登用と新成人の儀式と
「それはまたの機会に議論するとしてだ」
「いや諦めてるだろ」
「……しつこいなお前。
兎に角だ、まだまだ嫌な事に先は長い。
不本意かも知れんが、元王族として受けた
ものを国民に還元する為力を貸して欲しい」
俺が改めてそう頼むと、暫く間があって
「……解った。バレてしまったのなら
どうしようもない。前々王のした事は許せない。
だが今はコウ王の治世。俺からしたら
ざまぁ見ろと思ったし、俺は前々王の思惑には
従うつもりはさらさら無い。
それに今皆生き生きしている。
周りの人たちには本当に世話になった。
おせっかいが過ぎるがそれも俺の生まれた国の
人たちの愛すべき欠点。
その人たちがその人たちらしく生きられる国、
それこそが俺の護りたいもの。
トウシンなどという国に侵されるなど、
我慢できるはずもない。だから協力した」
「助かった。ウルシカにはやはり優しさが
邪魔をした面があるな。ウルシカも色々
調べたりして外の状況を知っているだけに、
追放となるのを哀れと思ったんだろう」
そう、ウルシカが知らないはずが無い。
それだけ権力はあるし部下も居る。
恐らく説得はしたのだろう。
だが相手は祖国を妄信し我が国を下に見る
饒舌で頭のキレる商人だ。
言わば競争相手。従うはずも無かった。
「俺をアンチテーゼ的存在にしたいと?」
「俺とお前だけしか居ないからはっきり言うが、
善だけでは国は治まらない。優しさだけでは
国は護れない。生憎と俺は善人に囲まれた事がなくてな。
言わばウルシカは分かりやすい善。
ウルシカのような存在が居る事で、
大げさだと思うだろうがこの世知辛い中でも
人に希望が持てる」
「本来は王様や王族がやるべきなんだろうがな」
「……生憎とそんな上品に生きちゃ居ないんでな。
元々引き篭もり、そして冒険者、今は王だ」
「その為に俺の妹と弟も必要だと」
「そういう事だ。ウルシカやロシュの妹弟には
そのまま曲がる事無く生きてくれればそれだけで
人々の希望になるだろう。だがそれだけでは餌食になる。
世の中にはどうしようもない者も居る。
それを例の大使たちの件で皆改めて知った。
自分たちのことを棚にあげて、こちらにばかり
強要する国がある」
「そう言う事なら請合おう。
俺も王と共に喜んで汚れ役をやらせてもらう。
妹と弟にはさせられないからな」
「そうか、受け入れてくれて何より。
おーい、入ってきてくれ」
そう俺が大きな声で呼びかけると、
王の間に少女と少年が入ってきた。
少女はくりっとした大きな目が
特徴的な端正な顔立ちに
腰まである長く白い髪、淡いピンクを基調とした
着物を細い体で着ていた。
少年は少女が性別を変えたかのような
顔をしていたし、体は巨人族にしては
細身だった。
「お、お前達!?」
「勘違いしないでくれよ?
登用したのはロシュより先だ。
お前の妹のユリナは幼小中高の
裁縫と音楽の授業内容を決めたり、
才能豊かなものには直接指導する
担当をしてもらっている。
弟のリシェは補佐官として
ガンレッドたちと共に自分のペースで
補佐してもらっている。
二人とも体に無理ない程度にだぞ?」
ユリナとリシェは傅き頭を下げた。
二人は一卵性双生児の兄弟で、
しかも生まれつき色素が薄い。
体も通常の巨人族より弱い為、
幼い頃から苦労していたし、ロシュは
それを護っていた。そのロシュも
体的には巨人族の中では小さい方だ。
王族でなければどうなっていた事か。
二人はそれを解っていて、且つ国が
変わった事で自分達も出来る事が
したいと思っていると俺と話した時
言っていたので登用した。
「陛下のお心遣い有難く」
「まさか外堀から埋められていようとは……」
「いや有能な人間は誰であれ登用する。
俺は何もかもが足りないのでな。
唯一自慢できるのは時間を見つけて
国を隅々まで見て回る事くらいしかない」
「……戦神がよく言う」
「これからの戦ではそんな皆の呼び名も
言われなくなるよう、なるべく大人しくするさ。
昼行灯が似合う王様になりたいし」
「その願いを叶える為に俺も力を貸そう」
俺はロシュの前まで行き手を差し出すと、
ロシュは晴れやかな笑顔で手を握った。
「そうと決まれば早速兄さんに
してもらいたい事があるんだ」
「なんだ? リシュ」
「明日の成人の代表を務めて欲しいんだけど」
「何!?」
「兄さん成人だし丁度良いでしょ?
新成人代表としてお願いね」
「ば、馬鹿な! 国民の前で顔を晒すなど!」
「力、貸してくれるよね?」
俺は手を握り返しそういった。
最悪だ、と言わんばかりの苦虫を噛み潰した
顔で俺を見るロシュ。面白し。
「そうと決まれば早速段取りと祝辞を覚えてくれ。
出陣も近い。今回は後方部隊に新成人組も入れる」
「……くそぅ……」
「さぁさぁ兄さん行こう急がないと!
陛下、失礼致します」
「お兄様、取って置きの背広作りました!」
「お、覚えていろよ……!?」
声を絞り出し俺を恨めしそうな顔をして
見ながら、妹弟に連行されるロシュ。
俺はニヤニヤしながら手をひらひらさせて見送った。
次の日、新成人代表としてロシュが
門の上から国民に対して挨拶し、
抱負と一丸となって、出身ではなく住む国の
人間として国を護ろう、と激を飛ばし大盛況で
式は終わった。
特別新成人だからどうという事はない。
何しろ生きるだけで精一杯で、
才あるものは年齢問わず登用している。
労働時間や環境には気を配っているから、
そういう意味ではこの国の昔の儀式で
新成人に当たる十八歳からは、
自らの裁量で体調などと相談し働いてもらう
と言う事にした。
今我が国は新生児ラッシュで、
これから教育方面にも人が多く必要になるし、
偏らない教育が必要なので、そういう面でも
忙しい。
また医療方面でも流行病もあるので、
子供とお年寄りに注意しつつ、
新薬を開発したりと医療も人が足りない。
なので動けるものが皆で助け合って
動き回らなければならない。
こうして行事は滞りなく進み、
また決裁も片付いたところで
出陣の日となった。




