ロキの帰還と現状と
寝室では浮上したとはいえ落ち込み気味の
俺を心配して、皆が労わってくれた。
一人出ない事が異世界に来て有難いと
初めて思えた。
そして夢を見る。
この世界に初めて来たときの事を。
「お帰り。無事で何より」
「嫌味か」
いつもの日課を終え午前の
諸々も終了したタイミングで、
王の間にロキが現れた。
流石のロキも少しやつれた様に見える。
「嫌味じゃないさ。ロキの事だから
調べ物をしつつ、何か罠を沢山仕掛けてきた
んじゃないかと思ってさ」
「なるほどね。君に対して無礼だったね。
流石解っている。今の僕の身は少し落ちてるけど、
それでも強力だからね。それがあわや、
という位には強力な罠を仕掛けまくってきた」
ロキは怒りと鬱憤を表すかのように
身振り手振り踊り、そして履き捨てるように言った。
「それはこっちも全滅するだろ」
「あ、それは大丈夫。僕の罠で一番強力なのは
特別な奴に効果があるやつ。その他は僕が戦場に
直接行くから問題ない」
「特別な奴って俺もじゃね?」
「もっと面白みのある奴を引っ掛ける為さ」
邪悪な笑みを浮かべながらロキは言う。
ここに来てストレスマッハ状態だから
致し方ないのかもしれんが怖すぎる。
「あんまり過激な事はしないでくれよ」
ロキはそれを聞いて王の間から出て行った。
俺たちは書類の決裁をしつつ午後を迎える。
昼食後に久し振りに幼稚園や小学校、
中学校に高校を恵理やリムン、エメさんガンレッド
と共に見て回った。
元の世界みたいにべらぼうに人が多いわけではないので、
学校の数も少なく視察しやすい。
恵理とフェメニヤさんが相談し、
其々の年齢に分かれて学び舎を作った。
月に一度交流させ、年長者が年少者の面倒を見させる事で、
自覚を促す事もしている。
視察後城に戻り王の間で夕飯前に
建築局との会議を開いた。
今一番セイヨウを行き来している建築局。
現状の報告と、本国とセイヨウを繋ぐ
整備された道を作りたいという提案があった。
小さな山に監視小屋を作る事を条件に、
追加予算と増員の為の募集を許可する。
一方の連絡だけでは難しいので、
アインスからの連絡、ハンゾウからの連絡、
内政官からの連絡、そして建築局からの連絡と
四つもらっていた。まだ気が抜けない情勢だから
四つ貰っているが、何れは一つにしたいと考えている。
ホクリョウにセイヨウ、更に東の領地も
我が国が統治する事になれば、人も食い扶持も増える。
その為の雇用を生み出し畜産農業を活性化させる。
こうしてじわじわこの大陸を再生させていく。
「おはよう」
「おはよう」
次の日の早朝。俺が朝食までのいつもの日課を終え、
王の間に行くと、ロキが待っていた。
更にオンルリオの練兵などを手伝いたいと、
そっちに寝泊りしていたレンが戻っていた。
「おいなんでコイツがここに居るんだい?」
「は? 俺は一宿一飯の恩義を王に返しているだけだが?」
「……口の聞き方を知らないらしいね」
「田舎者なものでな。用件が無いなら良いか?
俺は王に用があって来たのだ。お前と話す為じゃない」
「おいロキ落ち着けって」
俺はレンの首を落とそうとあっという間に
槍を振り被ったロキを、羽交い絞めにする。
「で、レンの用件は何だ? ロキとの話もあるから
手短に」
「そうか? なら手短に。練兵は順調だ。
処分の事もあって士気の高揚が著しい。
嵩に懸かって東の領地を踏み潰せる気がする」
「それは結構。もう直ぐ出陣だ。練兵のペースを
それにあわせて前日には休養を取るよう伝えてくれ」
「解った」
レンはそう言うと一礼し、
ロキを睨みつけて去って行った。
それを見てロキは罵詈雑言を
去っていくレンに投げつけた。
暫くして落ち着いた所でロキの報告を聞く。
細かい資料は戦術局と兵士局に置いてきたとの事。
俺にも同じものを渡すが、簡潔に説明してくれた。
カイヨウは環境は厳しいものの、
アーサーを中心として清貧を貫いて纏まっている。
フリッグさんの方は、フリッグさんの力なのか
篭城出来る状態にまで持ち直している。
それが信仰になって君臨している。
トウシンについては相変わらず王が解らなく、
またうちの国から流された物を使って、
自力で一年以上は持つ国庫があり
且つ技術が伸びれば更に長期に渡って
篭る事が可能。
「なるほどなぁ……やっぱり伸ばせば伸ばすほど
相手が有利になるなぁ」
「フリッグも抜け目無い。君を足止めするのに
相当形振り構っていないね。巨人族を滅ぼす事が
目的なのに……。何かある、とみて間違いないだろう」
「てことは急ぐ必要があるな」
「まぁね。但しそれを相手も承知しているから、
無闇に突っ込む事は出来ない」
「信仰かぁ……。今のところは相手の無礼ってのが
一つ手札にあるけど」
「それは大事にしたいね。更に言えば、ああいう手合いは
信仰を広めるのを我慢できない。それをフリッグが
押さえ込むには無理がある。遠からずこっちだけじゃなく、
他でもいざこざが増えだろう」
「なるほどね。アーサーの目的はそれかもなぁ」
「会談の件は驚いたけど、彼の目的を考えれば
当然の申し出だろう。あの無礼な奴がここに居るのも
それがあるからだと見ていい」
アーサーの目的は俺と果たし合う事。
それを告げて出て行った。がその後フリッグさんの降臨で
王となった。あれでも国を築いた事のある先輩王様だ。
そういうものの利点も知っていれば弱点も知っている。
「ありがとう。少しのんびりするか?」
「そうさせてもらう。君の警護や国の様子も見たいし」
「よろしく頼む」




