霧の街攻城戦
「全軍急ぎ正面に矢倉を組め!
一気に城壁を制圧せよ!」
暫く走ると見えてきた街。
俺の指示により全軍横へ開き、
一斉に加速した。
俺の隣に恵理が来て鎌を構え、
更に横にリムン、後ろにエメさんが
控えて相手の出方を窺う。
目と鼻の先に門と城壁が近付くと
矢が上から放たれた。やはり利用してきたな。
「護衛兵、暫く持たせてくれ!
ロンゴニス!」
「はっ!」
精鋭部隊の弓兵を仕切っている
ロンゴニスに声を掛けると、頷いた。
牽制の矢を放ちつつ、矢倉へ上る準備を
整えていた。相手もこちらの狙いが
当然解っているので、矢倉周辺へと
攻撃を集中させてくる。
「アゼルス!」
「はっ!」
アゼルスは鎧をしっかり着込みつつ、
怪力を生かして色々道具を背負っていた。
それを補佐する者達も連れている。
更に一部歩兵の指示も任せていた。
シンラとカムイから学びつつ、
大分良くなっているらしい。
ここで真価を見せてくれれば良いけど。
「恵理!」
「はいよっ!」
俺は相棒の黒隕剣を、恵理は得物の
鎌を投擲し矢を叩き落していく。
「リムン、エメさん!」
「あい!」
「うん」
二人は馬車を降りる。
それをレンが新成人たちを引き連れて
警護する。二人は大地に祈りを捧げる。
霧はどけないといけない。
相手も完璧に慣れているわけではないと思う。
……慣れてたらやばいな……。
「ロシュ!」
「おう!」
ロシュは後ろから俺の馬車へ駆けてきた。
めっちゃ気合入ってガチガチだな。
「あまりガチガチになりすぎるなよ?
この後統治するにしろ引くにしろ、
頭は常に冷静に、な?」
「あ、ああ」
「で、物知りロシュに尋ねるが、
霧が発生する場合必要なものはなんだ?
俺の想像だけど、暖かい空気が
この場所に漂っているのが原因な気がするが」
そう言うと、ロシュは目を見開いた後
下を向いて顎に手を当てた。
「要因としてそうだろう。
この地域は俺たちの国の場所と比べると、
温度が低い」
「霧を晴らす方法は?」
ロシュは暫くまた考えた後
「ある」
「その方法は?」
「一時撤退だ」
と答えた。
「理由は?」
「先ず霧を強制的に晴らすのであれば、
温度を高くする必要がある。
陽が昇ればこの大陸なら一瞬で消えるはずだ」
「確かにな。この大陸は夜冷たい風が吹いて
極寒のように感じる」
「陛下の功績で自然が蘇ってきたとは言え、
その恩恵はまだまだ遠い。
相手はそこを利用したのだろう」
「霧を発生させたとすれば驚きだな」
「陛下のような存在もいる。こういう事も
あるのだろう。見れば解ると思うが、
うちの兵士達は怯んではいない。
陛下が全く慌てていないのが大きいが」
なるほど。神秘の前では他の神秘は霞むのか。
「シンラ」
「はっ」
「状況を各隊長と連絡を密にして確認しろ。
相手がこれを上手く利用できているなら、
一時撤退する」
「撤退ですか……?」
「軍師シンラ殿、陛下はその裏に何かあると
思われているようだ」
ロシュの言葉にシンラはハッとなり、
即座に連絡へと馬を走らせる。
「俺たちをここで足止めしたい、
時間を稼ぎたいというのは解る。
が、その先だな」
「シンラ殿も解って居られると思うが、
一点に集まりすぎている」
「……ここにばかり集中しているな。
よし、ロシュ。お前馬は得意か?」
「得意とは言えないが、地形はある程度
把握している。宵闇でも」
「他の部隊の位置は?」
「無論」
その顔を見ると、自信満々とは
言えないが、やってやろうという
気合が見える。
「レン」
「おう」
「少しロシュと共に使いに行ってくれ」
「しょうがないな。良いけど直ぐに戻るぞ?」
「構わん。必ず連れて戻って来い。
後ハンゾウの部下達に、俺がくれぐれも
宜しくと言っていたと伝えてくれ」
「了解! おいお前俺の後ろに乗れ」
「な、何!?」
「んなちんたらちんたらやってたら
陽が昇るし相手に後れを取る。
悠長にやってたら被害がでかくなる。
その為には一切構わず最速の手段を
取れる奴だけが戦場で生き残れるんだ」
レンの言葉にロシュは渋々頷き
後ろに乗った。
「陛下、くれぐれも無茶するなよ?」
「言われるまでもない」
「なら直ぐ戻る。行くぞ!」
ロシュを乗せてレンは颯爽と去って行った。
「コウ!」
恵理の声に振り向く。
エメさんとリムンが戻ってきて頷いた。
仕掛けは出来たようだ。
「シンラ!」
「陛下、相手は霧を上手く隠れ蓑にして
攻撃を仕掛けてきています」
「まぁこっち側は見晴らしがいいわけだしな。
という事は」
「中に入れば皆同じです」
「何か目印になる明るい色のものとかあるか?」
「ある」
エメさんが馬車の中から壷を出してきた。
「それは?」
「今から新成人皆で近くの草や木の実、
花を入れて混ぜて潰してかき混ぜて、
そこに水を入れて」
「顔料みたいにして作って布とかに
染めれば多少は目印になるか」
「うん」
「よし、幸い火も大量にある。
野営道具の鍋を使って煮立たせろ。
ついでに周囲の気温も草木を燃やさずに
悪あがき程度には出来る」
シンラは直ぐに行動に移し、
俺は軍を提げることにした。
攻めあぐねていたロンゴニスと
アゼルスに伝令を出し、
街から少し距離をとる。
各部隊から其々報告を受ける。
更に負傷者の手当てを医師達に
お願いすると共に、恵理達にも
手伝いをしてもらう。
負傷者二百五十。
相手も出ているだろうが、
こちらの方が多い。
重傷者はそのまま忍びの里へと
送り、更に国へと移動させる。
不安にさせるかもしれないが、
怪我人の無事が大事だ。
そう兵士達に告げて急ぎ連れて行かせた。
彼らの頑張りのお陰で
夜も大分深くなった。暫くすれば
明けて来る。それは明るさよりも
温度で感じていた。




