冒険者たち、王を翻弄する
ダンディス、リードルシュの参戦により回復を図るコウ。
善戦する二人を前にもどかしさを感じつつも、時期を待つ。
「コウ、大丈夫!?」
「しっかり」
アリスが急いで駆け付け、イーリスも背中を支えてくれている。
「くそっ。あんな早さありかよ!」
俺は二人が来てくれた事で弱音を吐いてしまった。
「凄いわよアンタ!あの王の化けの皮を剥がしたじゃない!」
「そうよ。悔しいけど私達には出来なかったわ」
「ゴメン。つい弱音を」
「良いのよ。弱音くらいはいても」
「そうよ。頑張ったわ」
「ああ、だがまだ終わっちゃいない」
俺は立ちあがろうとするが、アリスとイーリスに制止される。
「あの二人が頑張っている間に少しでも体力を回復させて」
「私達に人の治癒をする事は出来ないけど、魔力を分ける事は出来るわ」
イーリスはアリスを見て頷く。
二人の手が暖かく感じ、弱い電流のようなものが流れてくる。
消費した分が補充されていくようだ。
「我はもう遊ぶつもりはない。アイツを消すと決めたのだ。邪魔をするでない」
ダンディスさんと剣を交えつつ、
振り払いリードルシュさんの抜刀も
軽々と捌く。
だが、本当にダンディスさんと
リードルシュさんは一度惨敗したとは
思えないほど対等に渡り合っていた。
「なら余計させねぇよ!」
ダンディスさんの中華包丁2刀流の剣撃は速度を増し、
王を手こずらせていた。
「そういう事だ」
リードルシュさんも合間を見て抜刀術を繰り出し牽制する。
二人のコンビネーションは抜群で、あの王を翻弄している。
元々戦闘経験の無さそうな王だったからこそ、
あの二人にとってはやりやすいのかもしれない。
そして一度敗戦しているからある程度動きも読み易いはず。
「この形態になってここまで手こずらせてくれるとはな」
押せ押せで攻撃していた二人もやがて息があがってきた。
肩で息をし始める。
ただ王も息が荒くなってきた。
「まだダメよ」
アリスに読まれて肩を抑えられる。
「まだ今動いた所で貴方はあの二人ほど動けないわ」
イーリスも抑えてくる。
俺はそんなに読まれやすいのか。
二人が抑えて無ければ飛び出していた。
だがあの様子では、ダンディスさんも
リードルシュさんもそう長くは持たない。
もどかしい。
この世界に来て恐らく普通の人より
力も魔力も与えられたと言うのに。
今はただ見ている事しか出来ないなんて……。
「王、アンタはオヤジさんとは違う。幾ら強大な力を手に入れようと、圧倒的に足りないものがある。それが戦闘経験だ」
「そういう事だ。特に一対一なら支障はないかもしれんが、一対多数の乱戦では戦闘経験こそがモノを言う」
「ふん、だが圧倒的な力の前に、お前達はどこまで持ちこたえられるかな?」
「まだいけるさ」
「そういう事だ」
王はリードルシュさんに斬りかかるが、スラリとかわされる。
追撃で剣を握りながら殴ろうとするも、
ダンディスさんがその隙を突いて腹を斬る。
勿論斬れないがダメージを与えている。
そして続けてリードルシュさんが王の後頭部に抜刀術を、
飛び上がって放つ。
地面に手を着く王。
その隙を逃さず、ダンディスさんとリードルシュさんは
併撃し、王の肉体にダメージを当てて行く。
王は苦し紛れに暴れ、二人を遠ざけると飛び退く。
「くっ致命的では無いとは言え、蓄積されるダメージも馬鹿に出来ん」
「そうだろう。もう気付いているだろうが、コウが与えていたダメージがあったからこそでもあるんだぜ」
「王、お前は俺達と最初に戦った時は万全の状態であっただろう。今回はコウが王を消耗させる為に序盤戦を使った事で、疲労が動きに出るまで落ちていた。我らの戦闘の勘が戻った事もあるが、それが今響いている」
王は魔族の顔で苦々しい表情をして、息を整えようとしている。
だが今は王が自分で選んだ通り、城の上は晴天で朝だ。
夜のような回復力は望めない。
このままなら、押しきれる。
俺はそう考えて、壁に体を寄りかからせ
眼を瞑りゆっくりじっくり回復に入る。
王の誤算は色々ある。
王自身の問題としては慢心が一番大きい。
こちらに対する値踏みが甘かったのもある。
俺の誤算としては、思ったほど俺の体力が上がっていなかった事。
そしてダンディスさんとリードルシュさんの戦果だ。
これがじわりじわりと王には響いて来ていた。
俺は体力が無いとは言え、力と魔力は人間だった王より
僅かに高かった。
王の太刀筋やクセを見抜く為に受けに徹し体力を削り、
魔族へ変身させるまで本気で斬り合った。
そして魔族へ変身させると言う事は、
全てが総合的に上がる代わりに、エネルギーを消費すると踏んでいた。
王はそれに気付いているかどうか解らない。
恐らく初めて変身したと思う。
加減も解らずただ大きな力やスピードを使っているなら、
それは持て余しており、尚且つ体力を消耗する。
そしてダンディスさんとリードルシュさんは、早さで掻き乱して
くれているので、まさにドンピシャな戦い方だ。
「クソォ雑魚共め……」
王はついにダンディスさんとリードルシュさんを
捉えきれなくなる。
確かに一撃喰らえば終わりだが、当たらなければ良いだけの話で、
二人はそれを可能にしていた。
だがそろそろ二人にも限界が来ている。
俺は戦況を冷静に把握できたし、内臓の痛みは取れないものの、
息は整った。
「アリス、イーリス有難う。そろそろ」
「いってらっしゃい!」
「ご武運を」
二人は俺の両側につき、俺を立たせると
そう言って送り出してくれた。
恐らくこれがラストの攻撃になる。
消滅させてしまえば蘇る事は無いだろう。
切り札を使うタイミングを計る為に、もう少し掻きまわす。
そう決めて黒隕剣を握りしめ、王の前へ進む。
主人公立つ!
この戦いに終止符を打つべく、コウは出陣する。




