少し緩めの日
「オンルリオ、調子はどうだ?」
俺は昼食後、ご機嫌なガンレッド秘書官と
レンを伴って兵舎を訪れた。
本来ならふらっと散歩がてら一人で
来ようと思っていたが、びた付けされた。
ロキからも一応警護は付けるよう言われて
こうなっている。
兵舎の入口から兵舎長室へと通された。
書き物をしていたオンルリオは
俺が入って挨拶すると急いで立ち上がり
席を空けた。
「要らん要らん。悪いな邪魔して。
どんな調子かと思って」
「あ、はい。陛下のお陰で順調です」
「俺は寧ろ仕事を増やしてしまってる人間だ。
良くやってくれている」
「とんでもございません」
「お世辞ではない。オンルリオの仕事は
国にとって縁の下の力持ち。
皆が生きて行く為にどんな状況でも
訓練は大事だ。平和な時代になったら
無くすよう明記したが、新成人から
兵士として訓練を受けるようになった。
必要な事があれば遠慮なく言ってくれ。
決して抱え込まないようにな」
「はっ! 陛下のお心遣いのお陰で
皆さん声を掛けてくださって有難い限りです」
「なら良かった」
オンルリオの顔を見る限り、
前を向いて名誉挽回に努めてくれて
いるようで何よりだ。
部屋の雰囲気も整理整頓され
明るい陽の光が入っている。
暗さはどこにもない。
こんな事を言うのもなんだが、
俺は元引き篭もり。
引き篭もりの部屋はもとより、
そうなっていく準備段階みたいなものは
解るつもりだ。
特に元々綺麗にしていたような人物なら
尚更顕著に出る。
かく言う俺も両親に殴られて付いた、
片付けに対して潔癖とも言える
レベルだったものが、
この世界に来る前には
ゴミ屋敷になっていた。
「少し訓練を見て帰るとしよう」
「お、お供します」
「いや良いよ。俺が来た事で
いらんプレッシャーを掛けても
申し訳ない。ゆっくり仕事しててくれ」
俺はそう告げて兵舎長室を出る。
そのまま建物を出て、裏手にある
二つ目の塀の外に作った訓練場に
足を運ぶ。ここでは復帰兵や
直前の戦闘に参加し休み明けの者、
まだ入隊したばかりの者たちが
訓練をしている。
俺を見かけて皆集合し、
列を作って並んでくれた。
やはりこういう形の訪問となると、
どうも仰々しくて申し訳なくなってしまう。
それでも集まってくれた者たちに
復帰兵や休み明けの兵には
労いと感謝を。入隊したばかりの者たちには
体に気を付けて、身近な人を護る為に
頑張ってほしいと。
またオンルリオは俺以上に皆の事を考え、
兵士として生きて帰るべく訓練メニューを
考えているので、生きて帰る為に
一丸となって頑張ろうとも告げた。
元気に返事をしてくれた皆と
一人ずつ握手を交わしたいところだが、
暗殺などを警戒した二人によって制止されたので、
代表者と握手する。
「ロシュ、頑張れ」
「はい陛下」
「後で城に来るようにな。
ロシュは新成人の中でも仕事が多いから
体調を崩さないように」
「俺だけじゃありませんよ」
「勿論。開発課のミシェルも
戦術局のオレインも畜産局のノイも。
挙げたらキリがない」
「失礼いたしました」
「いや良い。では皆また会おう」
そうして兵舎を離れる。
そこから更に大通りで商店を回り、
経済の様子を見、学校を訪れて
授業風景を視察。水局を訪れて
治水状況と新たな水路の建設を
模型を交えて説明を受ける。
そこから戦術局に顔を出して
激励し、街の中を見て回り
区画代表とも世間話をした。
「まずまずって感じかな」
俺は夕方に王の間へ戻り、
椅子に座って一息吐いた。
「あれでまずますかよ」
レンは少し離れた横に座ると、
げんなりしながらそうつぶやいた。
「握手が増えたらもっと遅くなっていた」
「握手を増やしたら更に余計な話も増えるし
恐らく仕事も増える。
そう思ったから止めたんだ。
やんごとなきお方に軽々しく話すだけでなく、
苦情とも取れる事を言ったら
そいつが処罰されることになるんだ。
陛下もそこを考えてくれないと」
「あー、なるほどね」
「狂信的なファンもいる。
それとは反対に否定的なファンもいる。
冒険者であったならいざ知らず、
今は王様なんだから節度を考えてくれ」
「解った考えるとしよう」
ガンレッドが笑顔で入れてくれた、
ハーブティーを飲む。少し塩辛いが、
疲れに効きそうだ。
「取り合えず来週はアーサーとの会談だ。
それまでにトウチを少し落ち着けたいが」
「難しいでしょうね。こちらもあちらも
戦明けで中々動き辛いですし。
イシズエ様達が頑張って資材を
運びつつ兵士を入れ替えし、
村の者たちの整理もしております。
陛下はこっちで居ない間に
起こった問題の処理をして頂いて
その後にあちらの情勢を窺うのが
宜しいかと」
確かに。今日一日はこれでも
緩いスケジュールだ。
ここから国で起きた案件を処理し、
更にアーサー対策もしなければならない。
今のところ有効であろうという
見方ではあるが、それでも油断ならない。
相手は王様の先輩だ。
どんな手を打ってくるか。
「まぁ対アーサー王の事なら俺に任せてくれ。
完全とはいかないまでも、カイヨウの事なら
ある程度は解る」
「期待している。無理無い程度でな」
そこから雑談をしつつのんびりしていると、
手配を終えたイシズエが戻ってきて、
皆で食事を取る事にした。
仕事の事は抜きと決まっているので、
話題はこの国の流行しているものの
話になったりする。




