対アーサー会議その二
「陛下、私も同意見でございます。
カイヨウにとって武とは
心の支えの様なもの。
少ない人数で国を維持しカイヨウ民が
ここまで生き残ってこれたのも、
他国より武が勝っていたからこそと
思っております。
それがこのような惨敗の結果を
見せられますと、
軍事の一端を預かる者として
同盟を結ぶ事は考えなおされては
如何かと」
ノウセスは努めて冷静に
生まれ故郷を分析し語った。
その言葉にジグムも力強く頷く。
「……では話を進めよう。
仮にアーサーが同盟相手として
相応しくない場合、
他の二国間はどう抑える?
俺も申し訳ない事に、
あの霧の正体が完全には解らない。
あれをあのまま使われるのもそうだが、
別のものを出された場合
下手をすると五つ使うだけで
この国まで来れる」
俺の言葉に皆唸る。
見てない者には想像し辛いだろうが、
見ないで済む事を望むばかりだ。
「仮にアーサー側にあの霧の正体が
あれば、手を組むに値するって事か」
レンは溜息を吐いて両手を組み
テーブルに肘を付いて顎を組んだ
手の上に乗せてそう言った。
レンの態度からして望みは薄そうだ。
「そう言う事だ。ただスカジの兵との
戦で使ったのかどうか」
ロキは視線を一旦天井に向けた後、
少しして
「いやそんな形跡は無かったね」
と答えた。
「となると別の事を考えるべきだな」
「ではスカジとトウシン方面の情報集めを
強化いたしますか?」
ナルヴィは久々の帰国で上機嫌で
仕事の早さも倍以上に感じるほどだ。
ナルヴィはすぐさま俺にだけ
書類をスッと出してきた。
見るとハンゾウとリクト、グオンさん
そしてロキと話してリストアップした
諜報員の名前がずらりと並んでいて、
今現在の諜報活動の割合と、
スカジトウシン方面に重点を置いた
場合の割合を示したものも
同時に纏まっていた。
当然マイナス面も書かれている。
「これは俺の考えだが、
今の段階でアーサーのカイヨウを
下に見て交渉するのは危険すぎる。
手負いの虎に下手に手を出せば、
痛手を負うのは我々だろう。
そこでヨウトの案を少し改良したいと思う」
「と申されますと」
「同盟という形を取って物資のみ融通する。
その代わりアーサー組の能力を全て明かしてもらう」
これに対してレンは不味いなぁと
言った顔をした。レンの性格からして
元の国を売るような行為は
なるべくしたくないだろうし、
俺もなるべくさせたくはない。
なので話を聞いた後の表情だったりで
判断しようと思っている。
「向こうが拒否した場合は」
「物資の融通は無し。同盟も口約束になるだろう。
生憎向こうは手を出すのが早い奴が
何人か居るし、破棄させる動きも
考えられるだろう」
「いいねぇそれは。是非僕にやらせてくれよ。
ガッタガタにして歯の一つも残させない」
ロキは悪い顔をして意地悪そうに笑った。
「まぁ適任だろうしな。
あまり一般市民に被害が出るような事は
してくれるなよ?」
「当然。そんな事をしたらスカジが調子に乗る」
「そっちも色々してくれるんだろう?」
「勿論さ。僕からすればそっちが本命なんだ。
それこそ地獄の海に叩き落としてやる」
何というかカイヨウの人たちは清貧で
武術に人生のすべてを傾けていただろう。
成り上がるにも武術、死を遠ざけるのも武術。
それが通じず笑顔で死にに来る人間。
ここで恐らくロキなら喜んで煮えたぎる油を
撒き散らして高笑いするだろうなぁ。
俺はニヤニヤしているロキを見ながら
ゲンナリした。
「で、皆の意見はどうか」
俺は気分を切り替えて皆に尋ねる。
特に反対意見も無く、その後は融資する
物資の量などの話に移った。
その時に諜報員は混ぜず、ただ送るのみ
に留める事にした。
どうもヨウトはカイヨウに対して
与し易いと考えている節があって怖い。
セイヨウを取り戻した事で
名誉挽回したと思っているとしたら、
今後孤立しないか心配ではある。
翌朝、会議後の纏めをしつつ
方針が固まったので、
カイヨウへ使者を出す事にする。
レンが指名されたが断り、
ノウセスも同じく断った。
ナルヴィが指名したのだが、
これも他の人間への
二人が内通していないという
アピールの為にしたようだ。
踏み絵的で好きじゃないので、
以後表だってしないよう本人達の前で
ナルヴィに言っておいた。
結局重臣の中で中堅の戦術局の
動く岩ことガロムが行く事になった。
口数が少なく表情が変わらない。
がその少ない言葉が出る時は、
全て端的に述べるし喧嘩を売られても
一切買わないし、その恵まれたガタイで
戦闘では相手を返り討ちにし捕らえる技量も
持ち合わせている。
また議論においても相手に乗らず、
淡々と意見を交わすので、
使者に最適だろうと全会一致を見た。
「はてさてどう出てくるかな」
「会見の日時に問題は無いでしょう」
「ならこっちはこっちでホクリョウに
ついての問題を先に片付けるか」
ナルヴィと使者を送りだした後、
ホクリョウについて報告を受けていた。
俺に対して文句を言ってきた住人が
反王団体を作り抗議したらしい。
ナルヴィは暫く放置したのち、
住民からの苦情が出てから処理を
したという。国外退去だ。
その後その者たちは暫くして
ホクリョウ近くまで来た。
「まぁ来るだろうとは思っていたがな」
「はい。まったくもって解りやすい行動ですな」
そう日数が経った訳でも無いのに
すっかりスカジに染まりフリッグ教団の
熱狂的信者となってホクリョウの付近で
大声で演説しながらぐるぐる回り続けたらしい。
その異様さに住民から更に苦情が出たので
追い払ったようだ。
「俺を倒せれば何でも良いという
性質の悪い類の人間だったか」
「本来であれば陛下ではなく、
行きつく先は己だと思いますが、
それを直視できないのでしょうな。
そんな人間はフリッグ教団の
格好の餌食だったのでしょう」
「ただこれで住人に恐怖心が芽生えた訳だ」
「諸刃の剣ですな」
「危険が大きすぎるが。
兎に角街に容易に近付かれて、
抗議活動を昼も夜もされたのでは
住民が参ってしまう。
警護の兵を増やすと共にホクリョウでも
兵士の募集を強化してくれ」




