セイヨウ陥落
ツキゲと共にのんびりとセイヨウまでの
道を進んでいく。伝令が其々の隊を行き来して、
同じタイミングでセイヨウの周りに出現し
包囲するようだ。まぁ地平線を埋め尽くす
兵士の数というのはインパクトがある。
相手に遠くから圧を加えられる。
「カムイに良い案だと伝えてくれ。
各部隊も乱れぬようにとも」
使者にそう告げる。
ばらばら現れるよりは、なるべく同時に
乱れずに現れる方がよりインパクトがある。
それだけ多くの人間の統率が取れているという、
相手に長く与える心理的ダメージも大きい。
暫くするとセイヨウの街が見えてきた。
ほぼうちの軍の兵士が占めているの門兵たち。
慌てるように中へ行く。その間に俺たちは
ゆっくりとセイヨウを包囲していく。
更に時間が経った。すると少数の部隊が
俺たちに向かって武器を片手に突っ込んできた。
「射れ」
俺は手を上げて降ろすと、弓兵たちが一斉に
その部隊へ向けて矢を放つ。矢を最初は払って
進んでいたが、率いている隊長らしき者の
頭を射抜いた者が居て、そこから一気に崩れた。
後ろを振り返ると得意げな顔のロンゴニスが
居る。勿論その弓は次の獲物を狙っていた。
俺は握り拳を高く上げる。その後矢は精度を増し、
ついには部隊は消滅した。
悠々とセイヨウを絞り上げていく。
鶴翼の陣のように、セイヨウを左右から
包み込むように閉じる。
「セイヨウの民よ、我が名はコウ王也!」
じりじりと距離を詰めて、門との距離が
五十メートル位になった所で俺は声を張る。
「我はセイヨウの民を害する気は一切無い!
だが我が軍に反旗を翻したものを生かしては置けぬ!
セイヨウの民よ! どちらに付くか考えて欲しい!
セイヨウの民が我に付くというのなら、
今までと変わらぬ待遇を約束する!」
俺が言い終わると、兵士たちが俺の言葉を
全員で復唱した。七百人の大合唱はうねりとなり、
更に足踏みが地響きとなってセイヨウを揺さぶる。
時間にしておよそ三十分ほどそれを繰り返した後、
俺は手を上げて止める。戦をするよりは良いが、
それでも体力を消耗する。この後何があるか分からない。
万が一に備えて休憩をセイヨウからは見え辛いように、
交互に取らせた。シンラとカムイが足りない部分を、
俺が気付いて補うくらいで良い。
「陛下」
シンラとカムイが俺のところに来る。
俺が単騎で最初動いた事に驚いていたものの、
当初の計画からズレなくいけそうな事に
胸を撫で下ろしていた。
「悪いな、どうしても外せない用事があったのでな」
「いえ陛下の軍、陛下の国です。お気になさらず」
「ちゃんと手柄も横取りする事はしてないぞ?
休憩は軍を指揮するものとして出しただけだ。
作戦に影響するほどのものではあるまい?」
「はい。我々はそこが行き届きませんで」
「忘れがちだが我々は人間だ。策の通りに
全ては完璧に動けず、
また気の波に乗っているときは、初歩的な事を
忘れがちだ。それで押し切れるのは格下相手のみ。
もっともそれでも今回の前段階のように
失敗する事もある。日々勉強だな」
「はっ」
「陛下」
ロンゴニスの声に俺は視線を向ける。
ロンゴニスの視線の先を見ると、門から
民衆が出てきた。身構える皆の波を掻き分けて
俺は彼らの前に出る。
リクトとシンラ、カムイが俺を囲んだ。
「コウ王様」
「決心してくれたか」
「はい。我ら住民は話し合いまして、
コウ王様に従う事に決めました。つきましては」
「みなまで言わなくても良い。皆が変わりなく
忠誠を示し尽くしてくれれば、我も皆に答える事を
誓おう」
「有難き幸せ。今回の首謀者ですが」
「モンテクリス卿か。彼とその一族はどうした?」
「先ほど街を出ました。如何なさいますか?」
「逃げた先に心当たりはあるかな?」
「恐らくカイヨウかと。カイヨウの兵士達と共に、
センリュウやヤマナワも引き上げました故」
それを聞いて俺は驚きを隠さなかった。
信じられない。まさかモンテクリスについていくなど。
「貴公ら……よもや奴らが逃げるまでの時間を稼いでいたのでは
あるまいな!」
「め、滅相も御座いませぬ! 我らは陛下に反旗を翻す気も無く、
それどころか訳も分からぬまま今に至りまして……」
「ならば何故もっと早く出てこぬのだ!
そうであればむざむざ逃がしはしなかったものを!」
「よせリクト」
「しかし陛下……」
「そのような事で皆の責は問わぬから安心してくれ。
それより街に入っても良いかな? 中の皆を安心させねば」
「はい! 有難う御座います!」
住人たちは俺が通る道を開けた。
中に入ろうとしたところで、アインスとツヴァイが
俺の両脇にぴったり付く。
「部隊は良いのか?」
「はい、部隊長と他の親衛隊に任せてあります」
「何より陛下のお命を御守りするのが本来の使命でありますが故」
俺は二人とシンラ、カムイ、リクトを連れて
セイヨウの街へと入る。街の皆は不安そうな顔をしながら、
俺が通るのをじっと見ていた。その前に間隔を空けて
この街にいた元々俺の兵士だった者たちが警護している。
「陛下、お待たせいたしました」
中央の砦前でカトルとトロワ、そしてハンゾウが
待ち構えていた。
「事情を説明してくれるだろうな?」
「はい」
「宜しい。ならば先にこの街の蔵を開放し、
領民たちと兵士で分けて空にしてしまおう。
兵糧はそのまま空けた蔵に収めて手をつけないように。
皆には警戒しつつ交代交代で休憩を取るように。
領民たちにもゆっくり休むよう手配してくれ」
「アインスとツヴァイが承りました」
「私も差配いたします」
「分かった。アインスとツヴァイ、それにカムイ
頼むぞ」
三人が去っていくのを見送り、
俺たちは砦の中に入る。




