東の領地に向けて
「よう、陛下」
俺はいつもより少し早く
寝室を出た。レンが扉の向かいに立っていた。
それはあまり珍しい事ではない。
が、それ以外が沢山居た。
「なんだこれは」
「俺が来た時にはもうご覧の有様だ」
レンの親指の方向を見ると、
隙間無く兵士が待機している。
「まだ早朝だ。皆出陣まで時間がある、
ゆっくりしててくれ」
そう言っても微動だにしない。
何があったんだ。
「陛下に心当たりあるだろ?」
「ない」
「陛下、おはよう御座います」
イシズエの声が奥の方からする。
次にカトルとトロワが道を開けてくれるか?
というと、道が開く。
「おはよう」
「戦の当日と言う事で気分が高まり、
皆早く目が覚めてしまいまして。
体を動かすわけにも行かず、
陛下の警護に当たるよう指示いたしました」
「警護っていうか通せんぼじゃないか。
何処からも通れないし」
「そうするよう指示したのだ」
「……ロシュ、面白い格好をしているな」
列の中から不愉快だと言わんばかりの
声がしたので視線を向けると、
普通の兵士と同じような鎧に身を包んだ
ロシュが居た。合わないわぁ、ホント合わないわぁ。
「ホントに合わない。ひっどい」
「やかましい。特別扱いは必要ない。
新成人として、またその代表として
他の皆に混ざって戦に行く」
「その意気や良し、と言いたいが
気負って暴走するなよ?
指揮には従うように。
まぁ今回は遠足程度に思っておくと良い」
今回の新成人たちは、一個中隊に纏めて
戦場に同行する。慣れてない者たちは後方に、
兵士達は前に。そして隊長は兵士達の中から
評価の高いものを隊長として起用している。
これも一部試験を兼ねているので、
俺の部隊に組み込んでいる。
この混成部隊の中で如何に動き帰るか。
俺としてはワクワクしている。
「当然だ。部隊を乱し戦に負けたとなれば、
話にならん」
「兎に角皆生き残れ。生き残った先に未来はある」
ロシュは頷く。が全く昨日の感じが無く、
めっちゃ緊張していた。そういえば俺も
この世界に来たとき、ファニーと共に
街に着くまで緊張していた気がする。
特に命を奪って生き残る、というのは
生きるという事を改めて考えさせられるし、
死が隣にいる事もまた思い知らされる。
だからこそ、俺の元いた世界よりも
皆精一杯生きているし、自分の国が
良くなる事を誰よりも望むし見定める。
「陛下、朝の鍛錬を成されては如何ですか?
今回は我々も同行させて頂きます」
「いや良いよ。人に見せるもんじゃないし」
「警護いたしますので」
「警護なんていつも無いだろ。何で今日に限って」
「今日だからこそです」
俺は心の中で舌打ちを打つ。
レンが読んで早く着たより早く、
イシズエにカトルトロワは新兵を
敷き詰め妨害した。
万が一俺が強硬手段をとっても、
俺を追って皆大声を上げて追って来る。
そうなれば出陣前から王様自ら
騒ぎを起こして乱す事になってしまう。
こっそり抜け出てやらかすより問題だ。
暫くは控えよう。相手も読んで居るだろうし、
しょっちゅうやっても効果が薄い。
「解った解った。俺が悪かったよ。
今回は大人しく出陣するからー。
マジで。朝御飯も食べるし出陣式も出るし」
「兎に角いつも通りにしていただければ。
我々も警護いたしますので」
どうやら譲らないらしい……。
溜息を吐いた後、レンに目で合図をし
先を歩かせて中庭で鍛錬をする。
いつもと違うのは、レン以外に
イシズエにカトルにトロワ、そしてロシュ
と手合わせした事だ。
結局熱が入りすぎて汗だくになり、
風呂に入ってから朝食。
その後準備を整えて出陣式。
今回出陣する兵士達は門の外に出て、
俺や重臣達は門の上から中の国民に向けて
挨拶をした。前は長々と話したらしいが、
俺は短く要点のみ伝える。
なるべく早く皆で生きて帰ってくること、
居ない間国民同士で争わないようそして
反乱が起きた際には先ずは自分の命を大事に
護って欲しい旨を伝え、皆の無事と気持ちを
切り替えるべく一分間目を瞑った。
「出陣!」
俺がそう叫び相棒二振りを引き抜き、
進軍方向へと向けると、第一陣が動き出す。
俺たちも皆下りて行く。
今回はイシズエが留守なのでここでお別れだ。
内緒ではあるが、信頼の置ける者達には
其々個別に反乱が起きた際の対処法を授けている。
カムイもいるし、外からの防衛に関しては
何とかなるだろうが、いつ何時誰が何をするか
解らない。備えあれば憂いなし、だ。
「コウ、早く!」
恵理が馬車の窓から声を掛けた。
今回は真ん中の部隊で俺の直属のところは、
色々試したい事があったので新しい試みを
している。軍馬五頭に馬車引かせ、
馬車の中には俺と恵理にリムン、
エメさんにガンレッドそして医療班、
内政官に軍師が何個かに分けて乗っている。
戦場で重症を負った者を
優先的に馬車に乗せて治療し、
俺たちは馬に乗る。
早期治療が出来れば、命はもとより
怪我の治りも早いだろうと思っての事である。
俺は馬車に乗るのはあまり良い気分ではない。
なんか偉そうで落ち着かないし戦況が見えない。
そう思う反面偉い人が偉い感じで居ないのも
夢が無いし、兵士たちが逆に落ち着かないのかも
しれないなどと思い、今回はなるべく長い時間
馬車に居る事にした。
「陛下、早く乗ってくれ」
「レンも今回はこっちなのか」
「勿論だ。俺は陛下以外に仕える気は無いし、
誰かに命令されたくもないんでな」
「それは良い。ならレン、解っていると思うが」
「無論だ。ツキゲも横を走っている」
俺はほっとして馬車の中に入っていく。




