帰国後の朝を迎えて
その日はそのまま床に就き、
次の日の朝から情報収集や
会談での整理をしていた。
一応警戒はしつつも、
警戒レベルを上げずに
カイヨウは監視しておく。
今後重点を置きたいのは
やはりスカジだ。
トウシンも勿論怖いが、
スカジは更に怖い。
何よりトウチが落ち着いていない
状況で、布教の波は押し寄せて
きている。
防波堤が必要だろう。
個人的には万里の長城を立てた
始皇帝の気持ちが分かった気がする。
俺の場合今後現われるであろう
強制や洗脳による布教それに伴う詐欺や
重臣への浸透による国政の阻害など、
そういったものをなるべく最小限に
抑えたい気持ちもある。
万里の長城もその長城があることでの
安心感からか、周りで交易所が発展した
という話も聞いた事がある。
俺としてはスカジの全滅は望んでいない。
最終的にはフリッグさんと対決して勝ち、
未来に繋げたいと思っている。
なので表向き自然発生、裏向きは
国営という交易所を作る為、
ロシュとリシェの兄弟そして
ウルシカの三人に計画の立案を
頼んだ。万里の長城とまではいかないまでも、
それなりの高さの監視所を
国境ギリギリに立てる事も加えて貰った。
「さてと」
会議も終わり皆新しい計画も
出た事で予算や人員など
其々の部署で見直しする為
足早に出て行った。
残ったのはレンとガンレッド、
そして今のところ俺の補佐と言う
位置付けになっているファニーだけだ。
「陛下、少し良いか?」
「なんだレン、改まって」
「ちょっと気になる事があってな」
レンの顔を見ると、
いつもの明るい感じではなく、
珍しく真面目な顔をしていた。
「何でも言ってくれ。
聞ける事と聞けない事があるが、
善処すると約束しよう」
それを聞いたレンは一瞬笑みがこぼれたが、
直ぐに神妙な顔をした。
「有り難い。会談での感じからして、
スカジへカイヨウは第二戦を
しかけるだろうと俺は見ている」
「だろうな。アーサーの事だ。
俺に誠意を見せるという事だから、
俺たちの国の国境近くにある
スカジの都市を攻めるんじゃないかと
俺も思っているよ」
「だよな。その時なんだが」
「良いぞ」
「え?」
「構わない」
「何が」
「助っ人に行きたいのだろう?
我が国にとっても利になる」
そう俺が答えると、
レンは頬を右人差指で掻いた。
「何だお前たち以心伝心か」
「そ、そうなんですか!?」
ファニーとガンレッドが
書類から目を上げ突っ込みと
リアクションをした。
「ちげー! とは言え意を汲んでくれて
感謝するよ陛下」
「気にするな。お前のこれまでの働きは、
言葉に表せないくらい大きい。
それに報いてやれたかは分からんが、
気が向いたら帰って来い」
俺はそれ以上何も問わなかった。
帰って来て欲しいが、
故郷というものは恐らく想像より
重いのだろう。離れてみて初めて分かる
という事だと想像する。
思った以上にアーサーと重臣の距離が遠かった。
俺も人の事は言えないが、
反乱が起きるかもしれない。
アーサーは言うほど味方が居ない気がする。
レンのようなパイプ役は必要だろうな。
とても寂しいが、良い奴だから幸運を
祈ってその時が来たら送り出してやりたい
そう考えている。
「今日のお散歩はどこだ?」
お散歩は一人でする主義だった基本。
割とチート能力を受けて幸運値と
能力値はハイレベルな筈だ。
脳味噌は強化されていない気がするが。
「準備できましたー」
「いつでも構わないぜ」
今日は捕まった宇宙人ではなく
騎馬戦状態のフォーメーションである。
どーにも動き辛い。
「レンもガンレッドも仕事があるだろう?
おっさんの趣味に付き合うな」
そう言って追い払おうにも無視される。
三人の隙を突いて城の窓から一気に
街中の屋根の上を飛び中心部に出たのに、
ビタッとくっついてきた。
俺は新しい能力で人だけワープさせる事が
出来たのかと勘違いした。
「懲罰開墾団か……」
レンは忌々しそうに呟いた。
俺の視線の先には戦闘を拒否して逃げ出し、
それを徒党を組んで計画的に
集団で行った者たちが開墾に出かける
様子が見えた。
「名前からして気持ちの良いものじゃないな」
「はい。ですがここを緩くしてしまえば、
誰も戦う事は無くなってしまいます。
そうなれば相手の国に蹂躙され
さながら地獄絵図になる。
最悪の選択ですが、選ばなければならない」
「行くも地獄引くも地獄、か」
ファニーとガンレッドは呟いた。
「一緒に来なくても良いんだぞ?」
またしても俺の言葉はスルーされる。
返事がないので俺はその懲罰開墾団の
後をこっそりつけていく。
「で、陛下の狙いは何だ?」
「大方気になる者でもみつけたのだろう。
何しろ女より男を探すのに忙しいらしい」
「え!?」
五月蠅いのぅ……。
皆推挙をしてくれるし、
採用率も高いから不満は無い。
が、皆基準が同じようになって来て、
同じ感じの人がよく来る。
こないだ一人で散歩してて
笑ってしまったのが、
推挙塾なるものが出来ていた事だ。
そこでは俺に採用される為に
気をつける点など対策が練られていた。
何というかこの世界で学習塾または予備校の
ようなものが見せられるとは、
げんなりしつつも笑った。
俺はこっそり化けて潜入して
聞いていたが、勉強になった。
今俺に推挙されるなら、
真面目で口数が少なく非筋肉質で
更に性格は細かい事もきっちり
寝ぐせ一つ服装の乱れなく、
発言も理路整然としていて物怖じしない
性格が良いらしい。
未だに思い出しても笑ってしまう。
今俺の周りに居るのは寝ぐせがあり
口数が多く筋肉質ぽいのが二人入る。
ガンレッドは該当するけども。
「君たちには俺の推挙塾に行くことを
お勧めするよ」
嫌味で言ったが懲罰開墾団の
後を付けつつ話題はそれに占拠された。
爆笑続きでまるでピクニック状態である。




