行軍の道すがら
それから馬車の中で、女性陣から
色々報告があった。
「今は政治経済軍事以外も
忙しくて、やはり休日の制定が
あって良かったわよね」
「本当に。個人的にはもう少し
皆に休んでもらえるよう、
何か休日を作っては如何かと」
「なるほどなぁ……」
我が国は出産ラッシュで、
男も家事をしており男の料理教室も
盛況らしい。
その中から男の料理教師も出てきていて、
共働きで男だからどう女性だからそう
というのはうちの国にはない。
更に女性も子供が落ち着いてきたら、
祖父母に預け他の家の妊婦だったり
出産したばかりの家に手伝いに出たりと、
子供から老人に至るまで暇は無かった。
唯一土曜午後から日曜丸一日は、
兵士や医者、緊急性のある事以外は
休みと定めている。
「去年の終わりから今年に掛けて、
ホント子供の泣き声が増えたなぁ」
「そう。大地も良くなって畜産も順調。
経済も成立し、文化レベルがあがった。
それに防衛もしっかりしてて王様一人でも
無双出来る。そうなると安心して育てられると
皆子作りが盛んになった」
「それは良かった。最近街を歩くと子供を
抱っこして欲しいと列が出来て困る。
おっさんが抱っこしてもご利益無いと
思うんだけどなぁ……」
「一応ここまで発展させた王様だしねぇ?」
「おっさん意外と人気だのよ?」
子供も大人数の中で育てている。
お年寄りや子離れが済んだ女性達を
雇って先生をしてもらっていた。
いじめ対策を厳しくしたり、
人と接するのが苦手な子や
病気がちの子供などはその子達に
合った育成プログラムを作ったりしている。
ただしご飯やお昼ねなどは共にして、
なるべく特別感を出さないよう配慮していた。
「上の子たちにも質の高い教育が
施せていると思いますし、放課後は年下の子達の
面倒も見させています」
「国の始めは国民だしな。
王様より元気で頭の良い国民ばかりになれば
甘やかしてもらえるかもしれん」
俺はにやりと笑ったが、真顔で皆が見てるので
直ぐにやめた。何だよ甘やかせよおっさんを。
「今後の事案として、住民の増大により
施設関係が狭くなっている問題を、
如何に解消するかですね」
「飲み水だったり食べ物の備蓄だったり、
今までの規模での計画だと立ち行かなくなりそうね」
「そう。王様が兵士の仕事として、
通常時は開墾などにも
人を回してくれているから、収穫量も倍」
「そうか。そうなると娯楽の面も今後
全てにおいて落ち着いてきたら考えるか」
「何? 国営ギャンブルでも始める気?」
恵理が黒いオーラ全開で
静かに怒っていた。
「俺の時代では誓ってない。
国が弱る原因になる。
国が均衡なら国外向けにそういったものを
作っても良いだろうが、
こっちに旨みは無い。
市民の間でそういうのをしていて、
社会問題になって当面全面禁止にしたばっかだし」
「そっか……良かった」
「おい恵理、俺が誰だか忘れたのか?
元々無職のおっさんにギャンブルなんて
やる金あるわけないだろう?
似たようなのでゲームのガチャをやった事があるが、
悲劇的なレベルで悲惨な引きだった……。
無料であんななのに金入れるわけ無いじゃない」
「……そこまで行くと逆に凄いわね」
「煽られるレベルで限定キャラとか
引けてなかったしな。なんで俺は少なくとも
向いてないのを思い知ってる。
王様になってから運が向いたとしても、
遊興で使う気は無い。生き残る為に使うわ」
恵理以外はきょとんとして聞いていたが、
恵理は最後にコウらしいと言って
安心したような表情をしていた。
「陛下」
馬車の扉をレンが開けて声を掛けてきた。
俺は近くまで移動する。馬車は広めに作られていて、
丈夫で軽い木なので馬五頭で引けている。
「どうした?」
「新成人の兵が遅れてきている」
「予定道理か」
「いや随分早い」
「緊張してるからかもしれんな」
「生きる為に相手の命を取らざるを得ない、
そういう状況とは少し変わってきている。
あの都市は戦から遠ざかっているからな」
俺も人の事は言えない。
戦から遠い国に住んでいたからこそ、
解る気もする。が、今はそんな事を
言ってられない。相手は攻める気満々だ。
「やられるまで待っていたら、
その頃にはもう滅ぶ寸前だろうさ」
「何れそういう時代が来ても良いかも
しれんが、今はまだ遠い」
「俺もそう思う。これも豊か過ぎる故の
弊害だな」
「それは常に戒めなければな。
成人からは軍に所属し鍛えないと、
蹂躙されてしまう」
「それもそうだし、俺なんか記憶にある頃から
鍛えているから今がある」
「小麦の収穫作業位じゃ駄目か」
「何か武術をやらしても良いんじゃないか?
やれって漠然と言われてもなんだし」
「解った。レンに一任する」
俺がそう言うと、目を見開き
口を大きく開けた。
「言いだしっぺの法則だ」
「いや俺は一宿一飯の恩義をだな」
「高くついたな。それと新成人の兵士達の
隊長と話して、出来るだけ付いてこさせる様に
してくれ。戦場には必ず来てもらわなければ。
行軍如きで根を上げられては堪らん」
「……陛下のご命令と在らば」
「適当なところでバトンタッチして、
俺達も憂さを晴らそう」
「了解! ちゃっちゃとしてくらぁ!」
「遅れたら俺だけで行くからな」
そう言うと肩を竦ませ溜息を吐きつつ
馬を一頭切り離して後ろに下がった。
「恵理、俺がコントロールするから、
そっちは頼む」
恵理に声を掛けて俺は横につけていた
ツキゲを寄せて、馬車を引きつつ走る。
と言ってもそう速い速度ではない。
新成人の中隊を率いている為、
速度はのんびり。だが歩兵からすると
しんどいものがある。中央の舗装された
道とはいえ走り通しだ。
俺が周囲を見つつ馬車を動かしていると、
馬が一頭近付いてきた。
「何か」
「はっ! そろそろ皆を休ませたく」
「現場の判断で行ってくれ。
シンラ、他の隊はどうか」
近付いてきたのは、鎧を着ているとはいえ
肩や心臓、腰周りと必要最低限の
鎧のみ身につけて馬に跨ったシンラだった。
「はっ! 順調です」
「八割と言ったところかな」
「はい……陛下と話して取り入れた
医者の先生達に助けられています」
「戦闘前にそれとはな。不慮の事故や
そういったものは起こるもの。
無理なものは帰国させよ。
ユズヲノさんたちに検診してもらい、
病状を細かく報告させてくれ。
その結果重病でないものは、
別の仕事を重く加算するように」
「心得ました。イシズエ殿へ手渡させる
書類に、五条とのみ記載しておきます」
「何度も繰り返すようなら、別途処分をする。
誰が好き好んで人の命を奪いに行くんだ……!」
「陛下、血が」
俺は下唇を一瞬噛む。思いの他強かったのか、
血が出てしまったようだ。
「すまんすまん。兎に角そこは間違いなくするように。
ユズヲノさんにも冷静に医者の目からみるようにと。
お爺先生にも立ち会ってもらおう」
「はっ!」
シンラは頭を下げながら馬を操り離れていく。




