表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
無職のおっさん戦国記

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

390/570

野に咲く花良く見れば高い花

「ではどう致しますか?」

「……ほら、そこで何か話したそうに

こちらを見ている者が居る」


 俺が視線を向けた先に、

人の良さそうな顔をした

巨人族の青年が居た。

体つきも背丈もその短い髪型も、

典型的な巨人族の定番の格好をしている。

だが中身は違っていた。

鎧などを着ても筋肉を見せたがる

巨人族が多い中で、

鎧は着ないが肌は見せず。

また武器も持っては居ない。

彼に気付いたのはこれまた最近だ。

 人の出入りが激しい中、

彼は大通りから少し外れた場所で、

とても売れそうにないものを

売る気もなさそうにただ微笑んで座っていた。

俺は最初遠巻きに見ていただけだったが、

一日経ち二日経ち、三日経ちと

日だけが過ぎていった。

物は一向に売れない。

だが彼は腹を空かせている様子もなければ、

諦めたり別の職を探そうとしている気配も無い。

俺は置物と間違えたのかと思い、

更に他の用もあって暫く見なかった。

 少し空いて再び見に行ってみると、

売るものが多く売れそうなものに代わり、

ざるには紙幣が貯まっていた。

 そう彼は物を売っていたわけではない。

この人が入れ替わりながらも、

元々居た住人が強く根を張る土地に

新参者としての自分を売り込んでいたのだ。

俺に決して目をつけられるような場所ではない所で。


「陛下がお困りの頃かと思いまして」

「抜け目無いなセンリュウ。

是非意見を貰いたい」

「陛下の御眼鏡に適うかどうか」

「腹は違うと見たぞ?」


 俺がそう言うと、にっこりと笑った。

そしてセンリュウから語られた策は、

シンラとカムイの時を止める。


「そうだな。それが妥当だろう。

この国では年を重ねた人に対して、

ちゃんと敬意を払う点は美徳の一つだ。

まぁ俺程度離れたのはいまいちなのかも知らんが」

「人にもよりましょう。

しかしこれならば、誰も傷付きますまい。

私のような商売ベタなものにも、

オンルリオ隊の内外の声は暗いと聞こえます故」

「で、センリュウ。直ぐにいけるのか?」

「御意でございます。お許しいただければ、

不肖私めがその役目果たさせて頂きたいと

考えております」

「へぇ……ついに重い腰を上げる気になったか?」

「言い出しっぺの法則でございます」

「分かった。じゃあ早速頼む。他に誰を連れて行く?」

「サワドベ殿の弟殿をお借りしたく。それと誰か

隠密の方の部下をお一人我々に付けて下さいませ」

「分かった。ヨウトとよく計って進めてくれ」

「御意。しからば失礼致します」


 そういうと、センリュウは腰を低くしながら

部屋を出て行った。


「……あの者は大丈夫なのですか?」

「正直実戦の経験があるものは少ない。

だからこそ劣勢でも慌てない騒がない事が、

重要だと思う。俺がサワドベを門兵長に

したのも、回りを統率する事の能力が

高い事だけでなく、好かれている事

そしてぶれずに人にも職にも法にも誠実

だった。

センリュウもそこを見てサワドベではなく

弟を代打として起用したのだろうな」

「弟は模倣品ではありますまい?」

「勿論。聞いた事もないだろう?」

「はい。耳にした事はございません。

台帳を見た限り弟がいる事は存じておりますが」

「それを抑えているだけでも流石だな。

あれの弟は実に面白い。

サワドベも兵にならなければ、

ああなっていたかもしれない」


 俺はつい思い出して笑ってしまう。

サワドベの弟ヤマナワは、体が大きく

また鍛え込んだ体をして厳つい顔をしている。

が、性格は穏やかで動物を好み、

兵士の仕事より大地の再生などに精を出していた。

俺が彼をその仕事に専従させなかったのは、

彼が将軍になったとしたら、それはそれで

面白そうだなぁと思ったからだ。

 彼はその体に似合わず、穏やかで怒る事もない。

無口だが人の話を良く聞き覚えている。

戦う事は嫌いだが、自分の領域に汚い足で

入ってくるなら容赦はしない。

人は嫌いだが、だからこそその人をじっと見て

観察し自分の安全と家族の安全を推し量る。


「そのような人物なのですか」

「ああ。実に面白いよヤマナワは」

「……陛下は知らぬ人は居られないのかと

偶に思いますよ」

「知ってる人しか知らないが。

何しろ少し前まで無職引き篭もりだから能が無い。

故に人が必要なんだ。

生きていく為に……そしてやり遂げる為に。

大概俺より皆優秀で働き者だから

そう困る事もないが」

「陛下はやり遂げた後どうなさるおつもりで?」

「当然引き篭もる。自給自足が出来るような

システムを構築して穴熊を決め込む!

おらワグワグすっぞ」


 二人は俺が眼を輝かせて両拳を握り立ち上がると、

少し笑っただけで終わった。一笑に付された……。

最近皆の前で大真面目にそれについて話した事が

あるが、何やら俺のハイセンスギャグだと思っている

らしく、こんな反応である。ミノさん元気にしてっかなぁ。

一応見積もり作れって脅したのに返事が無い。

俺の引き篭もり王国を建設する為にさっさと連絡をして欲しい。

土地だって選ばなきゃならんのに。


「まぁご冗談はさておき、我らも人選を怠らぬよう

日々眼を光らせねばな、シンラ」

「そうだなカムイ。まぁ俺は俺の得意分野で

陛下が見つけるより早く、良い人物を推挙して見せるがね」

「言ったな。その言葉覚えておくぞ」

「おう覚えておけ。俺こそがコウ王麾下一の知恵者と

名を轟かせて見せようぞ!」

「汚名でなければ良いがな……」

「ぬかせ!」

「あ、あれぇ~? 君たち無視は良くないよ?

ぼかぁ真面目に穴熊を決め込む心算なんだ!」

「大体その格好は何だ女性のような身なりで」

「いやいやこれこそこの先流行の着物になるさ。

なんならシンラ式と言ってもいいぞ」

「相変わらずの誇り高きシンラ殿よな」

「誇りなくして陛下の臣が出来ようか!」

「おいちょまてゃ!」

「兎に角陛下、我々にも出番をくださいます様」

「そうです。幾ら放浪して来たとは言え、

実際に戦闘において我らの考えたことが

どうやって行われたか知る事が出来ません」

「然り。ヨウト殿やあまつさえセンリュウ殿とかいう

新たな方にまで先を越されては、

立つ瀬がありません!」

「聞いてんのかゃ!」

「その妙な口真似だかはどうでも宜しい!

我らのみに目を掛けて頂いていたので無いと分かれば、

我らも実績を上げねばなりますまい」

「明日はオンルリオか……」

「シンラ、余計な言葉を作るな。陛下が起用したのだぞ?

オンルリオ殿は」

「えぇ……そうっすけどね……

どうもすぃやせんした」

「そうと分かればこんなところで管巻いてる場合じゃない!

俺は俺の方法で人材を推挙する為出陣だ!」

「かこつけて飲み明かすのだろう?」

「カムイも来い! 今日は吟遊詩人が来ると言うぞ!」

「し、仕方ないなぁ」


 そうして俺の策の中身も聞かず、

お二人は城を出て行った。


「お疲れさんした。また来世紀」


 俺は一人ポツンと誰も居ない空間に向けて挨拶すると、

書類仕事に戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ