表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/570

それぞれの戦い2

城の入り口での戦いが形を見たその時、

レッサーデーモンと相対す、ダンディスとリードルシュ。

ダンディスの脳裏に浮かぶのは!?

「ふむン。中々手こずらせてくれマスねぇ」


 レッサーデーモンはそう言いつつも

余裕を見せている。


「それは結構なこって」


 ダンディスは壁に叩きつけられたが、

よろけながら離れる。


「馬鹿力だけが自慢ではな」


 リードルシュは仰向けに倒れながらそう毒を吐く。


「つまらナイ挑発デスねぇ。

もう少し知的な言葉選びはナイものデスか?」

「くたばれ」


 ダンディスがそう吐き捨てると、壁に穴が開く。

素早くダンディスはレッサーデーモンの

一撃をかいくぐり、リードルルシュの元へ行き


「旦那、体力を回復させてくれ。

暫く俺が持ちこたえる間に」


 と告げた。

リードルシュは直ぐには頷かなかったが、

頷くしか無く仕方なく頷いた。


「さぁ鬼さんこちらだ」

「オヤまぁ。お一人でこのワタクシに

立ち向かうのデスか?愚かな」

「やってみなけりゃ解るまい?」

「ソレもそうデスねぇ。思い知るとヨイでしょう」


 レッサーデーモンは巨体に

似合わぬ速度で距離を詰める。

ダンディスはリードルシュから離れ剣撃を加える。

そのこと如くを捌きつつ、

ダンディスを攻撃するレッサーデーモン。

しかしダンディスもそれをかわしながら、攻撃をする。

眼にも留まらぬ速さで攻撃が繰り返される。


「ホホぅ。中々ヤリますねぇ」

「まだまだ上がるぜ?」


 その言葉通りダンディスは攻撃速度を加速させる。

レッサーデーモンの体に切り傷が次々と加えられる。

それでもレッサーデーモンの顔色は変わらなかった。


「イイんデスけどねぇ。これは何時までモツものデスか?」


 レッサーデーモンは試すように、

息をも吐かせぬ攻撃を続ける。

ダンディスの攻撃速度は衰えない。

鋭く的確に急所を捉えようとしている。

切り傷から少しずつ傷が大きくなる。

レッサーデーモンは少々の切り傷なら

回復する事が出来る。

 だが今は昼間。

城の真上は晴天だった。

その回復効果は夜とは比べ物にならない。

室内で暗がりがあるにせよ、

回復を向上させるものにはならなかった。

 

「クっ!」


 一撃を胸に受け、大振りの一撃を

ダンディスに加えようとするが

距離を取られる。


「言うダケの事はあった訳デスねぇ。

良いでしょう。本気でお相手しましょう」

 また一気に距離を詰め、

ダンディスに素手での攻撃を加える。

それを下がりつつ捌き、攻撃を加えるダンディス。

ダンディスの脳裏に遠き日の戦場が蘇る。


 ダンディスがアイゼンリウトの

兵士になったのは、

退屈な故郷を出て直ぐだった。

前王が兵を募集していたので、

手っ取り早く稼ぐ為に入隊したのだ。

今代の王と違い、前王は領土拡大に

熱心で遠征に次ぐ遠征。

国庫は領土拡大に応じて潤っていく。

軍費も十分であり、前王の武力も

手伝い周辺諸国も怯えていた。

更に竜を奉じているとあって

わざわざ仕掛けてくる事も無い。

一度戦が起これば無傷ではいられない。

 軍は人を随時募集状態。

前王は徴兵には反対で、居なければ居ないで自らの身で突撃し

撃滅せしめるほどの人物。

軍人は増減を繰り返したが、人口に重大な問題を

起こすほどでは無かった。

 ダンディスのように稼ぐ為という民も多くいた事が

功を奏していたとも言う。

軍に入れば老いても尚前王の圧倒的なカリスマにより、

他国からの入隊者も一週間もすれば

王の忠臣に変わっていた。

かく言うダンディスもその一人である。


 前王と共に戦場を行く度も駆け抜けていたある日の事。

前王が突出していた所をダンディスがフォローした事で、

前王はダンディスを呼び、称賛し褒美を与えた。

――そなたは神狼のようだな。その疾風は我をも凌ごう――

そう言われた事をダンディスは一日として忘れた事は無い。

 この日からダンディスの二つ名となる。

戦場を赤き血に染め上げる狼。

味方からは畏敬の念を込めて呼ばれていた。

そしてそのあまりの強さと、種族の違いにより

段々と兵士の中でも孤立して行った。

 ダンディスが格上げされなかったのも、

軍を率いるより先陣を行かせた方が良いという

多数の意見によるものだった。

要するに味方としては有り難いが、

なるべく近寄りたくない

という理由で常に前線を駆け抜けた。

 

 幾度の戦場を駆け抜けても生き残るダンディスに

誰もがお門違いの感情を集中させた。

そんなダンディスが唯一心を許せたのが、

前王の側近だったアグニスと、

王家御用達の鍛冶屋だったリードルシュの人である。


 訪れた前王の死を期にダンディスは除隊願いを出した。

小隊長などは一応止めはしたものの、

前王や宰相となったアグニスに次ぐ実力者であり、

異種族の除隊に内心ではホッとしており、

あっさりと認められた。


 国に命を捧げてきたかと問われれば嘘になる。

最初は金銭の為、その後は前王の為。

片方は満たされ、片方な亡くなり。

ダンディスにとって虚しさだけが残っていた。

それ以来戦う事を止め、

隣国のエルツにて肉屋を開き、

冒険者の後押しをすべく、

なるべく高値で買い取りをしていた。

 そんな時に、一人の男が顔を出す。

懐かしい顔だった。

リードルシュも王に魅せられた一人だった。

同じような理由からあっさりと放逐され、

ぶらりと来た街で見知った顔が

居たから来てみたと言う。

ダンディスは得も言われぬ嬉しさで喜び、

二人で酒を交わした。


「もうお前は戦わないのか?」

「ああ、もう戦う理由もない。護るものも無い」

「そうだな。俺達は一人の王に魅せられていたのだからな」

「だよな」


 二人は寂しく笑い乾杯した。

王の冥福を祈って。


「ホウ……流石獣族。スタミナもパワーもスピードも

人とは比べモノにならないデスねぇ。何故人の味方ナド?」


 そう攻撃を交わし合いながら、レッサーデーモンは問う。

ダンディスは戦う理由を無くしていた。

それが今は全力で魔族と戦っている。

もしかすると前王と戦場を駆け抜けていた時よりも、

今の方が強いかもしれない。

相手が強い魔族であるからというのもあるが、

コウというどこか不思議な男に

魅せられたのかもしれないと思う。

 

 最初会った時は、ヘンテコな格好をした人間だった。

全く強そうには見えなかった。

リードルシュが認め、誰にも渡さなかった剣を渡し、

アグニスから竜と共に逃げた人間と聞かされ、

挙句の果てには姫と共に国を変えると言いだした。

自分の見立てを軽々と飛び越え空を飛ぶ鳥のように感じた。

 それは前王を見るようだった。

そしてここでの別れ際での短い言葉のやりとり。

前王の元では決して得る事の出来なかった、

信頼と信用、そして再会の約束、

それら全てが詰まったやりとりだった。


 ダンディスにはそれだけで十分だった。

思い返せば、自分は人と心を通わせたかったのだと思う。

戦場では背中を任せるものなど誰もいなかった。

唯一心残りがあるとすればそれだった。

 それが叶った。

王やアグニスとは身分の違い、リードルシュとは職種の違い。

だがコウにはそれが無い。

軍人としてなら隔たりはあったと思うが、

今は一市民で同じ立場だった。

他人のしかも他国の為に、命を掛けた戦いを挑む無謀な男に

対して、今は思う所が多い。

 ただアイツが望んでいるのは、偉い立場や身分ではない。

元の冒険者に戻ること。

そんな小さな望みを叶える為に戦う男に、任された。

それだけで満たされていた。


「お前は何のために戦っている?」

「ワタクシは阿鼻叫喚が見らレルのでアレば、

主は問いマセン」

「だから弱いのか」

「何デスか?」


 ダンディスの攻撃速度が更に上がり、

ザシュっという音と共に、

レッサーデーモンの腕が無くなっていた。


「な!?」

「決定的な違いだ。誰に背中を任せられたかで、

強さは決まる」

「馬鹿な……そんな事ごときで」

「命を掛けて戦う時に必要なのは、大概そんなものだよ。

最初は金の為、名誉の為、立身出世の為。

だがこの戦いにはそんなものはない。

この戦いの主はな、平凡な冒険者の生活を過ごす為に

戦っているんだ。あまりにも馬鹿馬鹿しくて、

いっそ清々しい。対価として成り立っていない。

味方も少ない。俺を頼りにして背中を任せてくれた。

だからこそやってやろうって気にもなる。

そして相手が魔族なら、俺が全力を出しても

困らないだろう?」

「くそぉ!」

「どうしたよ。腕一つ飛んだくらいで

余裕が無くなってるぞ?」

「おのれぇええええっ!」


 レッサーデーモンはおのれの腕を拾い、

くっつけるとリードルシュの所へと向かった。 

上位魔族を押し返し、追い込んだダンディス。

最後の悪あがきに出たレッサーデーモン!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ