駆け引き
「アーサー王、何か御意見が」
エムリスも切り上げようとしていた
ところにアーサーから言葉が出たので、
慌ててエムリスはアーサーの顔を見ながら
尋ねた。
「お前に任せていたが、
ここからは私も喋らせてもらおう」
アーサーは穏やかにほほ笑みながら、
子供を諭すようにエムリスに言った。
これが悪の王ねぇ……。
「先ずはコウ王には私の部下たちの
度重なる失礼、そしてこの場での
無礼をお許し頂きたい」
その言葉の後にアーサーは
白く染まった頭を下げる。
それに対してエムリスたちは
お止め下さいと大げさに止めた。
「アーサー王、頭をおあげ下さい。
貴方が頭を下げてどうなるものでもない」
俺ははっきりと告げた。
王のコントロール不足な点もあるだろうが、
アーサーは俺より後から王座に就いた。
元々の俺の国とカイヨウとの関係もあって
敵対意識があるのもしょうがない部分もあるし、
短期間で解消出来る訳もない。
俺としてはいまいち狙いを掴みかねている。
謝罪をするなら一番先だし、
この期に及んで謝罪したところで、
交渉はまったく有利にはならない。
寧ろ火に油を注いでいる。
「確かに。我が方の無礼はそちらの国にも
原因がある。が、コウ王の治世になってから
我らに対して無礼は無い。寧ろ先に仕掛けたのは
我々の方である事は明白だ。
無礼の数を数えれば、この会談を開く必要性は
全く無い。貴国、我々はコウヨウと呼んでいるが、
コウヨウは資源豊かで士気も高く、
また人口の増加に文化レベルの向上、
軍の組織レベルの高さ
どれも著しく進歩している。
籠城となればはっきりいって
最後まで残るのはコウヨウのみ。」
アーサーは諸手を挙げて褒めたのではなく、
冷静に戦力を分析した上で分かり難いが
感謝していると言いたいようだ。
「コウ王も私と同じく冷静に戦況を分析し、
我らの国と同盟を組むのは、いつ背中から
刺されるか分からないし利が無いと
判断してこ度の無礼も触れず検討すると
言ったのだろう。私が同じ立場なら
コウ王と同じ事をする」
俺はあえて何もリアクションを取らず
黙って身動きせず聞いていた。
「当方の事情も御存じの事と思う。
我らはスカジに手痛い傷を負わされ、
現状その回復に努めなければ
国が無くなるレベルだ」
その言葉にエムリスたちは慌てたが、
アーサーは手を広げ黙らせる。
「塩害が多くその影響で土地も痩せている。
また商いをするにも現状コウヨウとは
セイヨウ占領の件もあり、
表向き禁止されてはいないものの
厳しい取引になっている。
トウシンまでの行き来でスカジ側を
通る場合関所で通行料を取られる始末。
スカジと一戦を交えたのもそういう
経緯があっての事」
「あ、アーサー王!」
「良い。今更隠す事ではない事は
コウ王を見れば分かる。
お前たちには分からんかもしれんが、
備えを万全にし余裕があるものは
特に目と鼻が利く。そうだな、コウ王」
俺は問いかけられたが、
お地蔵様のようにそこにいるだけ状態に
なっていた。
「例え戦になったとしても、
この土地に不釣り合いな手をコウ王以上に
重ねてこない限り、
コウヨウは盤石。士気も支持も
揺るぐ事はない。
そう言った裏付けもあって、
我らと無理に休戦協定を結ぶ必要は
無いと彼は判断したのだ。
何しろ協定を結べば相手が攻めるまで
攻める事は出来ない。
スカジのような国がある以上、
休戦協定を犯せば大義が失われる
だけではなく、フリッグ教に
乗っ取られる可能性さえある」
まるで授業を聞いているような
気分になってきた。
アーサーの言う事は間違っていない。
俺の少しの驕りにも注意してくれるとは
流石宿敵と言わざるを得ない。
俺はどうあっても負ける訳にはいかない。
この大地を開放し世界を繋げ、
アーサーとも決着をつけ
オーディンを引き摺り下ろす為に。
「それを冷静に考えられない我が方の
不徳をコウ王にまで支払わせる訳には
いかない。先ずは私たちの無礼を一つ
解消させてほしい。何か要求は無いだろうか」
卑屈さは無く、穏やかに俺に問いかける。
だが言葉をよく理解すれば、
ズルイのは休戦協定の為の要求ではなく
あくまで無礼へのお詫びとしての要求が
無いかどうかを俺に尋ねている。
それは断れば相手との感情の軋轢を
表に出すことになり、今後解消は望めない。
うちとしてはかなりの痛手を払えば
恐らくこの大地で生き残ると考えている。
が、王として国民に多大な犠牲を
払わせる事は考えていない。
故にこの会談にも応じて丁寧に
場を整え対応している。
良ければ同盟を、悪くてもこちらは
普通に対応し相手を良い気分にさせて
終了、検討で永遠に引っ張る算段を
していた。
何より今はユグさんも居てくれたお陰で、
交渉は俺の国の掌の上だ。
トウシンも何かあれば交渉に応じる用意はある。
スカジはフリッグさん以外の例えば
レジスタンスと結ぶ事は十分に考えてもいた。
カイヨウでなければならないという事もなく、
さりとてわざわざ刺激する事もない。
なので”検討します”は便利な言葉だなぁと、
今の立場になって心底そう思った。
「分かった。ならば解消の一つ目として、
そちらの所有している能力について
教えてほしい」
俺の言葉に相手側はアーサー以外が
慌てふためいている。
俺は詳細だとか全てだとか言っていない。
あくまでアーサーの頼みを聞くし、
友好的な関係を築く気はあるという
態度を示す為に、またその先の対価として
能力に関する事を言うよというものの為に
あえて要求した。アーサーに対する返礼でもある。




