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転生者

 私が生まれたのは長閑な農村だった。

朝から晩まで作物の世話に追われ、

夢見る暇も、将来を考える余裕も無かった。

 農作物の刈りいれが終わり、街に売りに出た帰りに

一冊の小説を手に入れた。

それは一人の少女が夢の世界に入り込む話だった。

不思議な王国で繰り広げられるその話に、

私は引き込まれた。

どうやったらこんな話を考え付くのか。

そして私に夢が生まれた。

いつかこんな素晴らしい小説を書き上げたいと。

 

 農作業が終わり家に帰ると、

その後購入した紙とペンで物語を書き始める。

竜と王様の話だ。

私を映した主人公を登場させ、活躍させる。

 物語を一日一日書き続けて行く事に熱中し、

一年かけて仕上げた。

書籍を扱っているところへ持っていくと


「ありきたりだね」


 と言う一言で片づけられ、突き返された。

私は絶望する。

夢も希望も無かった日々に生まれた夢。

それが生まれて初めて絶望させた。

何が足りないのか。

あれも夢物語だったはずだ。

ありきたり?

何度読み返しても、ありきたりだとは思えない。

私だけの物語だ。


 それから何度も付け加え、読み返しては修正し

厚みを増してもう一度書籍を扱っている所へ持ち込む。


「今流行りじゃないね」


 流行りとは何だ?

流行り廃りでは無く、面白いか面白くないかで

決まるのではないのか?

私の目の前は真っ暗になる。

せめて置いてもらえないかと交渉したが、

売れない物を置く場所は無いと断られる。

新聞を扱っている所へ持ち込もうとするも


「無理です」


 と受け付けで断られ、誰にも見てもらう事も

出来ずに帰る。

扱ってもらえないなら道端で売ろうと

自分で売る為、農作物を売り少しずつ貯めたお金で

出版費用を貯めた。

そんなある日の事、書店で男に話しかけられる。


「俺に金をくれれば伝手を使って出版の話をつけてやる」


 今思えば愚かだった。

藁にもすがる思いで、全ての金をその男に渡した。

希望に満ちた日々だった。

私の本が出版される。

農作業の辛さにも、一人の寂しさも苦では無かった。


 農作物を売りに街に出る度に、書店で男を待つ。

何度か繰り返した時に、書店の主から


「あんた……騙されたんだよ。気の毒だけど」


 と申し訳なさそうに言われた。

そんな気はした。

でも信じたくは無かった。

騙されたと信じれば、私の夢が終わってしまう。


「この不景気だからね。金融業界は景気が良い様だけど」


 確かに街には失業者で溢れていた。

どんな事をしてでも金を手に入れたいと言う状況に

私は丁度良いカモだったのだ。


 絶望した。


 街を彷徨い、家に帰らずにいると、

私を騙した男と出くわす。

男は何か言い訳をしていたが、最後は


「騙されたお前さんが悪いのさ。あんな面白くも無い物を」


 と吐き捨てるように言う。

私は手に持っていたペンで男を襲っていた。


 

 その後私は警察に追われる。

 そして発砲音と共に世界は揺らいだ。


 次に目覚めた場所は見た事も無い場所だった。

私は元の服装で道を歩いて行くと、街があった。

広がっていたのは私の時代より

もっと昔の時代のようだった。


 それからここが元居た世界では無い事を知る。

何故か言語が誰とでも通じ、

おとぎ話のようなキャラクター達が生きている。

近場にあった水の入った樽を覗きこむと、

私には角と尖った耳、青白い肌に見た事も無い

コウモリの羽が生えていた。

その後街の人間に見つかり、追いかけられる。


「魔族だ!」


 どうやら私は魔族になってこの世界に来たようだ。

それから森に紛れこみ、魔族と出会う。

魔術を習得し、人に化ける事も出来るようになった。



 その後人に化けて冒険者ギルドなる所へ魔術師として

登録し、日銭を稼ぐ。

過ごす日々は私が書いていた小説のような日々だった。

私は心が躍った。

そして何と私が書いた小説のように、竜が居て

国がそれに困っていると言うではないか。

 私は討伐隊に参加を志願した。

その頃には魔族を通じて

上位魔族と会う事が出来るようになっていた。

記憶喪失というふりをして、

魔族の寿命などを訪ねた。

思ったよりも長生き出来るようだ。

人の精気を吸えば、更に寿命は延びるらしい。

私は魔族の中でも上位のようだ。

 

 私はこの世界に魔族として転生した。

ならば主人公として、この世界の頂点を目指そう。

そう心に決めて竜と相対する。

しかし討伐隊は次々に逃げ出して行く。

私はこの竜を使って何か出来ないかと考え、

竜を封じ込める事に成功した。

 一人国に帰ると、国を挙げて勇者として迎えられ、

その国の姫と結婚し国を継ぐ事になった。

王になった私は、生贄を捧げれば国は安泰だとし、

罪人を生贄にすることを法として定めた。

竜が生贄を逃がしだした所を、私が捕まえ

私は自らの寿命の為に糧とした。


 手頃な死体を用意し、自分が死んだ事にして、

財政を司る人間として国の中に残る。

生贄の儀式を続けさせているうちに、

魔族と人間の混血から得られる魂、

絶望などの要素が加わりそれを練成すれば、

この世で最強の剣が作れる事を魔界の鍛冶師から

知る。

混じり合い隔世遺伝をし、魔族と人間のバランスが

最高潮になった時、魔族へ身を落とせば

準備が完了する。

 それに相応しい最強の肉体を持った王が誕生した。

しかしそれは魂も屈強で、絶望が足りない。

その息子は魔族としての特性を受け継ぎ、

足りないのは絶望だけだった。

 

 私は一計を案じる。

その息子にネガティブな情報を与え続けた。

王は貴方の結婚に興味が無い、

王は生まれた双子を即王座に付けたいと思っている、

というものだ。

 最初は信じなかったが、妻が体調を崩したのを機に

刷り込みを強める。

それは成功し、ほぼ傀儡となった。

王の息子の妻は弱っていたが堕天使だと解り、私は狂喜した。

しかも名はロリーナ。

何と言う偶然。

これは私がこの世界を治める事を約束された様なものだ。

 

 王の息子の妻を魔法陣に放り込み、練成する。

その時に出来たのが堕天剣ロリーナだ。

王の息子に妻が産後の肥立ちが悪く亡くなったと、

嘘の情報を流す。


 王の息子は絶望した。


 そして王にも、貴方の息子は暗君の可能性があり、

このままでは国も危ない。

ジグムード王子が育つまで後見人に自分がなるので

廃位させようと提案した。

王は年を取っており、私を信頼していた為に

トントン拍子で話は進む。

 

 そして王の息子は自分の父と息子を手にかけた。

その後、呼びだした魔族から得た方法で、

私の精気を吸い取ろうとしたが、それを利用し、

王となった王の息子と魔力で繋がった。

 

 後一歩でこの世界は私のものとなる。

妙な冒険者が現れたが、王の覚醒に使える。

私は策をめぐらし、遠回りをさせ、

王が呼びだした魔族達に準備をさせた。

その間姿をくらまし気を窺っていた。

 望み通り王は魔族に身を落とし、

絶望に取り付かれ、冒険者は追い込んだ。

全て計算通りだ。

私の書いた物語の結末を忘れるほどに。

しかしそれはもう必要ない。

私が生きる道が結末となるのだ。


 もう少しで邪魔ものが居なくなる。

思い描いた結末を手に入れる事が出来る。

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