三箇日の王様
三つの国からの使者との応対を終え
昼食を恵理たちと食べて街へ繰り出す。
俺は頼まれなくても仕事の合間に街を
見て回っているが、新年においては
王様が見て回るものらしい。
思いの他使者とその後の処理に
時間を取られた為、午後からに
なってしまったが、本来は四日間は
早朝から街を見て回るのが慣わしの様だ。
俺の隣に恵理とリムン。
直ぐ後ろにエメさんと
ユズヲノハヲノ親子にガンレッド。
その後ろにイシズエとフェメニヤさん。
更に後ろに親衛隊十人。
実のところ更に倍の兵士を率いて
練り歩くと言われて却下した。
今後はこれより更に少なくしたい。
年始なのに騒がしいと落ち着かないだろう。
王様が練り歩くのは普段ある事なので
気にも留めないだろうが、親衛隊まで
引き連れて歩いたら何かと思う。
昨今他国出身者の事できな臭い動きが
無いわけではない。俺自身が動いて
調査したりもしているし、検挙もしている。
あまり宜しくない事だが、皆俺が本国に居て
うろちょろしているのは
凄く安心感があるらしい。
なので最近は俺より一般国民の方が
俺以外の兵士や重臣に厳しい。
何故王様を働かせるのか戦に出すのかと。
もっとしっかりしろと家でも言われるらしい。
宜しくないよなぁ。俺は大分皆に任せて
行く先々で王様がふらふら出来るくらい
皆やってくれているから国は大丈夫だと
言っているんだけど、あまり効果が無いようだ。
「コウ王陛下万歳! 王妃方万歳! 親衛隊万歳!」
それを表すかのように大通りでは
人だかり。時間が遅い為、一人ひとりに
声を掛ける事は出来ないが、皆の顔を見つつ
気になる人にランダムで声を掛けていく。
途中おやつの時間に公民館でお茶を頂く。
国の中で区画整理をし、大きく七つに
分けて代表者を一人決めて国民と
国との仲立ちをさせている。
その者たちも含めて座りながら会談。
幸いな事に鼻につく者も居なく、
世話好きなのが顔に出ている面子で
正直ほっとした。女性も三人居り、
恵理たちと話が弾んでいた。
更にそこから夕飯までの間、
国を歩いて回る。これは大変だ。
疲れた顔も出来ないし、笑顔笑顔で
歩き続けた。
「がはぁ……これ後何日やるんだっけ?」
「後二日です」
冷静に答えてくれたフェメニヤさんも
ぐったりである。何だろう異世界に来て
A○Bの握手会気分を味わえるとは思わなかった。
それこそ顔も覚えて話も覚えてとかしてた
彼女達は神なのかと思わずには居られない。
この世界に来てトップレベルのしんどさである。
テーブルに突っ伏しながら、
何とか皆で食事を終える。
正直風呂とかどうでも良いから寝たいが、
未だ俺のベッドに所狭しと寝転がる女性陣から
絶対に駄目だと言われているので、
のぼせないよう寝ないよう踏ん張って風呂に入る。
「何だろうね……こうも憂鬱な朝を迎えるとは」
ウルシカと奥さんに起こされて起床した。
女性陣も今日は一緒に起床。というか目が開かない。
昨日練り歩いた者たちは俺も含め起きてるのか
寝てるのか解らない状態だった。
朝食を終えて、カトルとトロワ以外の親衛隊は
入れ替わるよう指示し、皆で冷たい水で顔を荒い
円陣を組んで
「さぁ皆、今日も国民が待っている。
後二日、気合で乗り切ろう!」
「オー!」
と声を出して笑顔を確認し合い、
門を開けて外に出る。待ち構えていた人の群れに
一瞬笑顔が引きつったが、踏ん張る。
まだ朝七時やで……。
「コウ王陛下ー! コウ王陛下ー!」
兵士達が危ないものを持っていないか、
手に変な液体を塗っていないか等、
事前に確認してからのスタートとなった。
移動しながら行っている為、検閲の兵士達も
行くであろう方向をチェックしている。
これはあれだな、精神的に来る奴だ。
体力はあるんだろうけど毟り取られている気分だ。
自分の事ながら人気がありすぎてる気がする。
ダラダラやってるんだけどなぁ……。
病院を訪問したり他国出身者の寄り合いに
顔を出したりと隙無く行動し、
三日間を終え後で分った事だが
本当は国民側でもっと大々的な催しを
考えていたらしい。
フェメニヤさんとイシズエが
伝統を武器にあれで控えめにしたようだ。
街中の飾りや紙幣を見ながら作ったであろう、
俺の不愉快な似顔絵の旗や弾幕。
鳴り物の数々に俺は食えないのに道端で焼かれる
美味しそうな食べ物。
これは本気で来年どうにか考えないと、
こっち側に死者が出る気がしてならない。
現に俺は翌日目が覚めなくて、起きたのは夕方。
というか前日まで参加してたメンツで
まともに起きていられたものは誰も居なかった。
「もう無いな? 絶対無いな?」
「ありません。ご心配なら街に出られては
如何ですか?」
「怖くて出られない」
「暫くは城の中での事務作業が主ですので、
ゆっくりリハビリしていってください」
そう言われた後、イシズエの手招きで
ウルシカを始め内政官たちが、
紙の山を抱えて王の間に入ってきた。
ゲンナリする事しかない。
「休みが恋しいのは初めてかもしれない」
「そうでしょうな。陛下からその様なお言葉は
聞いたことが御座いません。それに
今日明日である程度処理しなければ、
明後日の休日も御座いませんので
頑張りましょう」
イシズエの言葉が終わるか終わらないかで
俺は天井をへ勢い良く視線を向ける。
王様もハードワークだわ。
正月はもっとのんびり
出来るもんかと思ってたが、
全く出来なかった。
最初の日曜がやっと休日。
恵理たちを連れて何処かへ出掛けよう。
俺はそれを胸に書類の処理に全力で取り掛かる。




