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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
無職のおっさん戦国記

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反旗からの逃走

 俺は取りあえず綺麗な着物を脱いで、

いつも通りの軽装になると、

頭に三角巾を付けて前掛けをつけ

裏手に回した食料を使ってここの厨房で調理した。

そして俺が手ずから皆に料理を振舞った。

 その姿に驚いたのか、最初誰も手に取らなかった。

毒でも入っているのかと思ってるのか。

俺は自分でスープに口をつけ、そのまま

らーめんをすすり皆に笑顔を振りまいていると、

恐る恐る近付いてきた。

 一人が手に取り美味しいと言うと、

次から次に手に取り忙しくなった。

うちの兵士たちにも渡しおかわりにも来て

忙しくなった。


「陛下、兵士たちにも仕事をあげませんと」


 後ろからガンレッドの声が聞こえたので

振り返る。


「……これはこれは……」


 そこには左側に花をあしらったかんざしを、

そして濃い赤を基調とし花をちりばめた艶やかな

柄の着物を着たガンレッドがいた。

いつも履いているスラックスではなく、

丈の長いスカートを履いていて、俺はつい目を丸く

してしまった。


「陛下、ガンレッドと共にモンテクリス卿のところへ。

あまり主賓が出張っては」


 イシズエも俺のところへ来て役割を交代した。

それに気付いたセイヨウの領民は歓声を挙げる。

俺は手を上げて答えると、そのままモンテクリス卿の

ところへガンレッドと共に移動する。

モンテクリス卿たちが座す砦は町の中央にある。

そこへいくまでの坂道をあがった所に

モンテクリス卿を始め、センリュウとヤマナワも

居た。


「待たせたかな」

「いえ。陛下の行動は徹頭徹尾隙が無いですな」

「悪いがやる事が多くてね。ここで死ぬ訳にはいかないんだ」

「……」


 その言葉に一人血の気が引いていく者が居る。


「いつ気付かれたのです?」

「いや、何も?」


 俺は食料が少ない事もあったが、食べ物に毒が入っていても困る。

そういう意味で死ぬ訳には行かないから自分で料理して、

皆に配ってってやっただけだが。


「出でよ!」


 その声に坂のあちこちから兵士が沸いてきた。

なるほど。地形を生かして相手を倒すなら、

ここが一番適当か。


「俺を倒してどうする? まさか俺を倒したところで

俺の国をどうこう出来るなどと思ってるわけじゃないだろうな」

「無論。だがその間に味方を引き入れれば問題ない」

「それはここの皆も承知の事か」

「当然!」

「ガンレッド、悪いな」


 俺は有無を言わせずガンレッドを抱かかえると、

そのまま屋根の上に飛び上がる。


「逃がすな!」

「逃げるさ」


 俺はそのままさっき居たところまで戻る。


「反乱だ! 俺の兵士たちは急いでここを出ろ!」


 俺は兵士たちのど真ん中で声を上げる。

そして直ぐにこの街の入り口まで飛びながら移動した。


「ガンレッドしっかり摑まっていろ」

「はい」


 緊張しているのか、冷静な顔にしては心音が早い。

それに顔が赤い。


「折角着飾ってくれたのにな……。悪い事をした」

「い、いえ!」


 俺は謝罪しつつ入り口の近くの塀の矢倉に飛び上がる。


「お前たちは俺の敵か味方か?」

「い、いえ私たちは!」

「門を開けろ」


 俺がガンレッドを抱えながら黒隕剣を引き抜くと、

それを門兵に突きつけた。驚き頷くと門は開く。

そして中央から門へ引いてくる兵士たち。

元々オンルリオに出していた兵士たちが、

俺が選抜した兵士を追撃している。

殿をしているのはイシズエだ。

俺は直ぐに黒刻剣(ダークルーンソード)を引き抜くと、

それを弓兵に向かって放り投げる。


「陛下! ここは私が!」

「要らん! さっさと下がって外に出て兵を纏めてくれ!」

「ですが!」

「良い! ガンレッド、すまんが最後まで付き合ってくれ」

「死の底までお供します」


 俺はその言葉に頷くと、ガンレッドをおんぶする体勢に変え、

両手を自由にして相棒二振りを操る。

弓兵や騎馬兵を中心に落としていく。

有難い事に相手も大して纏まっていない。

俺を狙うのかと思いきや、兵士も追撃しており、

中には止まる者も居る。


「俺の兵士たちよ! 急ぎ外へ出て一人でも多く国に帰還せよ!

この借りは百倍にして返す! この世の地獄を見せてくれる!」


 そう叫ぶと、中には追撃を止めて俺の兵士たちと共に

外に出るものも増えた。


「陛下、語気と違って顔はあまり怒っていらっしゃらないのですね」

「勿論。生憎とここは塀の上だし最後まで門は開きっぱ。

恐らく俺を倒す為に他から兵が到着するまであと少しあるだろう。

それに俺とガンレッドなら逃げられる。

反乱が絶対にない事はないし、それに対して相手の理由など

俺が知る必要は無い。だから今は帰る事だけを考えている。

恐らく相手にはこの反乱を知らなかった兵士も居るだろうし、

知っていても参加せざるを得なかった者も居るだろう。

一人でも多く兵士を無事につれて帰りたいから冷静だ」

「興奮はしておられるのですね」

「ああ、戦だからな。それに美しいものを見たのに

害された。本来なら怒りのみだけどな」


 俺はガンレッドと喋りつつ迎撃する。

さっき剣を突きつけた門兵は俺に味方するようで、

矢を追ってくる兵に放っていた。


「そろそろか。おい」

「は、はい」


 良く見れば見た事のある顔だ。


「サワドベの部下だな。適材適所というわけだ」

「あ、え」

「国へ帰る気があるなら先に下りろ。俺はここから飛んでいける」


 そう聞いた後、急いで塀を降りた。


「陛下! そろそろ退却を!」

「分かった! ガンレッド、失礼」


 俺は相棒二振りを放り投げると、

ガンレッドを前に抱えて塀の外に飛び降りた。

追撃の矢は相棒たちが叩き落してくれた。


「陛下!」

「イシズエ、見事な殿だった。

ツキゲ!」


 俺は以前単騎で敵を倒したときに乗っていた

馬の名を呼ぶ。嘶く声の方向を見ると、

誰かに手綱を摑まれていたが暴れて自由にさせると、

俺の元に来た。それに飛び乗ると、一目散に走り出す。

この馬ホント賢い。


「ガンレッド、強行になるが相乗りで我慢してくれよ!」


 そう声を掛けつつ相棒を放ちながら駆け抜ける。

背後にはイシズエたちが走ってきた。


「陛下! 先頭に立たれては危のうございます!」

「良いから兵士たちに警戒するように言え!

まだ油断できない!」

「はっ!」


 イシズエは下がると兵士たちに指示を出す。

本領発揮と言った所か。


「陛下、嬉しそうですね」


 反乱はあったものの、イシズエは本当によく動いた。

急場にこれだけ動ければ大したものだ。

相手に組して倒すなら絶好の機会ではあるが、

それは人望と能力があってこそだ。

今のイシズエはそういう役割をしていない。

なので知らずにこの急場を凌いで兵を纏めている。

こんなに嬉しい事も無い。出来ればオンルリオに

この役目をして欲しいと思うが。


「失うものは多いが、イシズエの優秀さは分かったし

何より美人を抱えて逃げている。引き篭もりのおっさんとしては

これなんて漫画って状態だ」


 そう言って俺は笑った。

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