嫌な幕切れ
二階に上がると、捕虜が居て尋問を受けていた。
「どうだ?」
「どうやら解らないようです。
急に現れたようで」
「他の兵士を尋問した方が良い様だな。
あの尋問されている者はこの街の者か?」
「そのようです」
「ならトウシンか別の国の兵士を見つけ出すのに
協力するならそれなりの報酬はやる、と伝えて
協力させてくれ」
「はっ」
そう言った後別室に移る。
「エメさん、どうかなこの街の感じ」
「明らかに自然に無いものが含まれてる」
「というと魔術の因子が混じってるか。
リムン、恵理、何か感じないか?」
二人は顔を見合わせた後、
目を瞑り唸る。専門家じゃないから仕方ない。
こう言う時にロキが居ると助かるが、
基本ロキはロキの思うように動いてもらっている。
最後の方に罠を貼ってるかも、と前なら考えたが
この混戦状態で矛先が自分の方に向くような
真似は、今はしないだろう。
「あまり悠長な事はしてられないな」
嫌な予感はずっとしている。
この晴れない霧に物資も多いわけじゃないのに
篭城。抵抗は想定していたが、他国の兵は
言うほど多くは無い。
そう……悪い意味で言えば捨てても構わない、
全滅したところで痛む事は何も無い。
俺たちの所為にすればトウシンかスカジが
得をする。セイヨウが噛んでる可能性もある。
「シンラ」
「はっ」
「急ぎ全員退去だ」
「え」
「急げ! 住人も全員退去させろ!
何も無かったら俺の責任だ!
急げ急げ!」
俺は急いで外に出る。
恐らく少量では大した被害は無くても、
長時間吸ったり朝を迎えて気温が上がれば
湿度が高く風も止まる。
「お爺さんたちも直ぐ街の外へ!」
「あ、え」
「伝令!」
「はっ!」
「各隊に急ぎ撤退させろ!
街の住人にも急いで逃げるよう伝えるんだ!
恵理、リムン、エメさん、ガンレッド。
悪いが街の外で誘導してくれ。
敵が来ないとも限らない」
四人は頷いてくれて直ぐ入ってきた
門へと向かった。伝令も直ぐに移動する。
「ツキゲ!」
俺の愛馬になったツキゲは直ぐに来てくれた。
本来ならマスクでもあればマシだが、
生憎無い。使いたくはなかったが、星力を
ツキゲにも纏わせる。
他国民は人ではない、そうまでうちの国に
恨みがあるのか。それとも感情や善悪を抜きに
勝つために俺を殺しに来たのか。
「レン!」
「陛下、どうした?」
「急いで皆引かせろ。この霧変だ」
「だろうな。あいつら守るだけで
積極的に攻めようとしていない。
しかも」
レンは俺に向かって来た矢を弾く。
「陛下が来た途端陛下に向けて
こんなにも矢が飛んできた」
と言いつつ冷静に矢を捌くレン。
頼もしいわぁ。
「じゃあ引こうか。長居は無用だ」
「悔しいがな。時間切れだ。
皆引くぞ!」
レンの合図にアゼルスも頷いて
即座に引き始める。
相手が防戦一方なのと時間が掛かり過ぎ
ていたので、下がるのもやむ無しと
考えての撤退判断なのだろう。
「殿をするか?」
「出入り口まで全速力だ。
そこで誘導を行う。あの砦の奴らは
全部承知であそこに居るんだろうし、
止められまい」
「了解。なら陛下、早く」
俺とレンは急ぎ入り口に戻り、
誘導に当たる。押さず騒がず焦らず出るよう
指示をする。皆何事かと不安になりながら、
ゆっくり移動していた。門の上と地上とで
二分していただけマシだった。
これが目一杯地上だったら逃げるだけでも
被害が
「陛下!」
レンの顔を見ると、槍がさっきの砦の方を
指していた。悲鳴が聞こえてくる。
「急げ」
俺はその声を聞きながら、住民と兵士達を
慌てず騒がず外に出していく。
「陛下、もうこれ以上は駄目だ。
外へ出てくれ」
「お前が先に行け。俺は大丈夫だから」
「そうは行かない。陛下も解っているだろう?
相手は手段を選んでない。これすら罠かもしれない」
「だが俺なら何とかなるだろ」
「冗談だろ? 無敵の神様ならもっと上手く
全員助かる素敵な夢みたいな方法をとっくにやってるだろ?
出来ないってのは無理って事だ。陛下も人間だ。
俺らとは違うけど、命は一つだろう?」
「確かに。だが」
「はいはい」
レンの槍はツキゲの尻を叩いた。
驚き人の波を飛び越えるツキゲ。
俺はレンの姿を探した。まさか自分だけ。
「お、上手く行ったな」
暫くして住民と兵士を強引に追い回して
外に出たレン。中からは悲鳴が聞こえる。
「えげつない真似するわね……」
恵理は怒りを押し殺して一言なんとか搾り出した。
俺としては言葉も無い。
そしてこれだけで終わるのか心配もあった。
この手を何度も使われたらどうしたら良い。
相手が無限にこれを出来るなら太刀打ちしようが
無いんじゃないのか。
この大陸において最大の反則を、俺一人を倒す為
だけに仕掛けてきた。
「なるほど。これは最早御構い無しって事か。
やってくれるじゃないか……」
俺は怒りを何とか腹に溜めつつ、
この後の事を考える。
このままではこの街は死の街として
トウシンとの間に存在し続ける。
それは俺たちの足止めとなる。
恐らくトウシンとスカジの利害が一致した結果だろう。
セイヨウが絡むには距離がある。
そうまでしてトウシンへの侵攻を妨げたい理由が
あるのか。
「陛下、どうする?」
「取り合えずここから距離をとる。
ここの住民と兵士達は監視してくれ。
何をしでかしてくるか油断できない。
それと今こうなっている説明をして、
何か知らないか聞いてくれ一応」
「心得た。シンラ殿!」
レンは動く。俺は恵理やリムン、
エメさんガンレッドたちに向き直り、
大丈夫だと言うように頷くと歩き出す。




