夜戦前
特に帰り道は襲撃を受ける事無く、
陽が沈むころ里へと辿り着く。
里に着くとリクトやグオンさんから
報告を受ける。
どうやら里が落ち着かなかったのは、
戦の気配を感じたのと戦火が拡大して
里に被害が出るかもしれないこと、
そして何より里に出入りしているトウシンの
商人が問題を起こしていた。
商人達は長の館に連れてこられていた。
数名俺が斥候に出て直ぐ村から出て
行った。それも軍馬を取って。
ただでさえ貴重な軍馬を窃盗された。
それを今までのよしみで匿って
隠していた里の者も同様に引っ立てられていた。
「何か言いたい事はあるか?」
「私達はただ商売をしていただけで」
「商売をしていただけなのは解っていたから
危害を加えていない。更に言えば民間人だ。
戦闘の間は逗留してもらうが、
終われば帰国して貰って結構だ。
が、もうそういう訳にも行かない」
「ど、どうなるのでしょうか」
「お前達商人らしい罰を与える。
取引した物全て没収。
今後お前達を匿った者含め、
俺の国との取引の関税を八割とする。
ちなみに名を連ねた口利きをした等、
間接的に関わった場合も同様。
事後に判明した場合には、
取引を永続禁止とする」
「そ、そんな!?」
「お前達も解っているだろう?
この大地において馬、しかも
我が国で鍛えた馬は貴重などという
二文字で片付けられないほど
重要なもの。本来であれば
全員の首を並べても足りない。
その上この状況を漏らした、
その情報の対価を考えれば
一族郎党未来永劫我が国の敵と
記すべきところを、
この程度で済ますんだ。
感謝されても良いぐらいなのに
抗議か?」
俺の言葉が終わらないうちに、
レンを始め皆が商人達を取り囲み
其々の得物を手に取った。
「これ以上俺としては語るべき事はない。
忙しいのでこれで終わりとする。
里の警備兵達にこいつらの似顔絵と
氏名、その他諸々隅々まで調書を取らせてくれ。
それと終わるまで必ず外に出すな。
個別に例の長屋に入れておくように。
以上引っ立てろ」
「はっ!」
「ま、待ってくれ。情報を、情報を
教えるから処分の軽減を!」
「……ならば先ずこっちの聞きたい事を
答えてくれ。その返答次第では考える」
「な、何でしょう!?」
「先ずはあの街に掛かっている霧は何だ?」
「霧……ですか? 私達がこちらに移動して
来た時はそのようなものは……」
「次の質問だ。東の領地の中心の街、
あそこにトウシンの施設と兵隊、
そして内応者を全て話してもらおうか」
商人達は我先にと話し始めた。
トウシンの施設は街を中から囲むように四つ。
街の地図もその場で地図官に作成させた。
更に兵士の数は三百。兵糧などは
中心にあるものの、潤沢ではない。
内応者はほぼ全てと見て良い様だ。
「解った良く話してくれた。
トウシンの商人達に対しては、
この情報を確かめた後で関税に関しては
下がる事は約束しよう。
ただし嘘だった場合は祖国に帰れるとは
思わないでくれ。また里で匿った者たちは、
軍事行動終了後国外退去するように」
俺はそれだけ言い残し外に出る。
軍馬を数頭奪われた事で、多少機動力は
減少する。何より可動式矢倉の運搬に
支障が出る。まぁ打つならその手を打つな。
だがこの有利点もその内各国で開発されて
無くなるだろう。勿論心臓部の図面の流出や
そのものの流出は今のところないので、
開発するにしても時間が掛かるだろう。
ただしどんな時にも出来る人間というのは
存在している。その者によって
更に良い物が開発されればその限りではない。
うちも開発に磨きを掛けつつ、
技術者が出て行かないよう待遇などに
気をつけなければ。
里を巡回し、準備の確認を小隊長中隊長
大隊長であるアシンバとノウセス、シンラを
交えてした。時間的には一時間程度で
夜戦の支度が終わるとの事。
今回に関しては以前の作戦から少し変更し、
俺の部隊が先行して東の領地の中心の街を
攻撃する。その後合図の後、アシンバと
ノウセスが両翼から街を取り囲む。
この時増援を頭に入れて注意しつつ配置。
兵士の数からして俺の隊だけでいけるとは思う。
その後安定した後は、トウシンとの国境近くまで
ノウセスの部隊が進み、アシンバの部隊は
周辺の街を統治する為進軍する。
俺の部隊も落ち着いた後、三つに分けて
アシンバノウセスの増援に行く。
こうして方針も決まり、
準備も出来たところで
ヨウトに里は任せ、親衛隊ではカトルを
里の警護に残して出陣した。
松明を片手に夜道を急ぐ。
奇襲にも気をつけつつ、草原に火が
付かない様に配慮もしつつ進む。
やっと育ってきた草原を燃やしたら
苦労が水の泡になってしまう。
間食は歩きながら食べる。
のんびり計画通り行くと言う事は無い。
新成人達にも良い経験になるだろう。
今回は休憩を取らずに強行軍となっている。
新成人たちは到着して暫くは休ませ、
その後戦線に加える。
と言ってもお手伝い程度になるが。
街が見えてくると、速度はそのままに
皆攻城戦の準備を始めた。工兵たちは
手早く可動式矢倉の起動準備をし、
守備隊はそれを警護する。
それ以外の部隊は弓を整えたりと
動きながら完了させた。
それを新成人たちは見て感嘆の声を
挙げる。
「お前たちも何れはああなるさ。
サボろうとしなければな。
もっとも、サボろうとする奴が
居られるほどうちは暇じゃないぞ?」
レンは新成人たちに声を掛ける。
元引き篭もり無職の俺には耳が痛い
セリフである。
ふと視線をロシュに向けると、
何やらメモをとりつつ駆けている。
無事終わったらその内容を見せてもらおう。
そう考えつつ馬車の運転に戻った。




