開墾団の視察
懲罰開墾団とは、戦争時に仮病を装って
帰国した者たちの集団だった。
それを主導したものはトウシン出身の
兵士だった。親衛隊がロキたちと共に
調べたところ、トウシンから賄賂と
トウシンでの身分の保障を約束されて
いたようだ。結局国内を罪状を書いた
看板を背中に縄で縛って馬に乗せて歩か、
この首謀者とその仲間達はこの為に
潜入した事もあって処刑。
それに与した以前から国内に
住んでいた者は、家財一式接収の上
懲罰開墾団として一族全員が連座する
事となった。
今回はその様子を一度は見たいと
思ったのと、一人気になる人物が
居たのでそれも見たくて来た。
「国内と比べりゃ酷いかも知れないが、
カイヨウやスカジと比べたら
そう違いはないぜ?」
セイヨウとホクリョウの間、
国から北西の方角の未開拓地に
懲罰開墾団の家族が居る集落がある。
ここではロキやイシズエ、ナルヴィ
そしてオンルリオの四人の
チェックを通った優秀な親衛隊たちが
監視にあたっている。
その集落は土で出来たカマクラが
何個か並んでおり、そこで生活している。
俺としては簡単に復帰を許すつもりはない。
が、その仕事ぶりや評価が高ければ
復帰をさせる。そうする事によって
処分の重さや辛さを他の者たちも
知ることになる。
誰だって死にたくないのは同じ。
他の者に殺す事も死ぬ事も押しつけて
自分だけが生き残るなんて都合の良い事が
まかり通ってしまえば、
立ち行かなくなるし周りが
やる気満々なのだから最終的には
奴隷になるか死ぬしかない。
「そう言えば何人か逃げ出した奴も
いるらしいな」
「そりゃそうだ。今まで国で
陛下の恩恵を受けてぬくぬくしてたのが
一転して復興前に逆戻り。
あの良い生活を長く味わってから
これはキツイぜ。何より家族だけど
自分の所為じゃないってなれば尚更だな」
ファニーとレンが言うように、
既にここから他の国へ去った者もいる。
去る分には追わない。
ここでは最低限の食事は出している。
医療も最低限だが受けられる。
「で、陛下は誰を見に来られたのですか?」
「ああ。今懲罰開墾団を纏めている、
ロウっていう人物だよ」
このロウという人物は、
ここに来る前は分隊の隊長を務めており、
取り調べでも黙秘を貫いた。
だが周りは喋る。どうも首謀者と
仲間の中に一人分隊の者がおり、
身内の不幸話を聞いて同情し
与したようだ。身内の話は調べたところ
全くの嘘であり、結局騙されていたと
知っても絶対に口を割らなかった。
自分の所為としか言わなかった。
「一つ聞きたい事がある」
正門から通らず、皆で裏口から入り、
岩場を掘削しているロウに後ろから問いかける。
浅黒く焼けた肌に上着も着ずに、
そのぼさぼさの白髪を揺らして
岩をつるはしで砕いていた。
「何も言う事は御座いませぬ」
「何故多くの者を見殺しに地獄に落とした?」
俺の言葉に一瞬手を止めたが、
直ぐにまた掘削し始める。
キンキンとリズミカルに岩を叩き、
それが割れると後ろの台車に乗せる。
はっきりいって岩は沢山ある。
比較的柔らかい岩もあるだろうが、
整地するにはどれだけの労力と
時間がかかるか分からない。
それだけでも気が遠くなる。
俺はしばらく見ていたが、
近くにあったつるはしを手にし、
ロウの隣で掘削を始めた。
最初は驚いて手を暫く止めたが、
また動きだし掘削をする。
俺は無言のままただひたすら
岩につるはしを打ち付け叩き割る
そして片付ける作業を日が暮れるまで
やってみた。
途中でファニーやレン、
ガンレッドも加わり、
五人で掘削をした。
言葉も無くただ只管無言で。
「自分の身勝手を貫きました。
その結果騙され自分以外の者が
死に地獄を見ている」
岩を片付けて帰ろうとした時、
ぼそっとそう言った。
「で、どうする?
今もまだ自分が殺すよりも
遥かに良いと、国の為になると
そう考えているのか?」
「それは……」
「お前にしか出来ない事を
捨ててでも、お前が動く事で
より多くの人の命が守られたとしても
それでも続けるか?」
俺の問いに返事は無い。
分隊長というものは、
誰もが勤められるものではない。
軍の動きに従い乱れなく導き
より多くの敵を退け
味方を者を帰還させる。
そういうものがいなければ
動きは乱れより多くの死者が出る。
死ぬ事はなかった者だけでなく、
長引く事でしなくて良い戦も
出てくる。
それが分からないのかもしれない。
「俺は戦を長引かせる気はない。
だが確実に焦らず勝ち被害を抑える為に
慎重に止まる事無く進んでいる。
……開墾をしながらよく考え
振り返ってみてほしい」
俺はそう言い残してその場を
後にした。親衛隊たちに挨拶をし、
労いと激励の言葉を開墾団にも
掛けて国に戻る。
帰ってから直ぐイシズエと
ナルヴィに書類の山を渡され、
お小言を貰った。
毎日朝夕と会議を行っている
訳ではないので、今日は大丈夫な
はずだと思って視察にこっそり行った。
王様という立場上、
次は護衛をもう少し付けるよう言われる。
俺としてはこれでも多いくらいなのに
と思ったが、長くなるので了承して
書類を処理してその日は過ぎた。
「じゃあ行くよ」
この日も重要な案件は無かったので、
朝の会議後今度は通常の開墾団に
視察に行くと告げた。
こっちはトウチと忍びの里周辺の
開墾開拓作業をしている。
人が多くその場で生まれた技術も
あると聞いて楽しみにしていた。
が、前日の事もあって護衛は多く、
ナルヴィ指揮の元ガチガチの
親衛隊護衛で向かい、
予定通りの視察を終えてその日のうちに
帰ってきた。残念。




