穏やかな夜
こうして次の戦の日程は決まり
その日は終業となった。
俺は少し残って書類の決裁をしたり、
駄目なものはそれについて
要点を1点のみを書いたりした。
前まではダラダラ書いてしまったが、
正直それを全部に出来るかといわれれば
無理なので、途中でおざなりになって
適当になるくらいなら、短くても解り易い
要点を一点のみ書いて終わりにしている。
分身出来たら楽だと思った事もあるが、
結局それは他の人間の仕事を奪う事にもなるし、
何より信用していないという事だから、
それでは国としてというか王様として
あまり宜しくないと考えている。
なのでそう思ったときは、そこを埋める
部門を作るなり人を育成するなりしている。
今回多かったのは、古いものを壊して
新しい画期的だと思ったものを丁寧に
長く書いていた。
皆上に行く為には新しい事をしないと
駄目だという風潮でもあるのだろうか。
こっちとしては実直に勤めてくれる者の方が
万倍欲しい。
日が当たっていないからという理由だけで
過激な方向に走られても困るなぁ……。
基本戦術あっての奇策なのに、
奇策ばかりに走っては可笑しな集団になってしまう。
「評価制度の見直しもしないとなぁ……」
一人で王の間で呟く。
先ず元領土を併呑し、国を更に大きくした後は
整備と共に人材の登用に力を入れよう。
正直対アーサーについては、手が無い訳ではない。
あまり好きな手ではないし、
俺自身あいつとは真っ向勝負でケリを付けて
やりたい。が、人材的にどうしても難しい場合は
呼ばざるを得ない。なので一月という直近で
会談を行う事にした。
目的を忘れてはならないが、
この大陸を隔離状態から開放する。
その為には巨人族自身に立ち上がってもらい、
オーディンとの戦いに力を貸してもらわなければ
ならない。なので他の王を全て倒して
統一しなければならないという事もない。
が、足元から崩されては困るので
慎重さが必要になる。アーサーはどう出てくるか、
またトウシンの王はどうでてくるか。
フリッグさんは間違いなく立ちはだかって来る。
その時本心が少しでも聞ければ良いと
思っている。
ここは隔離されているのだから、
オーディンは元より、管理者からも多少干渉され
にくいだろうし。
「寝るべ」
考えていると止め処なく色々頭の中から
考え事が溢れてくるので、寝ることにした。
「あら」
お風呂から上がって寝室に戻ると、
皆がベッドの上に座り、難しい顔をしていた。
今日はハヲノとガンレッドも居る。
人口密度が凄い。
「あ、お帰り」
「おかーえり!!」
寝る前だというのにハヲノは元気だ。
ユズヲノさんお手製の寝巻きの着物を着て
俺に突撃してきたので、鳩尾に頭突きを食らう前に
持ち上げる。頭上できゃっきゃ騒ぐハヲノを
連れて、ベッドに近付くと何やら紙を広げていた。
「なんじゃいなこれは」
「ん? 明日のお出かけ何処が良いか調べてんの」
「そうだのよ……私はやっと出来た新しい森を
見に行きたいだのよ」
「私も賛成。お母様にも病院にも良いお土産が
持っていける」
「私は出来れば見晴らしの良い丘が良いです。
警護にも困りませんし」
「のんびりするならそこが良いよねぇ~。
空から襲われる事無いし」
「いや解らんぞ? 矢が雨霰とふってくるかもしれんし」
「それはおっさんが叩き落してくれれば良いから」
「俺も休みなんだけど。久々の」
「アタシたちもそうなんだけど」
「……すいません」
取り合えず余計な事を言うと薮蛇ぽいので、
少しはなれたところでハヲノと遊ぶ事にした。
「何したい?」
「遊び」
Oh……遊びかぁ。遊びって言われても
中々パッと出てこない。弟とも殆ど遊んだ
事がないしなぁ……。
「お馬さんしたげようか」
「お馬さん……?」
ハヲノは人差し指を右頬に当て、
首を右側に傾けた。可愛いなぁ。
最初会った時とは違って、今は元気ハツラツと
育っている。ハヲノの為に、新しい着物を
恵理とリムンで開発したのを見た。
スパッツのような、膝が隠れるくらいに
長いズボンを履いて、上は着物という
スタイルが、里出身の子供達や、
カイヨウ出身の子供達に流行っている。
割愛するが恵理と話していて、
どうやらそういうファッションも
覇権争いがあり、誰が綺麗でお洒落な
物を作れるかという競争が起こっているらしい。
何でもデザイナーとして恵理と
里出身の少女、北のフロスト出身の主婦、
カイヨウ出身の主婦、トウシン出身の主婦
この五人が有名で新作は話題になるらしい。
さっぱり解らないので、ふんふんと聞いていたが
商売が活性化して何よりだし、
主婦の働く改革としてそういう大会を
開催しても良いかもしれないと思った。
子供の可能性も広がるし。
まぁ最もそういう事を安定させるには、
先ずは俺の人生プラスアルファくらい
平和で居られるような状態にしなければ
ならないな。
「どしたの?」
いつの間にかハヲノが俺の頭を
わしゃわしゃとしながら、
不思議な顔を近づけていた。
「おりゃ!」
ハヲノを持ち上げると、
一旦立ち上がり俺は四つん這いになると
ハヲノに背中に乗るよう告げた。
それから周りをぐるぐる回ると、
大分気に入ったようで長い事やる嵌めになった。
後日談として、元黒尽くめの長から
なんて事を教えてくれたんだ
大抗議された。ごめん。




