金色の世界とclass enda
「陛下」
前のドアを開けてレンが
顔を覗かせる。
「じゃあ出るとしますかね」
「あ、陛下」
不意にガンレッドに袖を掴まれる。
「どうした?」
「じ、実はお渡ししたいものが」
もじもじするガンレッド。
何だか俺まで落ち着かなくなる。
そのまま我慢して待っていると、
ガンレッドの横に置いてあった
布に包まれた棒のようなものを
渡してきた。
「ガンレッド様……ついに渡されるのですね」
「はい。コウ王陛下、これは我が一族に伝わる
秘宝中の秘宝、スットゥングの泡槍。
あらゆる困難から活路を開き、
二つの封印と三つの加護を得られる槍です」
「そんな凄いものが……」
「父と母とも話、王が持つに相応しいと」
袋から現われたのは、金色の泡が
螺旋を描くように細長く伸び、
先は三又状態の槍だった。
持ったら消えてしまいそうな気さえする。
「コウ王陛下、心してお受け取りください。
王を元の王族が次代の王と認めた証で
御座います。この譲渡により我ら元王族に
連なる一同も、陛下に絶対の忠誠を
誓うものです」
「それは呪いのようなものか?」
「いいえ。魂の在り処と言いましょうか。
誇りのようなものです。陛下の成す事に
我らも身命を掛け共に歩む誓いです」
「それは困ったな。俺が悪い奴になったら
どうするんだ」
「そうなったらそうなったです。
我々は陛下を指示しお慕いし付き従う者。
何より良い悪いは後で誰かが暇つぶしに
決める事。今の我らはただ日々生きるのみ。
後世の評価を気にするのであれば、
なるべく良い事と思われる方を
選択されれば宜しいかと」
にしてもおいそれと簡単に
受け取れるものではないだろう。
俺が躊躇していると
「コウ、受け取るが良い。
覚悟を決めてガンレッドはお前に託すと
言っているのだ。あまり恥を掻かせる出ない」
とファニーに強く言われ反省する。
「ならなるべく努力するってことで」
「はい。私は前にも申した通り
コウ王陛下にずっと付いて行きます」
俺が槍を手に取ると、
それは金色の輝きを強く放ち、
世界を飲み込む。
「やぁこんにちは」
金色の光が弱くなった時、
目を開くとそこは金色に染まる
空間だった。
「こっちだよこっち」
声の方を向いてみると、
ツンツンと立てた頭頂部に
ツーブロックをガッツリサイドに
入れ、丸メガネを掛けた男がいた。
「どうもこんにちわ」
その瞳を良く見ると、
右目の黒目部分が妙な色をしていた。
「ああ失礼」
男は右目を左手で抑えた後、
手を離すと色が黒目と白目に戻っている。
「君と僕が会うのは恐らく初めてだね」
「声は聞いた事あるような」
「耳が良いようだ。
敢えて名は名乗らないが
順調なようで良かった」
「あんたも俺の事を知っているのか」
「知っているとも。
詳しくは言えないけど、
割と深い関係にある。
でも家族とか知り合いとか友達とか
ではないから安心してほしい」
「そうか」
俺は何だかホッとしてしまった。
そうであったとしたらバツが悪いなぁ
とも何故か思ってしまった。
「あまり喋るとダメだから、
取り敢えず用件だけ話してしまおう。
槍の受け取りおめでとう。
君は条件を満たしてオーディンを
出し抜き槍を手に入れた。
これでまた一手詰めたね」
「今は持っているが、
奪われる可能性もあるだろう」
「それは無いね。そんなに簡単なものなら
もっと早く渡している。
決まった条件をただ動くだけで
達成出来た訳じゃない。
そこには意思が働き選択されたんだ。
正直本当に驚いているよ。
まさか達成できるとは思わなかった」
男は本当に驚いたように
目を見開いて手を上に挙げた。
が、胡散臭すぎる。
「ああごめんごめん。職業的に
胡散臭くないといけなくてね。
正直に生きるには選んだ職業を
間違えた」
「職業?」
「こっちの話さ。まぁ驚いているのは事実。
ここに来て貰ったのは通過したという
お知らせみたいなものだ。
君が今望むかどうかは分からないが、
真実に辿りつきそうな感じだと
伝える感じかな」
「真実……」
俺はその言葉に胃が痛くなる。
きっとそれは何故あの世界に俺が
居るのかという話だろう。
「最もそれに辿りつくかどうか、
君があった管理者も言ったように
オーディンを打ち倒す事で
決まる。
「オーディンを倒さなかった場合は?」
それを聞いて男は白いワイシャツの
ポケットや黒のスラックスのポケットを
漁り始める。
「そうだ。君にこれをあげるよ」
右ポケットから握り拳を出して
俺に向けた。
「怯えなくても良い。
僕がその気になれば今すぐ終わりになる。
それにこう言う事に必要以上に
干渉する気は無くてね」
「必要な分は干渉するんだろう?」
「そうだね。まさに今それだが。
オーディンの変化は分からなくもない。
長く生きるという事は倦怠を招くと共に
絶望と自殺願望を抱くというもの」
「オーディンを俺の手で殺させるのか?」
「本来なら消してしまえば良いんだろうけど、
それは幾らなんでも、ね?
君と言う存在が現れてくれた事で、
彼は自分自身と向き合う機会が出来た。
アーサーのように。
それを跳ね除けるも君たちの選択だ。
その結果は結果として皆受け入れる。
そういう話だからね」
いまいち怪しいが、不快な感じはしない。
俺は手を差し出す。
その掌にぽとりと石が一つ落ちた。
「お守りだよ。
僕は普通の人に比べると
かなり色んな事が可能な人間だ。
人間と言っていいのかどうか
最近疑問だけど、それでも神様じゃない
事ははっきりしている。
何かが終わる時に手助けができる。
その提案を受けて参加した。
今回は初めて最後に辿りつくかもしれない。
楽しみにしているよ」
男がそう言うと、世界は収縮していく。




