尾を引き続ける失策
砦の中は街の建物と比べて明らかに華美であり、
元々領主であったと言う事以外で
モンテクリス卿に付き従う理由は無かったと言うのを
察する事が出来た。
こちらとしてはそれは有難い。
次の領主は質素倹約で質実剛健な者を配置すれば、
そう面倒は起こらないだろうし、
上手くすればモンテクリス卿の事は忘れ去ってしまう。
そういう意味でセンリュウとヤマナワは
適材適所だったはずなんだが……。
「ヨウト、説明してくれ」
「はっ」
ヨウトは自信満々に俺に計画を話した。
簡単に言えば埋伏の毒。正直唖然とするより他無い。
確かに埋伏の毒は有効だが、相手にもよる。
「ヨウトやセンリュウ、ヤマナワは
相手の王を知っているのか?
よく調べたか?」
「はい、この街にいるカイヨウの兵士や、
レン将軍と話し聞き出したので、
その人柄を恐らくハンゾウ殿
たちよりは知っているかと」
一番当てにならない情報源から推察したのか……。
そういう意味ではアーサーの策は一つ上手くいっている。
俺にセイヨウを取らせたのは餞別というか駄賃に過ぎない。
変わりに俺のスカウトした将を取られた。
これは思いの他高くついた……。
今アーサーがセイヨウを取ったところで意味はない。
清貧を旨としているが、正直備えはギリギリ。
補給を維持し防衛して旨みのある事は無い。
寧ろ攻める事が出来るぞ、という姿勢を見せ実行した。
それは俺の国に対して牽制の意味もあるし、
俺以外の将には十分効果がある。攻めの手を迷わせる。
更に有用な将を軍師と共に使える。
俺の国を攻めなくとも他の国を攻められる。
「分かった。取りあえずヨウトは街で混乱が起こらないよう、
カムイたちと共に見ていてくれ。ご苦労だった」
俺は笑顔でそう言ってヨウトはそれに高揚して退室した。
「扉を閉めよ」
カトルとトロワが扉を閉める。
俺は溜息を一つ吐いた。
「陛下……」
「シンラ、俺の言いたい事が分かるか?」
「はい……後手後手後手の上に更に上を行かれました」
「そういう事だ。こちらの作戦が漏れる。
相手はその上を行くか、こちらが責めたのに呼応して
漁夫の利を狙える……。まさかこれほど尾を
引く事になろうとは……」
俺は右手で顔を覆って天を仰ぐ。
アーサーは流石王の先輩だ。
そしてアーサーも俺を見抜いていたという事か。
アイゼンリウトでも俺が旗手ではあったが、
姫やアリス、リードルシュさんやファニーに任せていた
といっては変だが、皆が上手く動いて導いてくれた。
流れに任せすぎて修正できなかった。
決断の甘さを突かれた。
「では今から」
「いいやもう遅い。兵士たちも含めて取り戻すにはな。
あの二人もそのつもりでいるから下手をすれば
兵士を減らした上に、アーサーと一騎打ちになる。
そうなれば勝った所でその後の建て直しに
どれだけ時間が掛かる事か……。
更に我が国には使者を残したままだ。
後手後手後手の上を行かれたという表現は的確だ。
全てしてやられた」
俺は砂をかむという思いを初めてしている。
まんまと全て嵌められた。下に任せるあまり、
アーサーの影を感じていたにも拘らず
迅速に対処しなかった。
「参った。お手上げだ」
「陛下、どうか気を落とさず」
「落とさず居られようか。大事な将を失ったのだ」
「失ったと考えるには早計では」
「相手にはバレている。そこを突いても来よう。
俺が王ならそうする」
お互い正義の味方ではないのだから……。
「ヨウトの処分は如何致しますか?」
「本国へ返して戦略に携わらせよう。
本人の望みでもあるし」
「宜しいのですか?」
「宜しいも何も無い。
ここに置いておけば更なる被害を及ぼす。
カイヨウの為の布石を残すようなもの。
またノウセスも駄目だ。そういう意味では
また人選に時間を取られる」
「確かに。陛下がそうお考えでしたら、
私からは特に」
「それに恐らくアーサーはもう一手打ってくるはずだ。
セイヨウには暫く手を出してこないだろう。
ここはアインスとツヴァイに一時統治を任せ、
素早く帰国し対策をせねば」
「ただちに」
「カトルとトロワは本国に俺と共に戻ってくれ。
軍の練兵などを見てもらいたい」
「はい。オンルリオ殿は」
「まだ分からん。俺としてはチャンスは与えたい。
が、思い直して真に反省してもらわねば」
「心得ました」
「ではここでの仕事を手早く済ませて本国へ帰還する。
スケジュールはシンラカトルトロワで組んでくれ」
「はっ!」
シンラとカトル、トロワは部屋を出て行く。
「陛下」
「ハンゾウはどう思う?」
「はい。私が見た限り、実戦経験の無さが如実に出た
その結果かと思われます」
「だろうな。ヨウトは己の策に自信があり、
センリュウは相手の懐に入る自信があり、
ヤマナワは二人の結果を見て従えば大丈夫という
自信があった」
「独断専行作戦無視。本来であれば
打ち首でありましょうが……」
「そういうことだ。セイヨウを無血開城させたという
結果だけ見れば成功なのだ。それで処分しては
俺への不信が広がるだけで何の意味も無い」
「一応我が配下を潜らせておきましょう」
「頼む」
若さが出た驕りが出た裕福であるが故の隙が出た。
俺の国は有利である事は間違いないが、
それ故に必死さに欠ける部分があるのだろう。
持つもの以上がある故にどこかしら
相手を上から見てしまっている気がする。
もう一度引き締めないと……。
フリッグさんとウルシカのフロストのまだ見ぬ新たな主。
イシズエが穴熊を決めたくなる気持ちが分かる。
が、それを断罪した俺にそれは無い。
どうやってもこのまま行けば巨人族は死滅する。
それをフリッグさんは狙っており、
アーサーはそこを突いて俺との決戦を、
もう一人は恐らく神輿の上。




