方法と目的と
皆で食事を取った後、
斥候を放つという話になった。
そして考え事をするから少し待つようにと
伝えて強引に引き篭もった。
「おいマジでか……」
元々こっそり一人で散歩の予定が、
部屋の窓からこっそり屋根に上がり、
跳躍で飛んだ先が恵理たちの視察先。
当然取り囲まれて正座中である。
苦し紛れに誤魔化そうと言い訳をするも、
真顔で四人に凝視され続け、
今も凝視され続けている始末。辛い。
「でもおっちゃん魔術とかわかる?
私がついて行った方が良いと思うんだのよ」
「そういやリムン
この頃あたちって言わないな」
「おっちゃんと会ってから人と話す機会が
多くなったから、滑舌良くなるよう
練習しただのよ」
「リムンもこう見えてここの所
成長が著しいからね」
「確かに背が高くなってきた。
その内追い抜かれそうだ」
和やかな雰囲気。これはしてやったりですよ。
「で、領地に偵察しにお一人で?」
ガンレッド酷い。
和やかな雰囲気を吹き飛ばす一言。
皆彫刻の様になって瞬きもせず
俺を見下ろしている。
「ちょっと今回はさぁ已むに已まれぬ
事情じゃないですか。
何しろ魔法魔術が封印されたような
状態のこの大地で、
気候を操る事が出来る魔術が
しようされたとすれば、
恐らくそれは俺たちと同じか
はたまた別の方法で
アクセスした人間が居るって事だからさ。
自分で言うのもなんだけど、
俺みたいなのが行かないと」
「でもさ、相手がこっちをどうにかしようと
したなら、里ごと出来たんじゃないの?」
「からかう様な気安い感じだと思うよ。
これも想像だけど、まだ扱いきれてないから
実験をしたみたいな感じで」
「それが誰だか解らないから一人で行くと……」
「そうそう。その方が公平じゃない?
誰かを仲間ハズレなんて良い気分じゃないしさぁ」
真面目な話、事この世界の
魔術魔法に関して言えば、
アリスくらい精通していないと駄目だろうし、
今うちで言えばロキくらいのものだろう。
リムンは魔術には詳しいかもしれないが、
若いし魔法は難しい。
魔法は言わば世界の理から
少し外れた規格外的能力によって
行使されるものだからだ。
だが話すならリムンと恵理のみの方が良いか。
「……取り合えずガンレッドとエメさんは
他の人たちに怪しまれないように、
適当に視察してから俺の部屋に来てくれ。
恵理とリムンは俺を送ってくると言ってから
俺と一緒に部屋に集合」
そう告げると、四人は行動した。
恵理とリムンのみに先に
俺が思っている事を伝える。
朝の霧が魔術であるとするならば、
ここはオーディンが隔離した世界。
魔術から魔法までシャットアウトされている。
その為本来であればあるはずのものが無い。
何しろ魔術を行使するにあたり、
空気の中にエーテルと言う元素が
含まれていてそれを利用している。
これはこの世界で定められているものだ。
この星を作った者が、空気の組成である
窒素と酸素、アルゴンネオン二酸化炭素
の他にエーテルを混ぜて
構成したのだろう。
エーテルのみ排除したという荒業を
ここは施されている。
言わばオーディンの加護が無ければ
魔術は使えない。オーディン自ら隔離している。
それを誰かのみ使えるように出来るほど
緩くする事は、
巨人族に対するオーディンの
処置を見ても有り得ない。
「と、言う訳なんだがどうか」
「確かにねぇ……」
「そうなるとやっぱり恵理ねーちゃんや
おっちゃんみたいな
人か、あるいは」
「あるいは?」
「何かアイテムを作ってそれを利用して限定的に
魔術を使用しているか、もしくは代償を払って
行使しているか、だのよ」
「アイテムを作成……
なるほど、それなら一人居るなぁ」
「そうだとしたらやっぱり凄い人だのよ。
エーテルも混ぜつつ空気も混ぜつつ作ったそれを
使う事によって、
魔術を使用出来るようにするなんて
神様みたいだのよ」
なるほど。グレードダウンして
態々降臨した神様なら、出来なくは無い。
最初に会った時に俺の目に使った
目薬の事もある。
得意なのは科学……薬品か?
「後はアタシたちと同じ世界の出身者か」
「魔法に特化した人間てことか。
有り得なくはない」
「アーサーって確か魔族とか転生したりとかで
混ざってるのよね?
そしたら可能性は無くはないわよね」
そう、それとこないだの使者。
含みを持たせていたが、
ひょっとしたらひょっとする。
「目的が解らんなぁ。そこが怖いわ。
足止めなのか脅しなのか」
「確かにねぇ。まぁ足止めしたところで、
向こうに有利になる事無くない?」
「そうだのよ。結局のところうちの国は
反映しているから、うちの国の土台を
しっかり作っていけば負けることは無いだのよ」
「……そうなると、ある一人が得をするし、
もう一人は動き出す。となると後もう一人の
思惑か……」
もう一人、トウシンの王が見えてこない。
ここまで陰に隠れて指示を出しつつ
上手く切り盛りしている。
相当出来る奴だろう。
王の顔が見えないってことは
周りが優秀だし、
それを上手く使ってやれていると言う、
本来であれば俺もそうあるべきだと
思っていた。
寝そべったまま陽が昇り陽が沈むのが理想だ。




