

酒も振舞われて賑やかだった。

エムリスが飲めなくても

兵士は飲めるし飲みたいし食べたい。

特に食糧事情に厳しいカイヨウ。

こんなものを広げられては

一溜まりもない。


「カイヨウの兵士の皆。

戦前に腹を満たしてくれ。

俺からアーサー王に対して

親愛の証だ」


 俺の声にカイヨウの兵士たちは

機嫌良く声をあげた。

俺はその兵士たちを見て回る。

ガンレッドが俺を見つけて

駆け寄ってくる。


「陛下」

「ガンレッドありがとう。

前掛けとても似合っている」


 ガンレッドは給仕の仕事も

手伝っていたようで、

白い前掛けを掛け三角巾を

頭に着けて現れた。


「いえ、とんでもないです……」

「エムリスはどこかな」

「あ、えっと、あちらです」


 俺はガンレッドに微笑んだ後、

エムリスが腰かけているところへ

向かった。


「どうだ食べているか?」


 俺が声を掛けると、

その顔色は良くない。


「なんで人は生き物をあんな

嬉しそうに食べるのか」


 その目は虚ろな感じがした。


「難しい質問だな。

何故生きるのか、という質問に

近い」

「じゃあ何故生きるの?」

「この世に生を受けたから。

死は必ず来るが、生は終わりがある。

……もっともこの世界に来るまでは

そう思えなかったけどな。

ここに来て危険に身をさらし、

その中で出会い亡くなった人たち。

亡くなる場面に出遭わなければ

思いを巡らす事も無かっただろう」

「他の生き物を食べても生き残らないと

いけないんだ……」

「なるべく良い方法を模索したいがな。

人は栄養が無ければ生きていけない。

遥か未来で人の栄養全てを化学的に

摂取する事が出来たとしたら

可能なのかもしれないが、

今は他の生き物に感謝し

食しその命の分精一杯生きる。

それしか報いる事は出来ないと

俺は思っている。

悲しい気持ちで食べるよりは

”その命を有り難く頂きます”

”貴方の慈悲で命が満たされました

 御馳走様でした”

と始めと終わりに祈った方が

浮かばれる気がする」


 エムリスの虚ろな目は

晴れはしなかったものの、

次第に色を取り戻していく。


「詭弁だね」

「だろうな。相手に聞いた訳ではないし。

だがそこに留まっていてもやはり

感傷でしかない。なら食べた分以上の

命を救う方がマシだろう?

どんな形であれ方法であれ、

誰かの為になれば、な」


 俺はそう言って立ち上がり、

エムリスの肩に軽く手を乗せた後

その場を後にした。

答えなど無い。自分自身が納得し

割りきれるかどうかの問題である。


「陛下」


 ドノヴァンが駆け寄る。

目を見合わせる。どうやらスカジへの

仕掛けは万全らしい。


「ファニーは?」

「少し散歩されて戻るようです」


 散歩ねぇ……。

襲撃したりはしないだろうが、

少し心配でもある。

夜に紛れて動くのは何もこちら

だけではない。


「ドノヴァン、後はガンレッドを

補佐してやってくれ。

張り切り過ぎると体に悪い。

夜も遅いし年少だし」

「心得ました。が、もうガンレッド様の

御年なら嫁ぐ事も出来る年齢。

年少は言いすぎでは?」

「俺の世界では年少だったし」

「この大地では違いますな。

貧困ゆえにいつ死ぬか分かりませんでした。

なので嫁ぐのも子を生む事が

出来たら嫁いでおりました。

そうでなければ種が滅んでしまう

恐れがあったので、本能的にそうだった

と思われます」

「なるほどね……まぁ無理はさせないように」

「陛下はどちらへ?」

「少し夜風当たって来るよ」


 そう言い残し、街の中央にある砦に戻って

一番上の高いところまで登る。

この大地の上にも夜空はあり、

星も沢山ある。街灯が無いし家も殆どが

寝静まっているので星が迫ってくるようだった。

いつかこの世界もあの星の海に

行く事があるのだろうか。

魔法が存在するならそう遠くないのかもしれない。

未来には魔法科学とかあったりして。

 俺は色々思いを馳せながら

空とホクリョウの街とスカジの街を

其々見ながら夜風に当たった。


「お出迎えか?」


 空から舞い降りる女性。

その姿は暗がりの中でも

良く映える。


「怪我は無いか?」

「勿論。特にフリッグの

魔術が仕掛けられている

形跡は無かった」

「気付かないうちに

仕掛けられたりしていないか?」

「甘く見るなよ人間。

我にそんなものをしたところで

直ぐに見破る」

「神の力でも?」

「生憎この大地に神はいない。

よしんばそれを持ち出したところで、

下手をすれば修正されるだろう」

「なるほどね。使者の警護御苦労さまでした。

ゆっくり休んでくれ」

「コウも寝るのだろう?」

「ああ。俺が寝ないと他の者が

交代で眠れないからな。

暇をしているなら寝ないと邪魔になる」

「なら寝るぞ。明日も恐らく忙しい」


 その後ファニーと兵舎へ行き、

皆と合流。結局二時間丁度の時間を稼いだ。


「エムリス、また会おう」


 エムリスたちを見送り

俺は眠りに就く。

エムリスが憎まれ口も叩かず、

何か妙な感じだったのが

気になったが、

忙しくなるだろうという

ファニーと同意見だったので

直ぐに就寝した。

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