領土を取ると言う事。
「あらあら、今頃お出まし?」
恵理たちは兵士の合間を縫って
こちらに来た。
「ほほうお前もまだ健在とはな」
「当然。寧ろ戦闘が激化してないから
こっからが本番てところよ」
「となるとお前はお役御免であろうな。
真なる我が来たからには、小屋で
領収書を纏める作業をするが良い」
「んな単純作業はアンタみたいな
単細胞がお似合いよ」
「愚かな恵理。竜というこの世界の
ヒエラルキートップである我が
お前如きに劣るはず無かろう」
おぉー見合う二人の間に
電流が流れておる。
「ファニーお姉ちゃん久し振りだのよ!」
「おぉーリムンか! 久し振りだな
随分と成長したように見える」
「そうだのよ。今は恵理お姉ちゃんと一緒に
皆が暮らしやすいよう、
頑張って仕事してるだのよ」
「それは凄いな。後でじっくりその働きを
見せてもらうとしよう」
「良いだのよ!」
リムンは二人の間に割って入って
ファニーとの再会を喜んだ。
この二人は俺との次に付き合いが長い。
二人だけで練習した事もある仲だ。
「陛下、あの方は」
「ん? ああファニーは冒険を始める
切っ掛けになった人物だ。色々あって
二人で世界を巡ろうと旅立って今ここにある」
「そ、そうですか。それは大事な人物ですね……」
「今ここにいる誰一人として大事では無い者は
居ないがな。それでガンレッド、状況はどうか」
「……は、はい! 今例の兵士達を国境近くまで
送る手筈が完了いたしました」
「何も問題なく済んだか?」
何やらあわあわしているガンレッドに
尋ねると、近くに居たシンラを見た。
「何かあったのか?」
「はい、申し訳御座いません。
王が不在の間に降伏した兵士達が反乱を起こしまして」
「鎮圧したか?」
「はい……ですが住民も参加し住民にも
多少被害が出てしまいました」
「……そうか……住民達の被害は? 死者は?」
「死者は何とか防ぎましたが、重症の者が幾人か」
「降伏兵と会おう」
「はっ」
どのような事情があったとしても、
これは俺の失態だ。住民達の感情を考えれば、
離す距離には十分気をつけるべきだった。
この場の指揮官は俺だ。
「お前達、何か言いたい事はあるか?」
俺は膝を付き縄で縛られた者たちに問いかける。
その顔は十人十色だ。俺を睨む者怯える者
泣く者へらへらする者。
「そうか。反乱に加担しなかった者たちは
分けているな?」
「はい」
シンラが掌を上に向けて突き出した先に、
加担しなかった者たちの固まりがあった。
「こ、こいつらをどうするんですか!?」
「まさか帰してやる気じゃ……」
「俺たちの家や街はこいつらの所為で
跡形も無くなくなったんだ!」
「そうだ!」
住民達の怨嗟の声が響く。
「言う事は分かる。だがこいつらを
招き入れた者はもう死んだが、
俺の呼びかけにも応じなかったのは
皆同じだ」
「そ、そんな!?」
「お前達は奴隷ではない。
確かに家を捨てられはしないだろうが、
意見する事は出来たはずだ。
俺達が皆殺しにしないと考えていた
訳ではないだろう?
ならば覚悟は出来ていたはず。
そうではないか?
この街を離れるなり、俺の国にくるなり
出来たのにしなかったのは何故だ?」
俺の問いかけに、でもやだっての
言葉が出てくる。戦争はここですら
遠い出来事だったのかもしれない。
ホクリョウの時のように
住民を残してやりたいが、
あの時学んだ事がある。
それは結局平穏な暮らしを犯されたという、
恨みはどうやっても残るのだ。
何れ火種は小火となり火事になる。
火事になればうちの国民にも犠牲がまた出る。
ホクリョウに関しては住民達に、
俺の統治が納得行かないなら
住居などを小麦などに換算するから
他の国に行くよう布告している。
そうでないなら恨み辛みはあるかもしれないが、
飲み込んで欲しいとも。
どれだけ効果があるか分からないが、
出来るだけの事はしたいと思っている。
「はっきり言わせて貰うが、
これからここを再建するに当たって
俺の国の者たちが汗水垂らして
蓄えた物で行う。ここは叛旗を俺に翻し、
俺が自ら占領した場所だ。
お前達は気の毒に思うが、
土地を返してやったりはしない。
怪我した者たちは治療してやるが、
皆好きな国へ行くといい。
我が国に来るなら、恨みも辛みも
捨て一から出直すという事だ。
それなら俺も援助はしよう。
一人一人決めるが良い」
俺はきっぱりと言い放つ。
情けが無いわけではないが、
叛旗を翻したのは変わりない。
住人の中には戦闘前にこちらに
逃げて来た者もいて、
どちらが勝つか見極めてと考えるのも
解らなくはないが、
ノーリスクでとは行かない。
当然俺達が負けた場合は彼らは安泰か繁栄が
もたらされただろう。
「家を誰も持って行けはしないのだから、
まぁ王様の言う事はもっともだ。
命あっての物種。賭けに負けたなら
潔く諦めな。おい!」
レンは俺の前に割って入り、
兵士達を呼ぶと皆で降伏兵達と纏めて
住人達を座らせた。
「陛下は優しすぎるなぁ」
「そうか? 非情だと思うがな」
「非情な奴なら生かしておかないと
思うがね」
「そうかもな……」
「情けは無用。あいつらはまだマシな
生活をしている連中だ。陛下こっから先
もっと貧困で飢えた者たちと対峙する事に
なるだろう。陛下も解っているとは思うが、
生きる為に必死なのは俺たちも同じだって事
忘れないでくれ。磐石には程遠いし
陛下に願いを託している者たちの期待にこそ
答えてくれ」
レンの言葉に頷く。確かにその通りだ。
万人を救えるわけではないし、
幸せにも出来ない。
だからこそ信頼と期待を寄せてくれる人達の
思いに先ずは答えるのが大事だ。
「コウ、すまんな。我の所為で」
後ろからファニーの声が聞こえる。
「いや。起こるべくして起こったことだ。
遅かれ早かれな。寧ろこの街を通常の状態に
戻せた事に感謝してるし、また会えて嬉しく
思っているよファニー」
俺は笑顔でファニーに向き直る。
ここから先も続いていくし、
悪いこともあるだろうが、
それ以上に良い事を出来るよう
立ち向かうしかない。
「俺が決めた戦争だからな」
「おうともよ。俺たちは陛下に掛けた。
負けても恨みっこなしだ!」
レンは高らかに笑う。
俺もつられて笑う。
「アンタ敵じゃないの?」
「ん? 今更味方で御座い、なんて言って
信じてくれるほどセイヨウは甘くは無いさ。
ノウセスもそう考えたからこそ腹を括ってる。
奴は嫌いだがその決断力は認める」
「都合が良いわね」
「当然だろ? 居心地が良い方につくのが
俺の主義よ。死と隣り合わせに生きていれば、
明日さえも見えない。ならその時その時を
俺が思うように生きるだけだ。誰でもない
俺自身のために」
レンは胸を張る。それを見て皆微笑む。
「さ、皆も色々割り切ったところで
撤退の準備をしようか。レンは新兵達を。
恵理たちは片付けの指示を頼む」
俺の言葉に皆頷いて散らばっていった。
こうしてすっきりしないまま撤退となる。
ノウセスやアシンバからの伝令は
逐一来ていて、この街以外の街を
制圧したようだ。




