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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
無職のおっさん戦国記

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アーサーの懺悔

 久し振りに相対したアーサーは、

何処か重さと凄みを感じる。


「王様はやらないんじゃなかったのか?」


 俺の問いにアーサーは寂しそうに笑った。


「仕方あるまい。いつも虐げられるのは弱者だ」

「確かにな。だがアンタは一度強者として猛威を

振るっただろう弱者に。どの面下げて言ってんだ」

「それに関しては何の反論も謝罪も無い。

お前はそれを救った英雄であり、今もこの地を

救い続けている。それで良い」

「おいおい神様にでもなったつもりか」

「いいや違う。俺は元々強者が恨めしかった。

俺の書いた作品は最高だと疑わなかった。

俺より売れている奴は不正をして売れていると、

互いに互いを持ち上げ世間に流布し、

出版し作家として裕福な暮らしが出来ているんだと。

死して浮かばれる作家など何の意味も無い。

生きている間でなければその評価を本人が

得る事はない。評価を得られない作品など無いも

等しい。その状態のまま死んで、後の世に認められた所で

一体何の意味があるというのか。

作家本人は評価しない者たちを恨み呪い死んでいった

というのに……」


 それに関しては言葉も無い。

死んでから評価されたなんてのは、

作った本人が知りようも無く、恩恵も無い。

綺麗事で腹は膨れなかっただろうし、

綺麗な身なり、マシな家もなかった。

後の世に認められた所で、それで得をするのは

作家本人を美化し、それで金が入る人間だけだ。

その作家には何の意味も無い。だけど……。


「……つまらん話をしたな。

要するに俺はそういう事から逃れられない。

俺は俺のまま、この世界の全ての者を恨み呪い憎む。

だがその前にお前との決着をつける。

その為に俺は王になった。国の者を利用し

お前の周りの者を排除しお前と一対一になる為に。

お前は正々堂々、悪の王を倒すが良い」


 ……とか言ってる顔が全く悪の王ではないのだが。

恨み呪い憎んでいる奴の顔じゃないんだよなぁ……。


「そうかい。まぁ俺も俺でやることがあるから、

むざむざやられたりはしないんで、アンタとは

片を付ける。だけどなぁ」

「なんだ」

「なるべく早く倒すよう頑張るよ。

何せ読者も馬鹿じゃない。売れるには売れるだけの

理由はあるし、皆の目に触れることで、

初めて作品があることに気付かれる。

何せ目に入らなければ、読んでもらえなければ

存在すらしないのだから。それを読者や編集者に

課するのは酷だろう?」

「やはり貴様とは相容れぬ」

「そうかな。俺はアンタはもう答えを得たんだと

今思ったよ」

「どういう事だ」

「アンタはアイゼンリウト建国から俺に敗れるまで

の物語を書きながら演じ、満足したんだ。

評価されないとしても、書ききった事に

作家として満足したんだ、って」

「何故そう言い切れる」

「全力で殺しあった俺が言うんだ、間違いない。

顔が全く違う。得るもの得たりってな顔をしている。

今のアンタならその身に受ける評価も違うだろうし」

「評価など今更どうでも良い」

「余計怖いな。じゃあな」


 俺はお互いに宣戦布告は済んだと判断し、

もと来た道を戻る。


「おい」

「なんだ」

「貴様にも同じ事を言っておいてやる。

お前に付いて来ている者たちも馬鹿ではない。

どれだけカリスマがあろうと後光がさそうと、

そこに意味は無い。誰であるか、が、

どんな者か知っているかが重要なのだ」

「ご忠告どうも。次は戦場で会う」

「無論」


 そうして俺たちは別れた。

最初一騎打ちでもするのかと思ったが、

あった瞬間違う事は分かった。

懺悔を聞かされている気分だった。

俺は神父でも神様でもないんだがなぁ。


 街に戻り、道端にあったベンチに

腰掛ける。以前居た世界では

何処にでも少し歩けばコンビニや喫茶店などの

飲食店があった。だがこの大地は特に違う。

目に入るのは貧困。最早ギリギリのところまで

来ている状態だ。俺の国で大地再生が

急ピッチで進んでいるが、大地全体で見れば

進みは牛歩に等しい気がしている。

気付いていても、個人の欲や意地が邪魔をする。

それが国となって立ち塞がっている。

 だが急ぎすぎて失敗する訳には行かない。

焦ればかえって犠牲が増える。

大地もそうだが、人も簡単には増えない。

出産も危険を伴うもので、

必ず出産できるわけでもなく、また育つものでもない。

一歩ずつ確実に大地を甦らせ人を育てていくしかない。

 恐らくアーサーは日が経てば経つほど脅威になる。

カイヨウはノウセスのように清貧を胸としている。

悟りを開いたようなアーサーと相まって、

精強な軍になるに違いない。狡猾だっただけの

アーサーならあんな使者は送ってこないだろう。

人材として選びもしないはずだ。


「まったく厄介な事ばかり……っと」


 俺は空を見上げながらベンチから立ち上がる。

それから急ぎたい気持ちを必死に抑えつつ、

俺はハンゾウたちに全てを委ねて影武者と

交代する旨を伝え街から去る事にした。

センリュウとヤマナワの顔も見れたし、

このまま滞在してはかえって邪魔になると

判断したから、迷う事無くツキゲと共に引き返した。


「陛下、お早いお帰りでしたね」


 俺は本来一番最後に到着する、迂回しないルートなので

あっさりと合流した。


「リクト、ご苦労様」

「いえ、陛下のご指示通りに致しましたので、

何事も無く」

「この後はこのまま俺に付いてセイヨウまで来ると良い」

「宜しいのですか?」

「構わない。といっても護衛として控えてもらうから、

散歩のようには行かんが」

「望むところです」


 俺は隊にそのまま加わり進軍する。

皆目を丸くし狐につままれたような顔をしつつ、

そのままセイヨウへと向かった。

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