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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
無職のおっさん戦国記

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アーサーの使者

 俺とイシズエは顔を見合わせた。

先に喧嘩を仕掛けてきて、戦争の口火を切った

相手国の使者と面会する言われは無い。

が、時間稼ぎはこちらもしたいし

内容が気になる。


「よし、会おう。代表者のみ

国内に入れて連れて来てくれ」


 視線を伝えてきた親衛隊に移し、そう告げる。

最も時間稼ぎにどうでも良いような

話をしに来たのだろう。

それともセンリュウたちの話か

本人達が来たか。

門兵長の身内が裏切ったとなれば、

混乱は必至だろう。

 イシズエの顔をチラリと見つつ、

こんな時にナルヴィかハンゾウが

居てくれたら、と思った。

万が一に備えて門兵長代理候補を

上げておきたいと思ったが、

イシズエでは難しいし……。

シンラカムイではまだまだ経験が足りない。

そうするとここはやはりカトルトロワの

両人を、一時練兵から外して頼むか。


「連れて参りました」

「どうぞ」


 俺たちは席を立って王座の前に立ち、

イシズエは斜め前に立ち使者を迎えた。


「コウ王陛下、この度は新年明けまして

おめでとう御座います」


 入ってきたのは綿飴みたいな髪の毛をした、

オッドアイの少年だった。

俺はそれを見て拍子抜けした。

傲慢不遜な奴が来るかもしくは丁寧な騎士が来るか。

そんなところを想像していたが、

まさか少年を差し向けてくるとは。

しかも着ている物もローブの上だけを切って

着ているような上着に下は普通のスラックス。

これはからかわれているのかと疑いたくなる容姿だ。


「そうか。アーサー王にも、俺が同じ事を言っていたと

伝えてくれ。以上だ」

「……それだけですか?」

「以上だ、と言った筈だ。退出せよ」

「何か聞きたい事はありませんか?」

「何も」


 俺がそういうと、ニヤニヤ笑っている少年は

顔をそのままで突っ立っていた。


「自分で出て行けないというのであれば、

手を貸そう。おい、誰か」


 俺がそう呼んでも返事が無い。

……これはどういう事だ。

心なしかイシズエも動いていないように見える。


「魔術師か」

「魔法使いかな正しく言えば」

「そうか。じゃあ死んでもらおう」

「いやいやいや、別に殺し合いに来た訳じゃないんだ。

君と少しだけ話をしたくてね」

「今更する話は何も無い」

「没交渉って訳か。そんな事して良いのかね」

「構わない。お前が干渉して反則を犯しているなら、

その内弾かれる。俺の有利になるだけだ」

「いやいやいや悪かった。申し訳御座いませんでした」


 相変わらず顔を変えないが、使者が一息吐くと

周りの雰囲気が変わり音が戻ってくる。


「コウ王陛下、先日は使者が失礼極まりない事を

してしまい、申し訳御座いませんでした。

この度は私が新年のお祝いと謝罪に参りました」

「賽は投げられた。覆水盆に返らず。

謝罪は受けた。正々堂々最後まで戦おうと伝えてくれ。

以上だ」

「我が王より提案があって参りました」

「我が王より提案? お前の提案じゃないのか魔法使い」


 そう言うと魔法使いは苦い笑顔に変わる。


「コウ王は存外手厳しい」

「そうか? 国々の情報を収集していれば、

何処と手を組むのが一番我が国にとって有利に働くか、

火を見るより明らか。お前達と手を組むのが得にならない

というのはどこの国でも一致した意見であろう」

「飢えた狼の群れに態々突っ込むと?」

「狼は何れ場所を追われて種を変えて生き延びるか

死ぬかの定め。そう思うからこそ来たんだろう?」

「……中々エグい事を言うじゃないか成り上がりの王様が」

「無礼には無礼で返すのが礼儀。

更に言えばお前のそっ首を切り落とせば、

狼は共食いを始めるんじゃないのか?」


 魔法使いからニヤニヤが薄れていく。


「漸くそのニヤニヤした顔を止めたか」

「気に障ったらしいね王様。失礼しました」


 ……巨人族でもなく何やらこの世界の

人間でも無いような感覚。


「マーリンの代理でも気取っているのか?」

「そうだ。マーリンの代理だよ僕は。

名前はエムリス」


 まさかここで新たな異世界人の可能性もあるのか……?

さっきの謝り方や使者として来てるのに

上から目線。恵理とかと同じ年代なのかも知らん異世界人なら。


「そういう事なら今後より一層警戒させてもらおう」

「そうすると良い」


 取りあえずアーサーは大変だろうなぁ。

国だけでなく環境だけでなく部下まで荒ぶっているとは。

こいつという隠し玉を出してきたという事は、

更に二つ三つあるんだろう。

……いやもしかしたら俺達を侮って散歩がてら来たのかも知らん。

だとしたらアーサーの苦労は凄まじいな……。


「で、そろそろ本題に入ってもらおうか。

まさかただ散歩に来ただけではあるまい?」

「勿論。アーサー王が公式の場での会談を望んでいる。

場所はそっちで決めて良い」

「断る……と言いたいが、アーサーの愚痴の一つも聞こう。

苦労のある身同士な。それとそれは正式な申し込みなのだろうな?」

「ここにアーサーからの手紙がある」


 差し出されたそれにイシズエが触れようとしたが、

俺はそれより先に手にした。

上質な紙にエムリスが言っていたより丁寧な会談の申し入れが

書かれている。


「紙と筆を」

「はっ」


 俺はテーブルに着いて了承した旨と、

一月後の初めの週にホクリョウにて行いたい事を書いた。

そして判を押して手渡す。更に目の前でエムリスから

渡された紙を燃やした。


「次にこんな小細工をしてきたら、問答無用でその首を撥ねる」

「おー怖い」


 ハッタリなのかどうなのか。今は判断し辛いが、

何かはあるのだろう。最もそれが分った時にこいつの首が

付いているかは知らんが。


「さっさと帰ってアーサーに伝えるが良い」

「勿論そうさせてもらうよ。君のところの間抜けな二人の件は

出来れば黙っておいてあげる。アーサーにもそうするよう頼まれたし」


 俺は噴出しそうなのをぐっと堪えて頷いただけだった。

態々札を見せびらかしに来たとは。カイヨウの一般人を

見てみたい気になってきた。レンにしろエムリスにしろ

楽しすぎる他所から見れば。


「では気をつけて帰るが良い。手紙を落とさないようにな?」

「……お父さんかっ」


 悪態を吐いて去って行った。

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