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無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
無職のおっさん戦国記

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軍師たちの差

 シンラとカムイとの話を終えて、

俺は通常業務に戻る。

まだ初戦の準備が忙しいため、

俺に報告が上がる出来事で、

大事になる事はなかった。

街を視察して回るが、皆懸命に

働いていた。これが崩れるとすれば

やはり統治が行き届かなくなった時だろう。

良く言えば大らかで少しずる賢い。

人が良くないという点は、

誰しもが飢餓状態になれば

そうなる。本性と言うより本能だろう。

 この大地全体が豊かになれば、

それこそ今と違った一面が出てくるに

違いない。恐らくその頃には俺はここに居ない。

それは彼らの問題になる。

ガンレッドをはじめヨウトやシンラ、カムイ。

まだ十代の彼らが導く。

俺としては今回の戦いで、新たな人材が

生まれるのを楽しみにしつつ見守っている。


「納得できません!」


 次の日の昼過ぎ。

ヨウトが王の間に飛び込んできた。

シンラとカムイが止めようとしていたが、

俺は二人に良いと言って控えさせた。


「分かっている。が、経験からして

今回の役割をあの二人もやりたいと思っている

から、変わりたいなら変わるか?」


 そう、あの二人も俺から命じられれば

オンルリオについて実戦を経験したい気持ちは

当然あるだろう。何しろ軍師としての実戦の経験は無い。

卓上での戦術戦略の組み立てが出来ているだけだ。

自分が考え立案したものが、どう動くのか。

それを見たくないわけではない。


「正直な話、ヨウトはシンラカムイと比べて

穏やかな道を歩んできたように感じた。

個人的な考えから激戦ではない、まだ穏やかな

波の少ない海から経験してもらおうと考えたのだが」

「あ、有難き幸せ」

「それに難しいかもしれない。カムイたちから

聞いているかもしれないが、オンルリオも中々だ。

若いからかどうか、そこも見極めてコントロールして

貰わなければならない」

「コントロール」

「そう、操縦だ。矢倉車の操縦も馬も、操る人間側に

よって良くも悪くもなる。人を物と同じには見れないが、

指導するものは得てしてそう見られる。

今回の作戦の肝は、制圧して当たり前、穏やかに統治して

当たり前の作戦と言う点にある。

恐らくそれを皆知って、オンルリオも心得ている。

そこから出る焦りが、慢心が、隙を作る。

不測の事態が起きればどうなるか」


 カムイとシンラが両手をお盆を持つような

位置に出し、掌を下に向けて上下させている。

みなまで言うな抑えて、と言う事か。

しかしこの二人兄弟みたいな意思の疎通をするなぁ。


「わ、私はオンルリオ殿付の軍師になるわけでは」

「無い。それこそ前線にはならない領地だ。

かと言って適当にする訳には行かない。

内政官などの配置は当然する。要は下準備も

やってもらいたいからこそとも言える。

終われば帰還してもらうし、前線での作戦を

考えてもらう。統治に関してゼロから学べる

良い機会だと思う」

「……必ず、お約束頂きたい」

「分かった。なら書類にして渡す。

ただしオンルリオには見せない事。

そしてこの作戦で新たに大事な事を追加する」

「何でしょう」

「お前の勘で良い。危ないと思ったら即俺を呼べ。

ハンゾウの部下も付けておく」

「宜しいのですか?」

「ああ。今目的を共有したヨウトなら、

くだらない事で俺を呼び出したりしないだろう?

そして感じても居るはずだ。だから俺のところに

殴りこんできたんだろ?」

「な、殴り込みなど!」

「良いから良いから。兎に角一等はヨウト、

その次にシンラカムイ。軍師として三名

俺がスカウトした人材だ。そのヨウトを付けたのに、

更に軍師を所望するとは失礼だよな?

分かってるって。ただそういうことも、戦時でなければ

分からなかった事だ。だから目を見開いて見て来て欲しい。

オンルリオに一番槍を任せたのも、

イシズエに行かせないのも意味がある。

ノウセスが将軍職の初陣として今回の件に

当たらないのもまた同様」

「陛下」


 先生から止めの声が掛かってしまった。

俺は口に手を当てて黙る。それに対して

皆頷いた。と言う事はヨウトも分かったはずだ。


「まぁ聞かなくても分かってくれたとは思うが、

感情的に分からない部分もあったと思う。

そこは俺が間違っていた。許して欲しい」

「そ、そんな」

「いや間違いは間違いだ。正さなくてはな。

だがこれを全ての人々にしていく訳にもいかない。

それこそ重臣ともなれば、逆に意を汲んで

他の者に伝えていかなければならない」


 それを聞いてヨウトはハッとなった。

シンラとカムイは書類に目を落とす。

彼ら二人はその体型や容姿などから、

渡り鳥のような生活をしてきた。

だから色々なものを見てきている。

酸いも甘いも。俺が今ヨウトに話しているような

内容は、彼らからすると教えられる前に

会得していた、一般常識に等しい事であり、

それを踏まえて腹を括って仕えてくれたのだ。

 一蓮托生、命を預ける覚悟で。

苦情や不平不満を言うのであれば、

自ら去るか斬られて当然。

それは苦言でもなんでもないからだ。

そういう事を忘れさせる俺の人柄というか、

元々引き篭もりのおっさんなのに、

そこまで懐いてくれて嬉しくはあるんだけどな。

 ただ難しいところで親しみと侮りは違う。

本来なら登用の経緯からしてもクビになっても

おかしくない事だ。

 こういう事からも、今回の作戦にはカムイシンラは

混ぜていない。軍事においてはオンルリオは実戦がない。

ヨウトにおいては荒波に揉まれた経験が少ない。

運が良かったとも言う。そこの差が少しでも

今回で埋まれば良いなと思っている。


「ヨウト、下がるが良い。これ以上陛下の

お言葉が必要なのか?」


 ナルヴィが書類を抱えて入ってきた。

シンラカムイは立ち上がり頭を下げた。

それに頷き俺の下まで来ると、ヨウトと俺の間に

割って入った。


「も、申し訳」

「謝罪は要らん。お前もシンラやカムイより

長く陛下に仕えているというのに……。

今度の戦で示すのだぞ?

お前の信がどれほどのものか」

「も、勿論で御座います!」

「おいおいそんな気負わせたら

判断が鈍るだろう」

「鈍るなら斬るまで、で御座います。

陛下に申し上げましたな最初の頃に。

泣いて馬謖を斬る事もある、と。

オンルリオのみを斬る事を想定して

居られるようですが」

「分かった分かった。

取り合えず一人で考える事には

限界があるし、間違いもある。

俺もそうであるからこそ、他の視点

が必要だからヨウトやシンラ、カムイを

おいているんだ。聞く事を恥と思わず

聞くべき事は聞いてくれ」


 ナルヴィもシンラもカムイも

明らかに甘やかしすぎだと言わんばかりの

顔をしている。良いじゃないか少しくらい。

今だけだ。親離れ子離れすることもあるだろう。


「はい! 失礼しました!」


 ヨウトは元気よく返事をして、ツッパリを見せて

退室した。前向きに食い下がるのは最初に見せた

ヨウトの良い所だ。そこが良い面として出てくれれば。

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