開戦前日
「任せてよ。次はしくじらない」
「しくじったというよりは、相手が旨くやった
のと、抑止力的なものが働いたのか」
「文明の加速による代償だと?」
「メソポタミア文明レベルではないにしても、
一度滅びかけたところからの復興速度とか
整備の早さが抵触したのかも知れない。
と言ってもあっちは俺の味方に近いから、
オーディンの干渉を全面的に入れるまでには
至ってないと思う。巨人族だって馬鹿じゃない。
以前の文明は俺より良いシステムを成していた
可能性は大いにある。そしてその基盤が
DNAとして刻まれていたからこそ、
ウルシカであったりこの国の人たちが、
俺の施策に即座に対応したんだろう」
「なるほど。君と言う要素が大きすぎたが、
元々あった彼らのポテンシャルがあるからこそ、
この程度の事で済んだって事か」
……と思ってはいるが、
恐らく俺が考える以上に何かペナルティが
発生する可能性がある。最も他の国が
同じレベルで復興発展すればその限りではないが。
俺は方針を定めて皆の創造を促し、
脳を刺激したに過ぎない。
元々持っているポテンシャルが、
ここまでに昇華したんだ。
元々引き篭もりなので全てをこなせる筈もなく。
これまでの道も色々な人の助けを借りてきたし、
それは今も同じ。
「まぁ結局はいつも通りって事で」
「なんだそりゃ」
「さて、そろそろ俺の相棒を返して欲しいんだが」
「……それは君の奥さんたちと相談したら?」
「奥さんて誰よ」
「心当たりのある人たちと」
やり返してきたつもりだろうが、そうでもない。
きっと相談したとしても二つ返事で
オーケーしてくれるだろう。
「じゃあ早速取り掛かろうか」
「任せてよ。ナルヴィも何が起こるか分からないから、
彼のことくれぐれも頼むぞ?」
「言われるまでもない事で。父上もどうか
任務を必ず果たしてくださるようお願い申し上げます」
元々仲が良いとは思っていないが、
形の上ではしくじったロキに冷たい。
特に横に居て黙って立っているが、
明らかに冷たい。お父さん可哀想……。
それからロキは直ぐにハンゾウの部下たち数人を
引き連れてここを離れた。俺は朝御飯を皆と囲む。
最初のうちジーっと顔を見られているのがどうにも歯がゆい。
何か聞いても答えが無い。ナルヴィから例の件は
聞かないのが良いと言われたので黙っているのが
問題があるのだろうか。
それから昨日の祭りの話題を振ると、
賑やかな場になった。良かったわ。
朝食後、祭りの次の日ではあるが、
皆元気一杯だ。工房は湯煙を上げ、
畜産局も馬の育成に精を出していた。
兵士局では一時雇用を停止し、
オンルリオ指揮で西の領土の攻略に向け
編成を始めている。
どうにか一年掛けずに足場を固められ、
領土を広げ接敵する前まで歩を進められそうだ。
これ以上掛ければ穴熊を決め込む風潮が
出来てきてしまう。なのでこないだの
大使たちの演説は実に助かった。
「陛下」
「イシズエか、どうした?」
「必ず戦場へは私をお供に連れて行って
くださいますでしょうな」
「勿論。イシズエの差配には満足している。
言い方が適切かどうかはなんだが、
移動要塞のような陣を俺の周りでは常に
形成し、何処へ移動しようが即座にそれなりの
陣容を整えられ統治を可能とする者を
選抜するつもりだ」
「はっ! 私めもその中に入れて頂けるのは
光栄の至りでございます」
「二度も三度も同じ事の内容にな?
本来はガンレッドもおいて行きたかったが、
二人とも戦場は経験しておくべきだと
きかなくてな……」
「も、申し訳ございません」
「良い良い。イシズエもこれでかっこ悪い
真似は出来ないしな。それに戦術レベルでは
俺は基本遊撃だ。長くそこに留まる場合は、
その部隊のフォーメーションを変える。
この本国は要だ。落とされる訳には行かない」
「確かに。オンルリオ隊に西の統治もお任せになったのは
今後を考えての事ですかな?」
「そうだ。後進を育てる。あの二人の資質はある。
失敗しても俺たちが控えているんだ。それに
今は失敗しても支えてやれるが、この先
そうは出来ない。独り立ちには頃合だと思う」
「他の将は如何でしょうか」
「親衛隊から何人か。正直この先に競り合いで
その指揮を見せてもらうより他無い。
それほどオンルリオのパイプ役としての
動きが素晴らしかった。人臣を一新するとまでは言わないが、
俺が新しい芽を探していると分かれば、
またその先があると期待したなら自分から動くだろう」
正直仰々しい部隊を俺のところで編成するつもりは無い。
ただ兵も人も無限ではなく、必勝を期しても損害は出る。
第一戦闘に勝利してもそのままその街を統治出来るだけの
余裕が生まれる気がしていない。
その為のバックアップ部隊でもある。
俺が一番槍をやりたいのは当然あるが、
そんな我侭を言える状態ではない。
俺の部隊にはイシズエとガンレッドの他に、
医療班としてエメさんや調理班の恵理、
呪術や地形などの班でリムン。
兵士たちの統括は親衛隊の二部隊、
工作班諜報班も連れて行く。
この部隊に関しては、人数は誰にも知らせていない。
と言うのも、例の三千五百には入っていないからだ。
あれは備蓄を割り当て維持できる戦力。
俺の部隊は基本備蓄を最低限にして動く。
瞬発力と機動力が一番求められる。また統率力も。
あまり喜ばしいやり方ではないが、
俺に対して忠誠心が最も高い人間のみで構成している。




