舞い降りる者
後方で野営の準備をしつつ、
状況の確認を再度している。
負傷者は当然増えた。
現在兵士五十人に加え、
霧による街の住人の被害が
百名ほど。更に降伏兵や
相手の負傷兵。
合計すると二百人。
行きと同じ数にはなるが、
うちの被害は甚大だ。
正直惨敗に近い。
街も取れず負傷者ばかりが
今のところ増えている。
相手がこの霧を何とか出来たとしたら、
それこそ目も当てられない。
「どうしたものかなぁ……」
とは言え愚痴を言ってもいられない。
現実は目の前にある。
「陛下、負傷兵と降伏兵ですが」
「うちの兵士はオンルリオやカトルトロワの
お陰で優秀だ。必要な事のみ伝えてくれる」
「はい。トウシンの兵士とスカジの兵士は
ただ降参するとだけしか申しておりません」
「陛下、僭越ながら申し上げます。
幾ら降伏兵とは言え、何も喋らず居直る様は、
同じ人間としてこのアゼルス殺意を禁じえません」
「恐れながら私ロンゴニスも同じ意見です」
「ならどうするよ? 降伏してきたものを
殺すのか? 陛下の名を汚すのは俺が許さん」
レンが鼻息荒く言うと、
二人は黙った。
「気持ちで言えば俺も同じだから、
レンもそう怒らないでくれ」
「陛下」
「解ってる。個人的には先ず第一に
この街の住人にたずねるのが筋だろうが、
奴ら自身の体に何か仕掛けられている
可能性もある。
兵士を付けて国境付近まで引き摺って、
国境で放て。
うちの国には絶対に入れるな。
逃がすときは必ず似顔絵を取るように。
それと身体検査は万全か?」
「はい。特に怪しいものも無く」
「なら早速始めよう。住民達には
事情を話して本国に一時避難してもらう。
それから本国に連絡して物資をこちらに。
この街の近くに矢倉を立てて監視する」
「はっ!」
恵理たち以外は外に出て
俺の方針に従って作業を始めた。
こういう時激情に身を任せたくなるし、
冒険者だった頃はそうしていた。
無職で引き篭もりだったから解らないが、
役職についてた人間や、
それこそ父親はこんな気持ちで居たのかなぁ
と感傷的になってしまう。
「おーい聞こえるか?」
その時不意に頭の中に声が響く。
驚きのあまり飛び上がって周りを見渡す。
似たような感覚が前にもあった。
世界が白黒だ……。
「聞こえるけど誰だ?」
「誰でも良い。一つ聞きたい。
明確なルール違反を相手はしているが、
何か希望はあるか?」
随分と横暴なやつだなぁ……。
それに偉そうだし。
「何でも良いぞ? それが
違反に対する罰に相当すると判断すれば、
実行する」
「罰ねぇ……」
「世界を分離して世界の仕組みを
弄っただけでも問題なのに、
自分にのみ有利なルールを作るなんて
プレイヤーとしては最悪だ。
アンタが望むなら速攻排除するが」
「要らん事するな。今後無いように
してくれればそれで良い」
「聞いていた話と違うなアンタ。
前はもっと卑屈で睨め上げるような男
かと思っていたが、どうやら果たせなかった
成長を果たせているようで何より」
「……どういうことだ……」
「独り言だ。まぁアンタの望み通り
今後ズルはさせないようにする。
が、アンタに割を食わせてばかりじゃ
流石に申し訳ないんで、サービスさせてもらう」
「怖いなぁ」
「怖い事ないさ。ちょっとした侘びだ。
大々的に干渉は出来ないが、お守りを
派遣する事は出来る」
「やっぱり怖い奴だ」
俺の声を聞き終わる前に、
高笑いと共に世界はジワリと色を取り戻す。
「どうしたの? コウ」
皆の視線が立ち上がっている俺に集まる。
俺は皆の顔を見た後、辺りを見回す。
晴天だ。夏ような青空には疎らな雲があるだけだ。
何が何処から来る!? 大々的に干渉しないって
事は、ジワリと現れるわけではないだろう。
俺は一頻り見回した後、今度は耳を澄ませる。
何か異常な音は無いか……病人含め約千人
いるから静かではない。俺はお腹が痛くなってきた。
嫌な予感しかしない。
「ん……?」
何か高い声が斜め前方の方から聞こえる。
そこは空だ……真っ青な空に雲が幾つか。
「ははははは」
そう聞こえた。小さく微かな声が。
どこかで聞いた事のある偉そうな声が。
「ははははは」
それは決して嬉しい笑いではない。
漫画で言うなら噴出し以外で笑ってる
そんな感じの恐怖しかない笑いだ。
鳥肌が立っている。これはデンジャーだ。
「不味いな……」
とてつもないプレッシャー。
こんなのはどう考えても一人しか居ない。
俺は顎に滴った冷や汗を、手の甲で拭いながら
その方向を見続ける。
「ははははははは」
次の瞬間前方の雲に一つの穴が出来た後、
弾け飛んだ。
「あはははははは」
「ぬぁああああ!?」
某大魔王のやられたシーンのように、
腹に何かがめり込んで吹き飛ばされる。
寸でのところで星力が発動し直撃を防いでくれた。
マジで命の危機……!
そのまま霧の街まで突っ込む。
「コウ、お前はただ懺悔し刮目せよ!
竜の逆鱗に触れた事を後悔するが良い!」
刮目してたら死ぬやんけ。
俺は叩きつけられた後、這い蹲りながら
地面を駆けて逃げる。
「激竜炎!」
俺目掛けて炎が噴出してきた。
こんなの浴びたら骨まで解ける!
……なるほどこれが防止策って事か。
魔術ではなく、能力で消去した。
そうする事で反則をこちらも使わず
解消する事が出来る。
「だけど俺の命が危ない!」
炎は家にも移りっている。
この手はあまり使いたくなかったんだけどなぁ。
俺には家に良い思い出はないが、
他の人は違うだろう。




