策と出立と
「ではどうなさるので?」
「シンラ、カムイ。このまま俺が喋っても良いか?」
俺がそういうと、シンラとカムイは
立ち上がり首を横に振る。
「僭越ながら献策を致したく」
「同じくお願い致します」
「ならカムイから申してみよ」
「はっ!」
カムイの策はその格好に見るように
実に堅実且つ確実に勝つ方法だった。
使者を人質として軍の半分を連れて
セイヨウを包囲。交渉している間に
ハンゾウたちの部隊に潜入させ、
要人を解放し一気に攻め落とす。
外に居るであろう部隊や、カイヨウの援軍は
ハンゾウたちや親衛隊の部隊に妨害させて
時間を稼ぐという策。
「シンラはどうか」
「はっ」
シンラの策もその格好に見るように
中々面白い策だった。
使者を放置しのらりくらりと時間を稼ぎ、
その間にセイヨウに攻め込む。
しかもその際には細かく何部隊にも分ける。
俺は視察にいく振りをして迂回してセイヨウへ。
勧告無しで一気にセイヨウに攻め入る。
その際に解放部隊を先行して走らせ人質を奪還
というものだ。
「うーん。間かな」
「間、でございますか?」
「そうだ。使者を人質にするのは、奴らと
同列になるから今回は避けたい。
それと攻め込んだ後解放部隊を走らせたのでは
人質が危ない。更にプラスするなら、
市民に被害は最小限に留めたい。
その為に人質の解放優先で内部から火の手を揚げ、
セイヨウの街自体を無力化したい。
なので軍に関しては援軍や外部部隊の処理に充てたい」
「分かりました。今回は私とカムイも同行させて
頂けますか?」
「ああ勿論。それぞれ親衛隊の一部隊に別々に配置する。
其々状況を見て兵を動かしてくれ。連携を怠らないよう、
また勝手に動かぬようきつく申し付けておく。
親衛隊も目を光らせるようにな」
「はっ!」
「では準備に掛かろう。あの使者二人には
ナルヴィとイシズエでうまーくやってくれ。
出来るだけ早く済ますから頼むぞ?」
「心得ました」
「お任せを」
「では解散。手早く出陣するぞ」
王の間から皆が出て行く。
暫くして扉は閉まり一人きりになる。
「ハンゾウ」
「はっ」
「影武者って用意できる?」
「影……身代わりと言う事でしょうか」
「あー、えーと俺と背格好が似てる者を
用意して欲しい。今回適当な理由をつけて
顔が隠れる鎧兜を身に着ける」
「心得ました」
「で、それを用意して指示を出したら
俺とハンゾウ、後数名で即セイヨウへ向けて
出陣するぞ」
「陛下」
「心配するな、手柄を取るわけではないし、
俺の身は俺が守る。それに適当な時に
影武者と入れ替わる。親衛隊にも出る時に
こそっと伝えるから」
「しかし……」
「何より気になる事もあるし。
ああでも誰かしくじっても助けてやれないから
それは忘れないように」
「止めて頂くのは無理そうですな」
「今回ばかりはな。別に武を誇りたいわけではないが、
失敗すれば恐れていたように穴熊を決め込む方へ
皆流れてしまう。そうなっては元の木阿弥だ。
大地の再生など俺の代で進むはずは無い。
それに相手の王たちは、どれだけ生きるか
分からん奴ら。悠長にしていればジリ貧は免れない」
「今回だけですぞ?」
「勿論」
俺は真面目に頷き、ハンゾウも諦めたのか
溜息を一つ吐くと準備に取り掛かる。
勿論俺が見えないように舌を出したのは言うまでもない。
実戦経験が無い。俺たちの中で言えばアーサーが一番ある。
次いでロキ、そしてナルヴィと俺かな。
フリッグさんは直接戦う事はないだろう。
そんな状況の中で今明らかに遅れを俺は取った。
簡単だと高を括っていた。最初からケチがついていたのを
何とかオンルリオとヨウトの経験になればと思い
押し切ってしまった。これについては終わった後に
俺も何がしかを皆に示そう。
小事にかまけて大事を見失ってはいけない。
戒めになった。
ハンゾウは手早く影武者を見つけてきてくれた。
里の者で年少者ではあるが、とても真面目に働くと
評判の子らしい。
「名は何と言う」
「リクトと申します陛下」
「そうか。リクトすまんが少しの間俺を演じてくれ」
「はい。頭領様より内容は伝え聞いております。
作戦に支障のある内容に関しては任せる、と
答えて宜しいですか?」
「ああ構わない。シンラカムイに任せる、と
答えてくれて構わない。俺は具合が悪いとか
適当な理由を言っておく」
「心得ました。必ずや陛下のお役に立って見せまする」
「頼むぞリクト」
何と言うか、俺は元々引き篭もりのいい年した
おっさんである。伝説の剣と同じような相棒に
憧れを抱くなら分かるが、俺に憧れてもなぁと
思ってしまう。リクトの目が眩しい事眩しい事。
俺は偉そうに指示したり決断したりはしているが、
基本は一人ひとりの努力の賜物で今日がある。
が、見る人が見れば俺一人の功績にも見れるわけか。
難しいもんだなぁ。出来れば放り投げて
俺は日々散歩三昧昼寝三昧になった方が、
世は須くことうげもなし、って感じはするけどな。
「さて参ろうか」
暫くして準備が整い、影武者に指示し
軍は親衛隊七部隊に百ずつ、アインスにシンラ、
ツヴァイにカムイを付けて指揮を任せる。
俺こと影武者は最後に出立する。
各自散開して出陣し最終的にセイヨウに着く。
そこからハンゾウの合図を待って攻め込む手筈だ。
俺は愛馬のツキゲを駆りハンゾウたちと
いち早くセイヨウへ向かう。ツキゲは優秀な馬だ。
それ故に自分が認めない相手は絶対に乗せない。
影武者を乗せようとしたが、俺から離れず
他の似た馬で代用した。
「陛下、早すぎまする。他が」
「ああすまんすまん」
俺はツキゲの首をさすって速度を落とさせる。
置いていかれなかった事に機嫌を良くしたのか、
えらい速さで飛ばしている。ほぼ俺一人独走状態である。




