引き篭もりの考る事、至る場所
その後何事も無かったように、
四人と過ごす。夕日が沈んだ後
移動しようとしたが、リムンに引き止められた。
暫くすると夜の空に、ジワリと光が
模様を描いて浮かび上がった。
「おー! これは凄い!」
「凄いだのよ! おっちゃんが勧めてくれた
巨人族さんたちの昔の本とか集めてて、
おばあちゃんおじいちゃんから聞いた話を
纏めてた時に、こういう魔術があるって聞いて
やってみたかっただのよ!」
「凄いなぁリムンは」
俺が頭をわしゃわしゃ撫でると、
照れてはにかんだ。食料難などでこういった
娯楽に近い技術や技能は廃れて言ったに違いない。
日本でも同じだった。厳しくなればなるほど
スマートで効率的でない事は切り捨てられていった。
そういうものが蔓延すれば心を狭くし行き場を失う。
結局民度も何も無くなって、他人を貶める事のみに
頭は働いていく。生き残る、優秀な遺伝子を
残していく上でせざるを得ない本能的な部分なのかも
しれない。生物としての呪いが無くなった
神という存在でさえも、他でその代償行動を
取っているとすれば、もう抗いようがないのかもしれない。
「あーまた変な事を考えてる」
恵理に頬を抓られて我に帰る。
すると皆の視線が集まっていた。
「ごめんごめん。ちょっと考え事を」
「駄目だのよ! 無心で見るだのよ!」
リムンが拝むポーズをすると、その可愛さに
俺たちは微笑みあった。
そう、あんな事をずっとその場から動かず
考え続けていたら、世界を滅ぼしたくも
なるかもしれない。
元の俺もそうだった。勿論そんな力は
ないから、世界が滅べば楽に死ねれば良いと
思っていた。仮に元の世界の俺が無かった
とすれば、その願いは叶ったのかもしれない。
ただ新たに世界が出来ているが。
オーディンは何でオーディンの役を望んで
引き受けたのか……。そこを聞く事が、
恐らく彼女に会った時に出来るのだろう。
「こら!」
今度はリムンと恵理に左右の頬を抓られた。
「ほへんほへん」
「もうこれだからおっさんは」
「駄目だのよねぇ」
「ねぇ!」
二人がそう言って笑いあっているのを
見ながらボーっとしていると、
エメさんと目が合う。
「きっとその答えに辿り着いても、
それを全ての人に与えて納得させる事は
恐らく無理。それをしようとしたのが
オーディン。人の一生は短い。
考える事が出来る故に、皆違う。
どれも正解でどれも不正解。
答えは其々の中にしか無い」
エメさんの言葉に頷く。
結局のところ全てが同じで平等で幸せである事は
無理なのだ。それは野生の動物であれば
当然のこと。人だから皆同じであろうと
悲しみを薄めようと考え努力が出来る。
本能から先に進む事が出来る、人としての長所だ。
そう考えると竜人たちのあの危機感の無さも、
彼らが最強に近い域もであるが故の
行動なのかもしれない。
もっと長く付き合えばその考えを知れたのになぁ。
「皆さん、難しい話はそれくらいにして、
街へ出ましょう! 今日はお祭りです。
明日か嫌でも難しい話をしなくてはなりませんから、
今日ぐらいは楽しみましょう!」
ガンレッドのハンドクラップで
皆返事をして街へ繰り出す。
色々なお店をみて、皆に俺の小遣いから
色々な物を買ってあげた。
最初は遠慮していたが、
「王様だからお金あるし皆に還元しないと」
と言った所、皆笑顔で欲しいものを
次々と言ってきた。女の子の買い物風景を
始めてみるが、中々長い。
やがてナルヴィを始めいつもの面々が
集まり、荷物を皆で抱えて城に戻る。
最終的にナルヴィから皆に
ほどほどで祭りを切り上げるよう伝えられ、
祭りの火は静かに消えていく。
俺たちは湯浴みした後、久しぶりに
皆で眠りについた。ただし遊びつかれて
何を語る暇も無く寝についた。
「王、お目覚めですか」
「今な。で、火急の用件か」
「はい」
声によって目覚めた。
皆はまだ眠っていた。
俺はゆっくりと寝床を後にする。
着替えをしてマントを羽織、
ネルヴィと共に王の間へと上がる。
そこにはやはりロキが居た。
やはりというのは、昨日のフリッグさんとの
会話に基づいたものだ。
「どうやら知ってるって顔だね。
気に入らないな」
「お互いにな」
「後から三人も来る。処罰は任せるよ」
「処罰しようも無い。全知全能であらせられる
訳でも無い」
「嫌味が厳しいね」
「そうか? 驕る平家は久しからず、かなと」
「知らないうちに慢心していた、と」
「豊かで満ち足りていたしね。
自分の足元をコンクリートばりに固める事に
集中しすぎたっていう俺の反省でもあるよ。
相手が余裕が無く、力押しで簡単に攻め落とせると
踏んでいた所もあるし。上から目線ぽかったし。
皆で戒めよう」
「後で皆にも言ってくれ。身が引き締まる」
「分かった。で、報告の詳細を」
ロキの報告は簡潔だった。
各国の王が変わって国が立て直しつつある事、
人事の刷新が行われているの一番大きい事が
伝えられた。
「そりゃ二人は人の上に立ってた人だから
それは分かるけど後一人は」
「それが分からない。極力表に出ないように
隠しているらしい」
「名前くらいは分からないか?」
「申し開きようも無い」
そうロキは言って悔しさを滲ませていた。
俺は予想出来ているが、何故そうなれたのか
その過程が分からなかった。勿論彼の以前の
感じであれば、持ち上げられてしかるべしなのは
容易に想像がつくけど。
「アーサーも結局は名の通りの形に落ち着いた訳だ」
「……随分と理解が良いね」
「だってそうだろう。アーサーだよアーサー。
嫌でも人の上に立つだろう。フリッグさんも元々
神々を束ねていた人だし今回の事件の首謀者側だ。
幾らオーディンの恩恵を受けられないとはいえ、
彼女の能力を大幅ダウンさせるほどではないだろうし」
「で、コウ王としてはどうする?」
「攻めるのになんら変わりは無い。
時間をずらせばずらすほど、有利が無くなっていく。
アーサーも俺を引っ張り出す為に苦渋の統治。
フリッグさんはこの結界を維持する為に混沌を
継続させるための支配。恐らくウルシカのフロストは
担ぐ神輿の代わりが見つかったんだろうと
勝手に想像する。で、ロキには裏付けを頼みたい。
こっちは周辺を確保するのに今は全力を傾ける」




