皆褒められたいらしい
「それと」
「え、まだあるの?」
俺は椅子からずり落ちそうになる。
朝からハードだわぁ……。
戦から帰還したばっかりなのに。
「はい、うちのガンレッドの事で」
「お、おう」
「何か粗相がありましたでしょうか」
「粗相なんて無いが」
「そうですか……
何やら落ち込んでいるようなので」
「何だろう戦が多いから
皆落ち込みやすいのかなぁ」
「そうではないかと」
「そうなの?」
「はい。やはり我が国は今勢いがあり、
どんなものにもチャンスがあります。
ですがそれを掴めなければという危機感も
同時に皆抱いております」
「マイナス思考すぎないかい?」
「個人的な考えですが、
おせっかいな国民性ですが
それだけ自分に何かあったら
助けてほしいという面もあるのかと」
イシズエも良い事を言う。
なるほど確かにそういうものかもしれない。
俺は誰かに助けて欲しいと思ったことは
あるが、それを叶えられた事はないので
考え付かなかった。
「と言う事はやはり広く色々な人を
表彰したりするのが良いか」
「ええ。領地も広がり、東の領地についても
褒美として与える事が出来ますし」
「そうだな。となるとやはりそろそろ次の
段階に移行するか……」
「次の段階とは?」
「俺が見てきた世界の話だがな、
人が増えすぎて所狭しと家が建っていた」
「……それは想像がつきませんな」
「今この大地はな。戦争が無くなり
飢餓が解消されて病も減れば、
人は増え続ける。恐らくそれを防ぐ為に、
オーディンはこの地を死滅ギリギリまで
追い込んだのだろう」
「我らの能力はそこまで高いのですね」
「肉体的強度に大きさ、それに呪術方面
にも明るかったと聞いている。
個人的にはそろそろ第二、第三の手が
来るかもと思わないでもないが、
戦争も序盤だしまだかもしれん。
兎に角土地も増えて人も増えてきている。
それに合わせて建築を増やしていこうと思う」
今は全て国有地。そこに家を建てて
家賃を引いた分を給料として渡したり、
商売をしているものはその広さによって
税金にも反映している。
現段階では国民に土地を売るのは考えていない。
というのも貯えがそうあるわけではないし、
紙幣制度も完璧とは言えない。
今は生態系回復と食糧確保がまだ重要度が高い。
何れは売ろうと思っているが、
俺の代ではないと思う。
国自体の体力を強化し、いざという時に
国民全てをカバーできる状態を
俺は目指している。
治水も順調でセイヨウを手に入れたことで
浄水技術もより正確になり貯水も順調だ。
海水を真水にしたいが、元居た世界の
日本ですら世界第七位に位置するほど
大変だとニュースで前に見たので、
模索はするが今は知識や方法を蓄積する
のみに留めている。
「となると人手が必要ですな」
「トウチの民も来たことだし、
働き口が増えるのは良い事だ。
それに例の戦が始まる前に退却した者たちには、
事情を考慮はするが常習的なものには
開墾作業をメインにする」
「リストは出来ております」
「ユズヲノさんはきっちりやってくれたか?」
「はい。院長も補佐して頂いて、
厳しく検査して頂きました」
「どれくらい出た?」
「帰還兵五六二人のうち、
重傷でないものは三百十一人でございます」
「……そんなに多いのか」
「はい」
「手引きした者と首謀者は」
「既に捕えて法に照らし合わせて処罰して
おります」
「流石だな。それに加わった者は
全て分散して開墾に従事させよ。
一番下の身分としてな。
暫くは兵士としても起用せず、
大きな成果を挙げない限り、
恩賞を与える必要もない」
「はっ」
「事実を全て公表せよ。
名前に関しては首謀者と
罪が特に重い者のみで、
後は伏せておけ。俺からの最後の情けだ」
本来なら全員晒してやりたいくらいだが、
気持ちも分らなくは無いので
最後のチャンスとして挽回の機会を
残しておく。黙って殴られていた結果、
トウシンが上手く富を独占し、
恨みをうちが買っていたり、
カイヨウが貧困から抜け出せなかったりと
大地が回復できない要因になっていた。
甦る為にも生きる為にも戦うしかない。
未だにそれが分らないのであれば、
他の国に行ってもらって構わないのだ。
「僭越ながら該当者には国を出る事を
許可しております」
「有難うそれで良い」
「で、ガンレッドの事ですが……」
イシズエはそれまでの感じから
また少し落ち込んだ感じで
すまなそうに尋ねた。
「分かっている。ガンレッドには
直接言おうと思っていたが、
ユリナが入った事で教育方面の
仕事を少し楽にしてやれるようになった。
故に元の秘書官としての仕事を増やす。
部下も増えるから大変だと思うが、
年少者のリーダーとして頑張ってほしい」
「有難うございます」
「それで問題ないかなぁ」
「恐らく……」
「娘どころか妹すらいないから分らんわ
そっち方面は」
「左様ですな」
この後会議を開き、
イシズエと話した件を正式に決定、
布告する運びとなる。
その他にも細々とした案件を
片付け、昼食前にガンレッドを
呼び出して辞令を出した。
それと昼食にファニーと共に
新しく加わるよう告げると、
上機嫌になった。
出来れば全員を奨励したいが、
流石に体が足りないので、
各場所の上官達に代わりに行ってもらい
俺はその最高位にある重臣を称える。
ただし俺はふらふらするので、
下の人を直接奨励したりもしている。
「王様は難しいよなぁ……」
丁度昼食への入れ替わりで人も居なく、
バルコニーに立ちながら呟く。
不思議と俺自身は褒めて欲しいと
思っていない。寧ろ褒められると
勘ぐってしまう。何か裏があるのかも、と。
特に王という立場上、美辞麗句に
酔う事は有り得ない。
それは滅亡へ繋がると、歴史は告げていた。




