出陣についての方針
会議は解散したが、俺は今まで報告が上がっている
資料に目を通した。兵の数や今の経済状態、
兵糧の備蓄に武器の貯蔵と軍馬の育成。
ある程度は皆に任せているが、それでも
俺も少しは知っておかないとと思ってみている。
事ある毎に上がっているが、
それを月ごと更に三ヵ月、半年で纏めてある。
半年間の状況を纏めたものから見ていく。
兵糧は初期に比べて実のところ大幅に改善した
訳ではない。何しろ人口が倍以上に膨れ上がっている。
石材の加工技術も上がり、建設は国で運営しているので、
まだまだ国が強い。そして俺たちも皆に紙幣を使って
流通させ循環させている。住居から病院、取り締まる
軍警と商人会に農協。経済を支える大事な点も
十分機能している。また各国組合も今回の事から
かなり厳しい目で見られるだろうが、今のところ
妙な要求や出費は無い。
だがただそれだけで危機感の無さは
報告書の実情とはズレた内容に現れていた。
特にノウセスの組合は酷く、
どこそこの祭りに組合が出資しただの、
寄り合いで愚痴を聞いただのと王様に提出する以前の問題だ。
それに鍛錬の内容も秘匿なのだろうが、
全く書かれていない。子供に渡す授業表レベルだ。
正直ノウセスを置いていなければ即刻潰している。
今回のノウセスの将軍職格上げは、
実のところ最後通告でもある。
あくまでもこの国の他国であり続けるなら、
要職から全ての人間を排除する。
利益は欲しいが利益はやらないなんて話は無い。
この後出てくるであろう書類が全てだ。
「王、失礼致します」
「ナルヴィ、どうした?」
資料に目を通していると、ナルヴィが戻ってきた。
相変わらず人気者で俺以上に忙しい。
「いえお祭りでありますので休まれては如何かと」
「ああ後でな。ここから忙しくなる。書類に目を通して
おかないと。恐らく処分を下していく事も多いと思うし」
「ならお手伝いを」
「有難いがナルヴィこそ祭りを楽しんでくれ。
この後はお互い八面六臂の活躍をするつもりで
動かなければならないしな」
「ノウセスたちの動きが気になりますな」
「ああ。ただし少しだけ野放しにしている。
今はハンゾウにも言って休ませているしな。
里の者たちにも今日は物資を持って言ってもらっている。
何れ俺から直接伝えようとは思っているが」
「個人的な感想を述べても宜しいでしょうか」
「どうぞ」
「王が思うほど、国民は彼らを信用も信頼もしていませんが、
恨みや怒りを持っている訳ではありません。
度が過ぎる処分や褒美を与えては、
要らぬ混乱を招くのではと」
「確かにな。ただしそういうものは
いきなり出てくるものじゃない。
それこそ真綿で首を絞めるように、ゆっくりゆっくり、
そして徐々に徐々に知らないうちに
潜んでは積もっていく。後に少しの切っ掛けで大炎上。
修復し得ない恨みを互いに抱いてからでは遅い。
何より信用も信頼も出来ない集団が近くに居て、
疑う必要のある事が出てきた場合、誰を疑い疑心を膨らませるのか。
それもあって俺は組合と自浄作用を期待したんだがな」
「今回の演説の件でございますね」
「ああ。組合の仕切りを任せたが、やはり三人は別の事も
見ていたので仕切りきれなかったのだろう。
あれをここまで野放しにし元々居た国民の
怒りを計れなかった時点で、今の組合のトップは
俺なら処罰している。どうするかは三人に任せているが、
ノウセスは将軍だ。隊長とは訳が違う。
場合によっては統治もしなければならない。
現状外交から開放した手腕をどう発揮するかで、
名ばかりになるのかも決めたい」
「軍事専門という事もありえる、と」
「いじけて穴熊を決め込む国民性を
ずっと続けたいというならそれも仕方ない。
それはそれとしてそのまま下についててもらう。
だがそれまでだ」
「申し訳ございません。そういった事は
我が役目であったものを」
「いやいい。俺の見ていない側を懸命にフォローして
くれているのは、俺としては今後を考えても有難い」
「……今後とは?」
「どうしても俺は前線に出る。アーサーの件もあるし、
ここは誰に任せても良いレベルになっているからな。
他の国の住民も、祖国の回復で戻る可能性があるから
より統治しやすくもなる。そこでナルヴィが
支持を皆から得ていれば、一番キモとなる首都である
ここが磐石になり、安心して足場を固めながら移動できる」
俺がそういうと何か言いたげだったが、
首を振って追い払った。
組合に関してはこの後の書類を見て判断。
兵糧は微増。養える将兵はざっと三千五百。
錬度は実戦経験が少ないので微妙だが、
形にはなっている。
敵に関していえば、この国近隣の
元の領主たちについては特に連絡が無いので
俺から状況説明と制圧をする旨を伝える。
商いでの交流はあっても、こちらに組するとは
聞いていない。イシズエに聞いても
全く音沙汰が無くて気味が悪いという
事を言っていた。これに関してはウルシカと
ハンゾウ、ロキからは
どうもピントがずれているようだと言う
共通の報告を得ている。
併呑してそのまま国境まで駆け上がり、
砦を気付く。仮砦は直ぐに組める。
何せ俺がここに来て初めて提案した
例の矢倉があるからだ。
本国からの補給線の確実な確保と整備。
先ずはここを一月以内に確実に作る。
兵に関してはノウセスのフロスト方面に
錬度の高い兵と軍馬を配置しつつ、
本国に五百、残りを三つに分けて配置。
ノウセスの部隊は総数にしておよそ百。
その周りを我が国の錬度の高い兵を配置し、
万が一に備える。




