霧の街攻城戦、街の中へ
「相手は出てこないわね……」
俺も参加して布染めをしつつ、
染料を作っている。
恵理が街の方を見ながら呟いた。
「恐らく、自信があるのでしょうね。
明けても問題無いという自信が」
ガンレッドも布を釜につけて
染まったら箱に入れるを繰り返している。
「きっとあの霧は晴れない」
エメさんは集めてきた草や木の実などを
入れながらそう断言した。
俺も何となくそんな気がしていた。
だからこそのんびりこっちのするがままに
しておくんだろう。
勿論断続的に矢を放ってくるが、
門を開けたりはしない。
門が開き兵が出てきたら
俺一人でも乗り込みたい所だが、
今は新成人の部隊も見ているからそうは行かない。
「おっちゃん、代わるだのよ」
リムンが壷をかき混ぜる俺と
交代してくれた。
「リムン、あまり疲れたりしないようにな。
この後がある」
「解ってるだのよ。準備運動だのよ」
「頼もしい」
「私たちも行けるわよね?」
恵理の問いに頷く。
忘れてはいけないが、俺が倒れたり捉えられたら
全て御終いだ。特にこの特殊な状況下で
単独で突っ込むのは自殺行為になる。
星力は出来れば使わない。
巨人族の力であくまで未来を切り開いた、
そういう結果が無くてはならない。
「陛下、準備整いました」
シンラの声に我に返る。
作業の手を止め兵士達を見ると、
右肩に其々布が巻いてあった。
シンラの指示により、識別が必要なときは
右肩を見るという手筈になった。
空は少しずつ明るくなり、
徐々に冷気も去っていく。
が、街は相変わらず霧を纏ったままだ。
「さぁ皆、一気に叩いて国に一刻も早く帰ろう!」
俺の掛け声に皆気合を入れなおした。
交代で睡眠を取りつつ作業する事三時間。
ついに再戦となる。
「リムン行こうか!」
「あい!」
俺とリムン、そしてアゼルスの部隊は
手製の大槌を手に走り出す。
騎馬兵は盾を持ち俺たちをガードし、
可動式矢倉も再起動させた。
「先ずは一つ!」
俺は大槌を背負い、荒地から大きめの岩を
両手で持ち上げると、全力で街へ投げ捨てた。
リムンも続けて放り投げると、
街から矢が放たれる。その間にアゼルス隊が
門を叩き破るべく大槌を叩き付けた。
「根元を狙え根元を!」
アゼルスらしい指示が飛ぶ。
門は橋になるようなタイプではなく、
左右に開く門になっていた。
この場合門の中心で横に木を通して
開かないようにしているはずだ。
それを叩き折るよりも、兵士が通れる
よう下から上へ大槌を叩きつけるのに
主眼を置いた方が早いと判断したのだろう。
門も強固ではない。古い木材で年季が入っていた。
新しく作っているのは首都部だけかもしれない。
「おっちゃん!」
リムンと共に矢を掻い潜り門まで来ると、
タイミングを合わせて俺たちは中央を狙う。
吹き飛んだ縦の木材は、待ち構えていた
相手の兵士達を吹き飛ばしていく。
「お先に失礼! 全軍突撃! 入り口周辺を
確保せよ!」
アゼルスの声に全軍出来た隙間から入り込む。
アゼルスが先に入って鎌を振り回し、
後から入った兵士が門を閉めていた木を
肩車をしながら外した。
「城壁確保!」
門が開け放たれたのに気を取られた城壁の
兵士達を、ロンゴニスたちが可動式矢倉を
使って城壁につけ、次から次に流れ込む。
門と城壁から其々街へなだれ込む。
兵士は約七百五十。増援や伏兵が無ければ
まだ優位にある。
「城壁は弓兵を中心にぐるりと囲んでくれ!
他の兵士たちは相手の兵士達を抑えろ!」
俺の声にアゼルス、ロンゴニスは頷き、
それぞれ部隊を率いて進んでいく。
霧は濃い。だが安直ではあるが右肩の布が
効果を段々表してきた。皆迷い無く腕に布が
無いものを斬っていく。そうでなければ自分が
殺されてしまうからだ。
俺はその様子を見つつ、狂乱状態にならないよう
気をつけていた。俺の周りには恵理たちが控えている。
「陛下! 中央に砦が」
伝令に頷く。アゼルスは兵士を振り分け中央のみに
固まらないよう指示していた。
シンラカムイの教えがよく伝わっているようだ。
「陛下!」
後ろから騎馬の音が聞こえる。
「おう、間に合ったかレン」
レンは息を切らせて飛んできた。
その後ろにはロシュがぐでっとなって置かれている。
「間に合ったかって」
「待てないだろう状況的に。随分と早かったな。
で、守備はどうだ」
「そんなのは後だ後。俺は遅れを取り戻す!」
「解った。くれぐれも無茶するなよ?
俺はシンラと合流して新成人の兵士達を見るから」
「有難い! その役目を俺に押し付けたら
流石に怒るところだ」
「後は任せたからな、頼んだぞ?」
「任せろ!」
レンはロシュを俺に放り投げて馬を向けると
砦へ向けて突っ込む。そして馬を一旦下りて
砦前のアゼルスの兵から大槌を取り上げると、
門をかち割った。そして馬に再度跨り突撃した。
「コウ、良いの?」
「良い。王様が出しゃばらなくて済むなら、
それが一番良い。皆の手柄になる」
そう言ってロシュを担ぎながら恵理たちと共に
シンラがいた門の前まで移動する。
「陛下!」
「シンラ、状況はどうか」
「今あちらの家を接収いたしました」
「なら早速纏めよう」
接収した家の主は年老いた巨人族の夫婦だった。
「申し訳ない、一時的に家をお借りする。
その分の家賃は払うので」
俺は一礼して二階へと上がる。
不安そうなのは言うまでもないが、
俺が一礼したのが意外なようで、驚いてもいた。




