最終戦!
王を圧倒したコウの前に現れたのは!?
「もう終わりだ、王よ」
俺は剣を片手で持ち、王に近付く。
ダンディスさんと、リードルシュさんの
肩に手を置きながら、前へ進む。
これで決着だ。
「何が終わりだ小僧!」
王は突撃して来る。
それを受けとめた。
衝撃波は後ろへ流される。
「なっ!?」
「魔力も体力も気力も十分だ。痴人の夢の終わりを知れ!」
俺は全力で王に斬りかかる。
王は必死に防戦するも、切り傷が出来始める。
「な、何故だ!?貴様程度に我を傷付けられる訳が!」
「言っただろう?俺には仲間がいる。背中を預けられる仲間が」
「それが力の元か!?」
「そうだ。人の力だ、王よ。お前は一人だ。人の力を信じず、魔に身を落としたお前が見限った力だ。思い知れ!」
俺はみなぎる力で王を玉座まで押し込んで行く。
剣から伝わる悲しみや憎しみ。
そして後悔と自責の念。
王は魔族に身を落としても、まだ人の心の部分があるようだ。
――自分も妻が生きていれば――
――自分も父に認められていれば――
――自分も支えてくれる人達が居れば――
――自分も優れた力を持てていたら――
剣を交える事で伝わる。
だがそれらは言い訳でしか無い。
俺もそう思って、何度世界を憎んだか知れない。
だから解る。
そして俺は元の世界から追い出された。
こちらに来てからも、決して恵まれていたとは言えない。
でも、変わりたいと思い始めてから、
世界は色を変えたように見えた。
きっと元々そういう色をしていたのに。
ただ気付かなかっただけ。
王も気付かなかっただけだ。
でもそれももう取り返しのつかない方法を取った為、
帰れない。
「ぐおああああっ!」
王は負のオーラを解き放つ。
恐らくこれが切り札。
しかしもう。
「今さらだ」
王は錯乱したように斬りかかってくるが、
俺は涼しい顔でそれらを斬り払う。
次第に傷ついて行く王の剣。
「馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!」
「馬鹿はお前だ!」
王の剣が砕かれ、俺は王の腹を蹴り飛ばす。
玉座に崩れ落ちて座る王。
「さぁ、これでこのくだらない騒乱も終わりだ」
「ま、待て!今俺を殺せば、お前達は酷い目に遭うぞ!?」
「父上!どこまで見苦しいのですか!」
背後から聞き覚えのある声が飛んでくる。
王座の間の扉を開けて、ファニーと姫が立っていた。
「姫……、貴様に何が解る!?俺の妻を奪い、父を奪い、民も兵も奪った貴様に何が解ると言うのだ!」
「父上、お解りにならないのですか!?父上は決して暴君では無かった。確かに生贄をささげ続けた事で、国の中に疑心暗鬼はあった。それでもこのアイルの人達は活発に日々を生きていたはずです!そして兵は、兄上のように率いる資格が無いと知って将軍たちに軍を任せた父上を、蔑ろにはしていなかったはずです!」
「だが我よりも姫に皆は期待を寄せていた」
「ええ、それも父上が統治していたからこそ、後を継ぐ者として期待されていました。でなければ、私が王になっていたとお思いになりませんか?」
「……」
王は姫の声にうなだれた。
もっと早く姫と言葉を交わしていれば、
思いとどまれたのかもしれない。
姫も同じ思いだろう。
「コウ殿、後の事は私が」
「いやダメだ」
「いえ、父の不始末は私の手で」
「ダメだよ姫。姫に父殺しなんて似合わない。そしてそれをすれば、姫はずっと自分を憎み続ける。そんな王に誰が憧れる?統治される事を望む?」
「……コウ殿」
「良いんだよ姫。これは俺が望んだ俺の仕事だ。この国で最後の仕事。姫、憎むなら俺を憎め。父の命を奪った者として。そして自分を責めないでくれ」
俺はゆっくりと王座へと歩く。
王はうなだれたまま、抵抗は無い。
「王よ、懺悔は地獄で。なぁに、俺もそう遠くない未来に行くさ」
俺は黒隕剣を振り上げる。
「さらばだ、王よ……」
祈りの言葉を捧げ、その首を落とすべく振りおろそうとした。
「待てコウ!」
その言葉を聞いて直ぐ、俺は横に倒れる。
姫が俺に飛び付き、倒してくれた。
そして見ると、王の体に黄金色の剣が突き刺さっていた。
何だこれは……神々しさと禍々しさ、
相反するものが合わさり同居した剣。
「存外持たなかったなぁ王よ」
その声に聞きおぼえがある。
思えばずっと誘導されていた。
生贄を調べに行くと魔族などの大群、
ビルゴとの対峙、アリスとの対峙、
首都アイルの惨劇に、行く先々で
タイミング良く現れる敵。
こちらの戦力を分断し、
王と均衡を保ちつつ戦わせ、
準備が整うと、俺の仲間がここへ来る。
王を追いつめる人材も、集められた。
俺も遠大な策略の上で踊らされていたのか!
「礼を言おう冒険者よ。これで私の剣は完成する」
それは天井を崩して現れた。
禍々しい気を纏い、悪役らしい笑顔をして。
「ぐああああ!?」
王の叫びが聞こえる。
紫色の炎に焼かれ、王は一振りの剣へと姿を変えた。
「さぁ来い、我が愛剣キャロルよ!」
その声に反応し、剣は声の主の元へ飛んでいく。
黄金色の剣と共に。
「これぞ覇王よ、これぞ魔王よ。見るが良い愚か者どもよ!全て私の策略の通りだ!」
二剣を右と左に握った宰相は高笑いをしながら、
徐々に若返っていき、金髪の血色の良い若者になる。
なんてことだ。覇王とかになると若返るのか。
俺も出来れば若返ってやり直したいものだ。
「アグニス宰相殿……何故貴方が!?」
「アグニス?……ああ、そう名乗っていたな確か」
アグニスはニヤリと嫌らしい笑顔を浮かべて答える。
「なるほど、ファニーが逃げ出した事をいち早く知り、ダンディスさんとリードルシュさんに情報を流せたのは変だと思ってた」
「流石察しが良い。そういう事だ。解る筈が無かろう?老いぼれごときが、竜の千里眼も無しに」
「ずっと騙していたのか」
「そういう事だ。隔世遺伝の時を待ち、材料が揃うのをジッと待っていたのだ。この剣を作るには、色々と条件が必要でな。前王では絶望が足らず、それまでの王では能力的に足りなかった。私は姿を変えてずっとずっとずーっとこの時を待っていたのだよ」
アグニスだったものは、両剣を素早く薙ぐと、
王座の間の壁に穴をあけた。
「ついに手に入れた。完璧なる力。神も、魔も、そして人も、全て私の中にある!貴様らにとっては残念な話だが、私は夜も昼も関係ない。力が左右される事も無い!情も何もない!全力で貴様らに褒美をやらんとな!」
金髪の青年は半狂乱して笑い始めた。
耳障りな声だ。
「姫、無事か?」
「な、何とか……」
だが身震いが止まらないようだ。
それはそうだろう、父が死んだこともそうだが、
宰相の遠大な策略に、更に宰相が宰相では無かった
そして血の流れから恐怖しているのだろう。
「竜を倒そうってか?」
俺がそう問うと
「竜を倒す? ああ、邪魔だったし生贄を手に入れる為に、封印を施し利用していただけだ。別にあの時でも倒そうと思えば倒せたのでな。だが完全となった私にはどうでもいいことだ」
「そうかい。アンタが勝つとは決まってないだろ?」
「何を言っているのだ。勝てる訳が無かろうにお前達が」
「なら始めようか」
俺は姫の方に手を置き、最後の戦いに挑む。
遠大な策略を完成させ現れた元アグニスだったもの。
その正体と結末は!?