見るべきは人
ロキが去った後、入れ替わりで
イシズエ達が入ってきて会議が始まる。
先ず始めに畜産系の話が出た。
順調に研究員も増え予算も増え領土も増えた。
飼育環境も改善され更には病気に対する薬も増えた。
良い流れが着ていて、それを急ぎ報告したかったと
畜産局のブロウが声を弾ませた。
彼の家は昔からこの大地で畜産をしていた事もあって、
昔からの知恵があった。
俺が郊外で、動物と戯れている
大柄でおかっぱの男を見たのが出会いだ。
そのおかっぱの男は、働いた分を必要最低限残し、
それ以外は動物達の餌として与え、柵を広く作って
一緒くたに飼育していると言った。
そこから俺は構想を話し、彼の一族を丸ごと召し上げ、
畜産局の一員として存分に働いてくれている。
ブロウの話に皆聞き入りメモを取る。
そこから生産の規模や食料への転換、
放牧をして田畑を踏み鳴らし
肥料も巻けるので、未開の部分で
離してはどうかという意見も出た。
ここには重臣として各部門の長が居る。
俺は引き篭もりのおっさんなので、
今まで社会人の上の方の人と話を
した事はないが、有難い事に
少なくとも俺の国には出来る大人が多い。
というのも皆どの問題にもある程度明るい。
専門的な突っ込んだ話以外は
スムーズに進む。
「今回の本題は勿論来週に迫った、
東の領土攻略であります」
「そうだな。陛下をなるべく前線に
お出しせず勝たなければ、軍部だけでなく
我ら重臣まで白い目でみられよう」
「まぁまぁ。国民の目は厳しいが、
それだけ皆の能力を信頼している証だろう。
戦への不安もあるだろうし」
「というよりはやはり陛下のご不在が
大きいでしょうな……。我らも日々励んではおりますが」
「この国には陛下の目があり陛下の手がある。
国民の間では何か事があればそれが出るくらいですしな」
「いやいやそれは皆の頑張りだよ」
「そう言って警備の者から門兵、更には設備兵にまで
お声を掛け褒め評価していらっしゃる。
我々にはそれは出来ません」
「お、嫌味か?」
爆笑が起こり暫く立って収まると、
今回の本題に入った。
次回の戦に向けた兵糧の確保と、
それに対するレシピの公開。
更に解毒剤や治療薬、医師の人選。
補給部隊を俺の部隊に混ぜるという
計画について細かく議論した。
兵糧は年々増えていくかと思いきや、
微増と言った程度だ。
何しろ人は減るどころか増大している。
その上収穫したものを使って商売もしている。
個人的には出来るだけ国民に還元したいと
思っているので、必然的に戦争は省エネで
行わなければならない。
この様な状態なので、俺を始め全ての
戦に出る者たちは持久力と瞬発力を常に鍛えてる。
また兵馬の飼育育成にも力を入れているが、
そんな急激には増えない。
他の国から小麦などを多く積んで買っている状況だ。
ブロウの話からそれらの別の土地の生き物を
連れてきても、環境が違う為病に掛かったりも
するし、餌が違ったりもするので困難を極めているようだ。
「人もまた同じだな」
「はい。直向に生きようとするものも居れば、
この土地を恨んで非難するものも居ります」
「そうなってしまえばもう直るまいよ。
陛下の方針通り国外に行ってもらうより他あるまい?」
「然り。陛下は寧ろこの国以外の国も救おうとしている。
その際たるものが他国との貿易だ。
はっきりいって我々はもっと有利で良いはずなのに……」
「本来であれば我々の方が恨みたいところだ。
格安で食料を分けているのだからな。
それを知らず表だけ見て僻む者達が
繁栄するべきはここじゃなく俺の国だ、
この国は卑怯だなどと喚く。
それだけならまだ良いが、犯罪を起こされては
真面目に暮らすこの国の者達の害にしかならない」
「それに関しては法に記載したように、
粛々と退去してもらいましょう。
犯罪者は二度と国の敷居をまたぐ事は出来ない。
不平不満を解消する為知恵を出し合うのは当然だが、
こちらにのみ知恵を出せ、俺たちを救え、
では人としての関係が成り立ちません故時間の無駄です」
「まぁそういう人間を許容する国ってのも良いんだろうけど、
うちはそういう人まで無理に居てもらうのは悪いし。
さっさと出て行ってもらったほうがお互いストレスに
ならないからな」
誰にでも好かれる人間など居ない。
それは引き篭もりの俺が唯一得た素晴らしい教訓である。
どこの国の人間かというよりも、その人間がどういう人間なのか
それが一番重要だ。この大陸で同じ民族ですらそうなのだから、
この大陸が開かれて他と繋がった時、
俺は非難されるかもしれない。
というかそれを機会に王をこの大陸の者に渡そう。
それまではやり遂げるのみだ。
「さぁさぁ不満も吐き出したところで、
我々も批判されぬよう頑張らないとな」
「はっ!」
仕切りなおして再び会議を始める。
次に戦術局のシンラカムイが入ってきて、
戦術について説明を始める。
東の領土へ攻め入る場合、
小さな丘と少し高い山、行き来しやすい道の
三つのルートがあり、
それを三隊に分けて攻め入る。
忍びの里までは同じ道を通り、
忍びの里から分かれて出陣する。
土地を知り尽くした諜報部が伝令係として、
三隊を行き来する。
ノウセスは少し高い山、アシンバは小さな丘、
行き来しやすい道を俺の部隊。
兵力は三千。各千。
攻略まで三日、統治し法整備など
うちと同じレベルのものを施行するまで四日。
そこから根付くまで時間を掛ける。
「シンラ、カムイご苦労だった」
「いえロキ殿やウルシカ殿のお陰で、
詳しい資料が手に入りましたので」
「だが道を細かく調べたのはシンラだろう?」
「いえ、まぁ自分で行く道ですし」
「そうか、なら今回はシンラに同行してもらおう。
細かい差配は任せる。後数日だが頑張って準備してくれ」
「はい!」
こうして出陣までの最終準備期間に入った。




