表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無職のおっさんはRPG世界で生きていけるか!?  作者: 田島久護
無職のおっさん戦国記

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

384/570

祭りの王と、天の女王

「コウ、何してんの?」


 俺が書類を纏めつつ、

策について書いていると

恵理の声が聞こえる。

顔を上げると恵理が居た。


「あれ」

「どう?」


 恵理はくるりと一回転した。

鮮やかな色で染められた、

日本の着物のような浴衣のような物を

羽織っている。


「流石に帯は分からなくて。

少し太めの紐で縛ってみたけど

どう?」

「おう。とても似合ってるし綺麗だ」


 髪留めに赤い花のようなものを

あしらった物を付け、それが

着物のようなものの紺色の生地を

鮮やかにしている。柄は紺より明るい

色で、葉をイメージしているものが

ちりばめられていた。


「わ、分かれば宜しい!

さぁ行きましょう!」

「どこへ?」

「どこへって……自分で言ったじゃない

今日は祭りだって」

「いやそれは俺以外の」

「良いから早く!」


 俺は筆を取って再度書き出そうとしていたが、

丁寧に俺の手から恵理は筆を取り、

手を引っ張った。正直抵抗したい気持ちもあったが、

恵理はよくやってくれてるし、

王様が休まないととも思ったので行くことにした。

階段を下りると多くの人間が集まっていた。

 恵理が皆にお祭りに行きましょうと声を掛けると、

皆歓声を上げて外へと出た。どうやら主だった重臣は

皆俺の様子を伺っていたようで、悪いことをしたなと

思った。更にガンレッドとリムン、エメさんも

恵理と少し違う配色だが似たような鮮やかな着物に

身を包んでいた。彼女たちに押され引かれて城下町へ

出て行くと、色鮮やかな露天と賑わいに、

目を奪われた。誰も彼もが笑顔で飲み食いしている。

豊饒の土地を得ながらも、どこか寂れていた城下町が

今は見違えるように活気に溢れていた。

明日を生きようとする人の意思による結晶。

俺はこの結晶を守るだけでなく、更にこの大地に

広げる為に戦う。例え恨みを買うとしても。


 その後恵理たちと賑やかな町を練り歩く。

皆気を使ってくれ、挨拶のみでおさめてくれた。

ただやはり少しは敬礼や拝むような人たちも居る。

変な宗教にならなければ良いなと、少しだけ思った。

有り得ないだろうけど。あの悪趣味な紙幣を見れば。


「どう!」


 夕方に差し掛かると、恵理たちに手を引かれ

城の俺があまり行かない方へと案内された。

そこは陽が海に落ちていくのが見れる、絶景の場所だった。


「これは中々良いね」

「でしょ!? フェメニヤさんに教えてもらっただのよ!」

「自然が綺麗」

「母のお気に入りの場所です」


 陽が暮れていく様子を五人でただジッと見ていた。

こうして五人でのんびりするなんて、最近全く無かった。

ガンレッドも最近は子供たちの教育方面で八面六臂の

活躍をしている。リムンは図書館を作って古い書籍を

集めたり、呪術に関しての資料を作ったりと忙しい。

エメさんは病院と自然開発局の行ったりきたり。

皆と必ず俺が約束していることがある。

それは三食は何が何でも一緒に食べること。

これだけは俺が死守している事だ。

その時だけは重臣もほぼ居ない状態になる。

途中のおやつの時などは、あまり会話が無い

重臣たちを招いたりするが、朝昼夜ご飯は遠慮して

貰っている。


「皆、ありがとう」

「……何? 急に」

「いやホント助かってるよ。

王様になって偉くなった気分でずっと居ると、

忘れそうになることがあってさ」

「そうだのよ。おっちゃんは冒険者だのよ」

「そうそう。王様なんて柄じゃないんだよな。

でも冒険者に戻る為には、この大地を救わなくちゃ」


 そう、オーディンによる命の、運命のコントロール。

それを開放して誰の手によるものでもない生を

俺は取り戻したい。きっとそれは残酷になるかもしれない。

非情になるかもしれない。だが自分の力によって

切り開ける可能性を秘める。オーディンによって決められた

生や死ではなく、自らで掴み取り得るものに。


「それが貴方の選択なのね」


 その声はとても久しぶりに聞く声だった。

気付けば世界は真っ白。これも懐かしい。

だが今はあの世界に俺を連れて行くことは出来ない。

何故ならこの大陸をオーディンが自ら隔離しているから

干渉できない。更には黒隕剣もある。


「お久しぶりです」


 目の前に現れたのは、深紅のドレスに

映えるような真っ白な肌、そして大地を

吸い上げるが如き長い髪と整った顔立ちに

宝石のような瞳。その瞳に怒りの色は無かった。


「恩を仇で返したとは言わないわ。

ただしこれ以上はやらせられない」

「ならどうしますか? ここで俺を殺しますか?」

「出来ないわね。今は私も貴方も思念体。

宣戦布告くらいしか出来ないわ」

「……なるほどアーサーといい今度は貴方が」

「ええ。元々巨人族には良いイメージが無くてね」

「仕向けたのは貴女が?」

「事実を言ったまでよ。巨人族を封じねば

彼は死ぬ。そこから更なる苦しみが彼を襲う。

役が終わったことで死ねるとは限らない」

「更に止めを刺しに? ここにはバルドルも居るはずだが」

「……そうね。あの子の事、貴方にお礼を言わなくちゃ」

「ロキのしようとした事ですか」

「それだけじゃないわ。私からしたらそれだけでも

貴方と貸し借りなしになるくらいに嬉しい事なんだけど。

でも、いいえ、だからこそ。イーブンになったのだから

恨みっこなしに私も混ぜて欲しくてね」

「それは困りましたね……」

「最後に感謝の意味を込めて忠告しに来たの」

「どんな事でしょう」

「貴方は容易く統一しようとしているかもしれないけど、

危ないわよ? もう元の王様は居ない。

貴方のお陰、いえ貴方の所為でこの大地は変わった。

それを直ぐに知る事になるわ」

「随分と親切ですね……」

「それくらい私たちの本当の息子を助けてくれた事に

感謝しているし、私と直接当たるまで死んでもらっても困るの」

「自分の手で俺を殺すと?」

「さぁ……でも頑張って私の元に着なさい。

勘の鋭い貴方なら、私が何処にいるか分かるはずだわ」


 優しく微笑みながら手を彼女が振ると、

世界は徐々に色を取り戻していく。


「本当に有難う。私が生んだ本物の息子の事、

どうか嫌いにならないであげてね?

あの子は落ちこぼれを気にしているようだけど、

それを補ってあまりある光を持っている。

それはあの人が元々持っていたものを受け継いだ」


 そう一言残して彼女は去り、世界は元に戻る。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ