甘き罪の暗礁(フィアラル・ガラール)
「陛下」
その言葉に視線を向けると、
ガンレッドが居た。
「お、おう」
「大丈夫ですか?」
「陛下、無理なさらず」
「いやいやいや、別に問題無いよ大丈夫だ。
それよりどれ位経っていた?」
俺の問いにガンレッドと
ドノヴァンは顔を見合わせた。
「コウ、あまりの感動に気を失っている
場合ではないぞ? 敵はすぐそこだ。
レンも待っている」
「ごめんごめん。ガンレッド達からの
期待に胸が熱くなってやる気で気を失ってたみたい」
その言葉にガンレッドと
ドノヴァンは微笑む。
「陛下、妙なプレッシャーを感じず、
陛下らしく進んで下さい」
「そうですとも。我々は陛下が陛下
だからこそ信じ託したのです。
どうか貴方の望む世界を見せてほしい」
そう真っ直ぐに言われると照れてしまう。
俺は所在なく頭を掻いていると、
世界はぐるりと縦回転する。
「さっさと行くぞ?」
ファニーに襟を掴まれ外へ放り投げられた。
着地したのはツキゲの背中。
直ぐに体勢を立て直し、ツキゲの首を優しく
撫でた後に手綱を左手で握り、ゆっくりと進む。
ホクリョウはもう目の前だが、
どうやら悠長に入城している暇は無いようだ。
ここからでも分かるほど地面が揺れているし、
声が聞こえてきている。
何か歌のようなものも聞こえる。
「ファニー助かった」
「まぁな。忘れているかもしらんが、
ここの者にああ言った質問はなるべく
慎重にしたが良い。拝まれるぞそのうち」
「紙幣ですらバツゲームなのに
像でも作られて拝まれたら失神するな……」
「像を作るのを法で禁止してはどうか」
「真面目に考えるよ。居ないところで
俺の考えを語られるのは良い気分じゃないしな」
俺は手にしたスットゥングの泡槍を
指先でくるくると回してみる。
安定感というか指先から離れる気がしないんだが。
人差し指だけで回してみたが全く問題なかった。
「遊びは済んだか?」
ファニーの言葉に周りを見る。
皆何か神聖なものを見るような眼差しを
俺に向けていた。
「何だかなぁ」
「歩兵に合わせてゆっくり進むのは良いが、
そのうち取り囲まれて万歳でもやりそうな
感じだな」
「ありそうな事を言わないでくれ。
ファニー、ここは一つ皆がのんびりしている
間に」
「心得た!」
ファニーは馬の腹を蹴ると
一目散にホクリョウの右側面へ
兵士たちの間を巧く掻き分けて
突進した。
「さぁツキゲ!」
俺の声にツキゲは嘶く。
そして対抗心を露わにし
鼻息荒く兵士たちの間を
駆け抜けていく。
「陛下!」
あっという間に皆を置き去りに、
俺とファニーは駆けていく。
懐かしい気がした。
緑は少ないし馬にも乗っているけど、
エルツの街に最初に訪れた日のような
そんな懐かしさがある。
ファニーの顔を見ると、ファニーも
俺を見て微笑んだ。
「さぁ行こうか!」
「一番槍は頂くぞ人間!」
砂煙が舞う戦場に近付く。
トウチの件から我が軍は
其々印を持っている。
見分けがつくように最近導入した。
最もこの戦場に限っては
そんなものは必要ない気がする。
何しろ敵は重武装だが顔を出して
笑顔で何か謳いながら武器を振るっている。
戦況は押されているのは見て取れた。
「あ、あれは!?」
味方の兵士に斬りかかるスカジ兵の顔を
ひと突きして空高く放り投げる。
武装を後ではぎ取って調べるためだ。
「王が、コウ王陛下が来たぞ!」
味方の方が五月蠅い。
そしてそんな事をすれば敵の目が
俺に向いてしまうんだが。
「まぁ望むところなんだ、が!」
俺はスットゥングの泡槍を、
力一杯横に薙ぐ。風と共に倒れるスカジ兵。
それでも笑顔で掛ってくる。
なるほどこれを対等の力でやられた日には、
心折れるわな普通。
「でやっ!」
俺の前を一筋の風が通り抜ける。
そしてスカジ兵もさよならしている。
「懐かしいものを持っているなファニー」
「序盤には相応しいだろう!?
今はこの程度で十分よ!」
ファニーは初クエストの時に
リードルシュさんにおまけでもらった
ブーメランを手に敵兵をなぎ倒していた。
「負けてられないな」
「勝てるかな王様」
その言葉に俺は乗る事にした。
戦場においては互いに命のやり取りを
する、生死の狭間。
そこに命を狙ってくる相手に
情けを掛けている間など無い。
あるのは生か死かの二つのみ。
「相棒、頼む!」
俺は相棒の黒隕剣を抜き放ち、
気を通して前へ放り投げる。
黒隕剣は踊るようにスカジ兵を
次々となぎ倒してく。
「それはズルイのではないか!?」
「相棒も俺の戦力だ」
「そう言う事なら!」
ファニーは大きく息を吸い込んだあと、
口を大きく開き牙を見せた後
炎を吐きだす。
「やるな……舞え! 泡槍!」
俺はそう叫びながら槍を振おうとした。
が、掛け声によって泡槍は螺旋状の金色の
泡を俺を中心に広げた。
「あれ」
気合を入れてばったばったなぎ倒すつもりで
言ったのに何か発動したらしい。
その後直ぐに縮んだが、手元には
金色の槍があった。金色の泡の螺旋ではなく、
しっかりとした得物としての槍が。
「いけ!
甘き罪の暗礁!」
俺は頭に浮かんだ言葉を叫び前方に放り投げる。
泡槍はスカジ兵の群れの真ん中に空から落ち
地面に突き刺さると、黄金色の液体でスカジ兵を
飲み込んだ。そして一か所だけ岩場が現れると、
それを目指してスカジ兵は泳ぐ。
ただ範囲は狭いので登れる人間は限られている。
そうするとどうなるか。想像に難くなかった。




